『名探偵コナン』諏訪道彦プロデューサーに聞いた「大ヒットの理由とこれからのコナン」
(C)2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
2017年4月15日(土)より公開中の、映画『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』。5月末時点で、興行収入63.5億を超えるほどの大ヒットで、シリーズ歴代記録を更新しています。
そんな今作の立役者、諏訪道彦プロデューサーに、今作のヒットの裏話や現場のお話を伺ってきました。
──まず、『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』が大ヒットとなっていますね。ファン目線では昨年の題材(黒ずくめの組織)が強すぎたため、見る前は不安もありましたが、評価も興行もとても良いものになっていますね。
諏訪道彦さん(以下 諏訪) 昨年の「純黒の悪夢(ナイトメア)」は映画20周年ということで相当力も入れていましたし、興行収入50億円を目指そうと、新しい施策も様々行いました。例えば、物語の根幹になっている黒の組織や、比較的新しいキャラクターの安室透を多く出したりと。ストーリーやキャラクターの人気など、様々なものが功を奏した結果だと思っています。
(C)2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
今作『から紅の恋歌(ラブレター)』は初週2日間の成績が昨年を超えて、100万人近くの動員となりました。これは想像できませんでした。うれしい誤算でした。
うれしい誤算はありましたが、それをどうしてか考えると、映画は20年目で、アニメは22年目、原作の連載は24年目なんですね。その中で、初期のファンが卒業しない傾向が出てきたんです。
子供の頃に観ていたアニメも10年経つと卒業するものだと思います。僕だってそうでした。なので、10作目『探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)』の時には、初期のファンに向けてカムバックキャンペーンをやったくらいです。人気の探偵たちをたくさん出すことで、また観たいと思ってもらおうと。
その後はこちらが考えている以上に、お客さんが卒業していない印象があります。さらに、小学生がニューカマーとして入ってきています。少年探偵団を毎回ポスターに出すのは、同年代の小学生に向けての意味合いがあるんですよ。
(C)2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
そうやって、卒業しないファンと新たなファンが積み重なっていく。それが「コナン」という作品の特徴で、ヒットの要因かな、と思います。
また、観客のデータを見ると、今作は7割くらいが女性。特に、小さい頃から「コナン」観ていて、他のアニメは卒業しても「コナン」だけは毎年観る、という方が多いんです。そういう方が、(服部)平次と(遠山)和葉の人気を支えていて、今回の大ヒットに繋がったのかもしれません。
── 「純黒~」の最後で平次の声が流れたとき、映画館がざわつきました。平次の活躍に対する、ファンの期待を感じました。
諏訪 17作目の『絶海の探偵(プライベート・アイ)』のとき、平次は事件の舞台となるイージス艦に乗らなかったので、メインでの活躍は久しぶりでしたね。
青山剛昌先生もコナンの原点は「コナン」の味は“殺人ラブコメ”と仰ってまして、その原点に返ることにしたんです。本来なら新一と蘭のラブストーリーを、となるんですが、今回は西の高校2年生である平次と和葉をメインに据えたんです。
また、ちゃんとしたミステリーにラブコメを融合させて、お客さんにしっかり満足してもらえるものを目指しました。
僕はミステリーとしての深さをいつも気にしていますが、今回はかるたのトリックなどが、実際はもう少しボリューミーでした。泣く泣く削ったところもあるけれど、ぎゅっと縮めたことで、展開にリズムが生まれたので、結果としては良かったかなと。
(C)2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
「純黒~」がヒットする前から、次は平次と和葉のラブコメと決めてましたが、そんな折、1~19作目までの好きな作品をひとつ観られる「純黒~」の入場者プレゼントで、一番人気が7作目の『迷宮の十字路(クロスロード)』でした。これも関西が舞台で、平次と和葉のラブロマンスがある映画なんです。それもあったので、「から紅〜」が悪い結果にはならないかな、とは思ってました。ただ本当に、ここまでヒットしたことには驚いてます。
(C)2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
「純黒~」に登場した赤井秀一と安室透が人気というのは、わかるんですよ。青山剛昌先生のガンダムリスペクトにより、『ガンダム』のキャラクターになぞらえた名前で、声も本家の声優さんたちにやっていただいて。だけど、今作のふたりの人気は本当に意外で、「そんなに期待されてたの?」って(笑)。また、19作目の『業火の向日葵』では、怪盗キッドも活躍しましたし、コナン以外でも主役を張れるキャラクターが増えているのはうれしいし、すごいことですよね。
── 他のインタビューで、諏訪さんはTVアニメが軸とおっしゃっていましたが、そこはいかがですか。
