『銀魂』公開。小栗旬の座長力・主役力



(C)空知英秋/集英社 (C)2017「銀魂」製作委員会


いつの時代にも求められる問答無用の主演型俳優。

主役型俳優という人は、いつの時代にもいるものです。映画が娯楽の王様であったころには三船敏郎がいて石原裕次郎がいて、映画からTVにスターの発信源が変わっても織田裕二や木村拓哉がいます。

いつどの役で見てもその人にしか見えないという人もいますが、それでも物語を牽引し続ける、有無を言わせぬ存在感は他には代えられない人々です。そして今、その系譜に並ぶ存在が誰かと言われればそれは間違いなく小栗旬と言っていいでしょう。

“演じ手兼作り手”座長への道


小栗旬が“今の小栗旬”になったきっかけはいくつかあると思います。

最初の一歩目は大ヒットして、代表作にもなった07年の『クローズZERO』でしょう。
映画「クローズZERO」【TBSオンデマンド】



ここではそれまでとは違い同世代の俳優に囲まれた中で主役を張り、監督の三池崇とともに一つ一つのシーンを絡む俳優と念入りに作り上げていっている場面がメイキング映像で見ることができます。ちなみ第一作目ではその後も様々な形でかかわりを持っていくことになる山田孝之が“ラスボス”として登場している。ここで出ること=作り上げ行くことということを改めて意識し始めたのかもしれません。

続く09年の『TAJOMARU』は黒澤明の『羅生門』と同じく芥川龍之介の「藪の中」をベースにした作品。
TAJOMARU



作品については賛否あるものの舞台「カリギュラ」で主演した小栗の姿を見て彼の存在ありきで始まった企画でした。また、当時一線から身を引いていた萩原健一の銀幕復帰へ口説き落とすことにも一役買ったそうです。

人気コミックの実写化作品『荒川アンダーザブリッジ』では河童の村長役に自ら立候補し、さらに自分が顔を緑に塗った河童の役で出るからといって、山田孝之に顔を黄色に塗った星役で出て欲しいと口説き落としました。

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11年の舞台作品で翌年にはゲキ×シネとしても劇場公開もされた『髑髏城の七人」では森山未來、早乙女太一などを“舞台での実力は自分より上”と認めたうえで、徹底的に主演として・座長として受け止める側に徹し、作品を新しい段階に引き上げました。その実績を買われて一年三か月に及ぶ超ロングラン公演「髑髏城の七人花鳥風月」の第一弾「髑髏城の七人season花」でも主役を張っています。

12年の『キツツキと雨』では実際に長編映画の監督をした自身の体験を反映させた若手映画監督役を演じています。気が付けば小栗旬にはただの主演者、ただの出演者という枠には収まらない役割を担っていくようになりました。
キツツキと雨



また『シュアリー・サムデイ』にも出演した鈴木亮平主演『HK/変態仮面』では当初自分が主演したいというほどの入れ込みようで、最終的には出演は叶わなかったものの、脚本協力としてクレジットに名を残しています。

HK/変態仮面


脇に回るではなく、脇になる


今、小栗旬といえば空知英秋原作のベストセラーSF時代劇コミックの映画化『銀魂』でしょう。
銀魂 サブ18


(C)空知英秋/集英社 (C)2017「銀魂」製作委員会


本作ではかつてドラマで兄弟役を演じた堂本剛をラスボス高杉晋助役にはアーティスとしてのセンスを持っている人間、音楽を身に纏っている人間しかいないとラブコールを贈り、堂本剛12年ぶりの映画出演を実現させました。ちなみに『銀魂』の監督は『HK/変態仮面』やドラマ『33分探偵』シリーズの福田雄一監督で二人とも縁深い監督です。

さてその『銀魂』では菅田将暉・橋本環奈ら若手から、共演経験もある岡田将生・長澤まさみ・新井浩文、そして柳楽優弥に、歌舞伎役者の中村勘九郎といった出自もキャリアも全く違う面々を敵味方に迎えてがっちりと主演として・座長として受け止める余裕を見せています。が、その一方で『君の膵臓を食べたい』や『追憶』といった映画ではメインキャストではあるものの、主役の味を殺さずに脇役に徹しています。

過去にも主役型俳優が脇役を演じることは何度もあった、ただその時にもやはりその存在感は健在で、あくまでも脇に回っているだけに見えてしまいました。ところが『追憶』では岡田准一演じる主役の刑事の物語のキーパーソンの脇役に終始徹しています。映画の宣伝や告知物から見ると主役級の扱いですが、映画を見ればあくまでも脇役であることがよくわかります。

『君の膵臓を食べたい』は原作では一人の男子高校生“僕”の視点から語れていますが、映画では現代パートの“僕”が12年前の出来事を回顧するという、スタイルとしてはあの『世界の中心で愛を叫ぶ』の映画化のアレンジに近いイメージです。

君の膵臓をたべたい メイン


(C)2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (C)住野よる/双葉社


12年前の“僕”を演じるのが若手の注目株北村匠海、そして物語のすべての中心に立つヒロイン桜良を浜辺美波が演じています。この二人の輝きは本当に驚くほどの存在感ですので必見ですが、そうは言っても回顧役・語り役が小栗旬なわけですから、すぐにでも若い二人を喰ってしまいかねません。

本当に魅力を振りまく将来が楽しみでしかない浜辺美波と北村匠海の主役二人ですが、現時点での“まだまだ度”でいえば『世界の中心で愛を叫ぶ』の公開時の長澤まさみ・森山未來と比べても“まだまだ”です。そこに小栗旬がドーンと出てきてしまえばこの若い二人を飲み込んでしまいかねないなか、オーラを完全に消し去って、若い主役の二人を輝かせるためだけに物語の中に登場しています。

次に見せる顔はどっちか?


『銀魂』や『髑髏城の七人』では圧倒的な主役・座長として作品全体を力強く引っ張っている一方で、作品製作のスケジュールでみるとその前後に撮影しているはずの『追憶』『君の膵臓を食べたい』では完全に脇役になっている。そう、小栗旬は主役型俳優として脇に回っているのではなく脇になっているのです。そういう意味では新しい形の主役型俳優なのかもしれません。次はいったいどんな作品でどんな顔を見せてくれるのでしょう?

ちなみにドラマではそのエンディングが話題を呼んだ「CRISIS公安機動捜査隊特捜班」に続き直木賞作家で脚本家の金城一紀と組んだ連続ドラマの続編「BORDER2贖罪」。すでに河岸の向こうに行ってしまった主人公がどのような顔で登場するのでしょうか?楽しみです。

(文:村松健太郎)

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