映画コラム

REGULAR

2017年06月19日

『ローガン』は長い長い旅路の果ての映画だった話

『ローガン』は長い長い旅路の果ての映画だった話

■「映画音楽の世界」



(c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX


2000年の『X-メン』に始まり、17年に及ぶヒュー・ジャックマン=ウルヴァリンの長い長い旅が終わりを告げました。若い世代に次のウルヴァリン役を託し、役から退いたヒュー・ジャックマンの姿はまさしく“ヒーロー”そのもの。自身の当り役であり、以降第一線を駆け抜けてきたキャラクターとの別れに、観客の思いも特別なものがあると思います。そういった意味においても『ローガン』という映画はこれまでのアメコミ映画とは一線を画したヒーロー映画となりました。

今回の「映画音楽の世界」では、『ローガン』を紹介したいと思います。


ありがとう、ウルヴァリン


本作の監督は、ウルヴァリンシリーズである前作の『ウルヴァリン:SAMURAI』のジェームズ・マンゴールド。「サムライ」では日本でも大掛かりなロケを敢行して話題となりましたが、引き続き監督のポストを任された本作ではエンターテイメント要素を排斥。人体破壊描写を厭わず描き、よりノワールとしてのウルヴァリンを前面に押し出しました。『X-メン』本シリーズに比べればアクションも控えめに、ストーリーもウルヴァリンに照準を絞っていて、その点は過去2作とも共通しています。ただし前述のように、アドマンチウム製の爪で勢いよく斬りつければ容易く肉は裂け首は飛び体を貫くというゴア描写が、全作品を通しても異色なほど強調されているのも特徴です。

そんなレイティング規制が入るような作品で、シリーズを代表するキャラクターに1つの区切りがつくというのも意外なようであり、むしろそこまでして描きたい「ミュータントという脅威」がテーマとしてあったのではないでしょうか。同時に、大切なものを守るためには「それだけの戦いを強いられる」という現実的なパワーバランスも見せられたような気がします。治癒能力が衰え、同じく明らかに年老いたプロフェッサーXを匿いながらの生活を送るローガンの姿にやはりショックは隠せません。シリーズを長年追い続けたファンであればあるほどその思いは強いと思います。だからこそ、そんなローガンが最後に少女を守り抜こうと立ち上がる姿は哀愁感とともに、これまでになくローガンというキャラクターの“人生”を重ねるストーリーになっているのではないでしょうか。ウルヴァリンと同じ能力を持つ少女=ローラの存在感は、弱冠12歳にして圧倒的な演技を見せてくれたダフネ・キーンの好演もあり、ウルヴァリンの最後の旅を描くには十分すぎるほどでした。



(c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX


これまで危険因子として迫害され続けたミュータントの存在は、本作をもってより徹底的なまでに「根絶」という運命に直面します。果たして滅ぶべきはミュータントか人類か、そんな問いかけをするかのような容赦ない描写の連続ですが、ある意味そのテーマは『X- メン』シリーズの芯にあるものなので、マンゴールドはその芯からぶれることなく、その上にウルヴァリンとローラの関係性を重ねます。それを映画として見せるのではなく、ミュータントと人類が共存した世界の終わりをあくまでも現実的に観客に体験させることを選んでいるところに、ウルヴァリンシリーズの1つの完結を迎えるにあたって最良の選択だったのかもしれません。『17歳のカルテ』や『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』など、エンタメ映画にはとどまらない才能を揮うマンゴールド監督だからこそ“最終章”が完成したわけです。

これまであまりにも長い長い時間を生き続けたローガンが手に入れ、そして失い続けてきたものの答えをローラが与えるという構図も、『ローガン』という映画だからこそ成し得たストーリーでしょう。それは観客の誰もが望んでいたものであり、もしかするとローガン自身が誰よりも望んでいたものだったのかもしれません。



(c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX



彷徨する音楽


音楽を担当したのは、前作に引き続きマルコ・ベルトラミ。最近では『キング・オブ・エジプト』や『ロスト・バケーション』などを手掛けていて、アクションからサスペンス、ホラーまでと幅広いジャンルで活躍するベテラン作曲家です。前作「サムライ」では増上寺でのバトルからの“東京チェイス”で打ち込みを多用するなど、アクション映画ながら静かな立ち上がり、緊迫感重視のサウンドを展開。本作ではさらにサスペンスフルな深みのある楽曲を提供し、映画を支えました。どことなく悲哀を帯びた雰囲気も漂わせており、ベルトラミ自身思うところがあったのではないでしょうか。

Ost: Logan



また既存曲のヴォーカルナンバーも散りばめられ、ハリー・ロジャーの「Make It Bang」やジョニー・キャッシュの「The Man Comes Around」や、ヴィクター・ヤングによる映画『シェーン』の楽曲も効果的に使われています。またティザートレイラーで使用されたジョニー・キャッシュの遺作「Hurt」(ナイン・インチ・ネイルズのカヴァー曲)は、大きな余韻を残す旋律の哀愁感もあり、予告編第1弾にして見事なまでに『ローガン』の世界観を観客に印象付けさせることに成功した楽曲でもあります。本作では劇伴以外の音楽の采配を意識してみるのも面白いかもしれません。


まとめ


『ローガン』ではヒュー・ジャックマンと同じく、『X-メン』からプロフェッサーX=チャールズ・エグゼビアを演じ続けてきたパトリック・スチュアートの同役からの卒業作品でもあります。メインキャラクターである2人のシリーズはどうしても寂しいもの。それはミュータントすら逆らえない時の流れを観客に実感させるものであり、シリーズの転換点、あるいは到達点となる歴史的な立ち位置にある作品だと言えます。しかしそれは、そこかららまた新たなストーリーが生まれるということ。その時ウルヴァリンやプロフェッサーXを演じるのは誰か、どういった形でストーリーに絡むことになるのか、興味は尽きないはずです。次はどんな“魂の旅”を見せてくれるのか、期待して待ちましょう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

■「映画音楽の世界」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:葦見川和哉)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!