諏訪 僕自身テレビの人間ですし、様々な仕事がある中で、同じ作品をずっと手がけられるのも稀なことだと自覚しています。それだけに自分で積み上げたもの、毎週放送する作品への責任と努力は必要だなと思っています。だからやっぱりテレビが軸なんです。目的地が同じ大阪だとしても、テレビがJR東海道線なら映画はJR中央線みたいな感覚ですね。
最初にナレーションがあって、最後に「Next Conan’s HINT」が入るようなテレビの形を映画でも使っているし、僕としては、テレビアニメがベースフォーマットだと思っています。しかし、それは視聴者にとってもリズム良く伝わるように、青山剛昌先生の原作の面白さとオリジナルの面白さの両立をテレビで如何にやっていくのかを考えています。
一方、映画は究極のオリジナルなんですが、青山先生は劇場版にもすごく参加をされていて、青山剛昌プロデュースに、僕らが肉をつけていく感じです。
わかりやすい例でいうと、20作目のために17作目くらいから準備をしている中で、20作目はおそらく黒の組織をやるだろうと、着地地点をそこに持っていくんです。18作目の『異次元の狙撃手(スナイパー)』は、沖矢昴が赤井だと明かされる映画ですが、アニメならではの、声を使ったギミックを仕掛けるのが良いと青山先生が考案されました。
それでまず、ラストで沖矢が赤井であり、赤井が最後に「了解」と発声するということを決めました。そこから、シナリオライターさんの古内一成さんにストーリーを作って頂きました。例えば、日本人は簡単にライフルを撃たないから外国人のキャラクターを入れようとか、英語がよく出てくることから、英語が堪能な福士蒼汰さんとパックン(パトリック・ハーラン)を起用したりしました。
(C)2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
では、次の19作目をどうしよう、黒ずくめの組織が続くわけにもいかないなと。あの時は、ライターの櫻井武晴さんからの提案で、アートミステリーはどうかとなりました。それなら怪盗キッドを絡めよう、となったわけです。今作の大岡紅葉も、西の鈴木園子みたいなキャラとして元々先生が考えていたキャラですが、「から紅の〜」でやっと映画で出すタイミングが巡ってきたという感じでした。
── シリーズが続くにつれて、魅力的なキャラクターがたくさん登場していますが、諏訪さんが特に好きなキャラクターはいますか?
諏訪 最初から毛利小五郎ですね。僕がコナンに携わった時の年齢が小五郎と一緒なんです。彼は学生結婚で、36、7歳ながら高校生の娘がいるっていうのが違うところですが。保育園に通う新一と蘭の出会いを描いた「サクラ組の思い出」(2017年3月18日、25日放送)というテレビシリーズがあって、そのときの小五郎はまだ刑事なんですね。「いってきま~す!」と、家を出る小五郎に自分をオーバーラップさせたりしました。
小五郎は最近は映画で活躍しないし、すぐ寝ちゃうんですけど(笑)、でも愛嬌があって憎めないキャラですよね。神谷明さんに声をやっていただいていたんですが、長い付き合いの神谷さんが演じたというところも含めて思い入れがあります。今、声を担当してくださっている小山力也さんとも、飲みながらよく小五郎について話しますよ。そうやって仲良くしてもらえるのもうれしい限りですね。
コナン役の高山みなみさんも取材などでよく答えていますが、「コナン」のチームにはファミリー的な強さがある。高山さんを中心に、チームワークがすごくあるので、アフレコをする時は家に帰ってきたような感じ。ゲストの人が来ても、すごく包んでいるような空気感でアフレコをしていますね。
(C)2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
ひとえに座長の高山さんの力でもあるんですけど、蘭ちゃんや、探偵団、警視庁のメンバーを含めても、みんながそれぞれの立場を楽しんでいます。Twitterなんかを見てると、みんなそれぞれ勝手なことを言ってます(笑)。そういうことが言えるキャスティングや役どころで、僕らから見ても羨ましいし、ありがたい。作品の中だけでなく、外でもキャラクターを自分のものにしている役者ってとても良いなと思います。
「コナン」って、事件とかはあるけれども、嫌な気持ちにならないものにしたいと思っているんですね。絵を見るだけでも元気が出る、みたいな感じで、コナンの存在そのものが素敵なものになってほしいと。役者さんたちのそういうスタンスも、20年積み重ねてきたお客さんに夢を与えていたりするんだろうなと思っています。
── では、コナンのこれからにはどんな戦略などあるのでしょうか。新しい戦略とか。
諏訪 先生にはあるんでしょうね。先生の世界は先生しかわからないので。先生はキャラが大好きですから、きっと今回みたいに、今後もキャラが大暴れしていくと思います。赤井と安室、スコッチを中心にして、スコッチの死の誤解も解けるような展開もあると思う。
(C)2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
それに、面白いトリックを考えていかなきゃいけないですね。コナンの動きが視聴者の想像を超えると喜んでもらえる、ということもあるけれど、シャーロックホームズを大リスペクトしている「コナン」ならではの推理で、謎を解いていくことにもチャレンジしていきたいなと思います。
映画は20周年で20作、ちょうど数えで節目がリズムになっている。そこで、25年を祝うのはもちろん、毎年毎年我々が自覚をして、いいものをだしていくべきだと思っています。次はもっと良いものを、というのが今後の展望ですね。
(インタビュー:柳下修平、撮影:大谷和美)
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