映画コラム
『カーズ/クロスロード』衝撃のラストに賛否両論!その真の意味とは?
『カーズ/クロスロード』衝撃のラストに賛否両論!その真の意味とは?
(C)2017 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
今回は、レーシングカーを主人公にしたピクサーの人気シリーズ『カーズ』の3作目、『カーズ/クロスロード』を、初日18時の回、吹替え版で鑑賞して来た。
夜の回ということもあってか、場内に小さな子供の姿はあまり無く、学生から大人までの幅広い客層が来場されていたのは意外だった。
幸い、公開直前にシリーズ過去作がテレビ放映されたので、今回は予習万全で鑑賞に臨むことが出来た本作だが、果たしてその出来と内容はどうだったのか?
予告編
ストーリー
これまで華々しく第一線で走り続けてきたスポーツカー、ライトニング・マックィーン。気が付けば彼もベテランとなり、最新型のレーサーに勝てない時代遅れのレーサーとなっていた。そんな状況に焦ったマックィーンはレース中に無理をして大きなクラッシュ事故を起こしてしまう。世間からも見放され、自信を喪失したマックィーンの脳裏には“引退”の2文字が浮かんでいた。夢の続きか、新たな道か。マックィーンは、“人生の岐路=クロスロード”に立たされ、運命の決断を迫られる……。
その衝撃のラストに賛否両論!シリーズ完結に相応しい展開なのに何故?
本作で徹底して描かれるのは、知識や経験では埋めることの出来ない物理的な差だ。それは努力やテクニックではどうしても埋めることが出来ない肉体の衰え、そして圧倒的なパワーの差だとも言える。
同時に、全ての男性・女性が潜在的に抱いている、「老いによって自分が世界の中心から外れることへの恐怖」をも本作では見事に描いており、更に来るべき「リタイア」の時に向けての対処法をも、観客に提示してくれているのが素晴らしい!
実は今回、主人公マックィーンがラストで取る「ある選択」が、見た人々の間では非常に賛否の的となっているのだ。
(C)2017 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
ネットのレビューや感想の中にも、「いきなり主役が交代しちゃってる・・・」や、「途中で投げ出してしまうのはどうか?」など、どうも観客が期待していた様な展開では無いため、どうしても否定的な意見が目立つ様だ。
なるほど、確かに一見すると、マックィーンの選択が「勝てそうに無いから、諦めて若い才能に道を譲る」ようにも思えるのだが、実は本作の重要なテーマはこれだけではない。
そう、本作でマックィーンが言うセリフにもある通り、「引退する時を自分が決めたい」という、もう一つの重要なテーマを見失うと、単にラストでマックィーンが途中で諦めた、あるいは楽な方法を選択してギブアップした、そう受け取ってしまいかねないのだ。
昔からのライバルたちが、時代の変化や実力の低下などにより、外部から要求され自身の意に反しての引退を余儀なくされたのに対して、マックィーンは迷う事無く、自分で自身の引退の時期を決める。
実はここが本作の重要なテーマなのであり、レースに勝って自身が現役でやれることを証明したい!という非常に利己的な目的から成長し、次世代に自身の知恵と経験を伝えることの喜びと充実感に気付いた、彼なりの重大な決断なのだ。
つまり本作のラストの重要な点は、勝つことだけに固執するのでは無く、先輩たちの遺志とクルーズの夢と可能性を未来に繋げるため、自分の今の状況を冷静に判断した上でのベストな選択をしたということ。
更に、決して周囲に促されて「絶望」から引退を決めたのでは無く、次の挑戦のために自身の意思で引退を決めるという、その勇気と判断力を得るに至るまでの、マックィーンの成長と挑戦し続ける姿勢!そこを描くことこそが、本作の衝撃的なラストが持つ本当の意味なのでは無いだろうか?
知識と経験の無い才能ある若者に、己の知識と経験を分け与えて共に勝利を目指すこと。それこそがマックィーンが選択した第二の人生であり、1作目で自身が教えを請うた往年の名レーサー「ドック・ハドソン」が選択した道でもある。
まるで1作目のストーリーに繋がる様なその展開は、正にシリーズの完結に相応しい深い内容であり、決して観客の期待を裏切る様な安易な選択では無いことだけは、是非読み取って頂ければと思う。
(C)2017 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
最後に
実は、本作の脚本にクレジットされている人数は、なんと総勢6人!しかも監督にいたっては、本作が初監督作品となる・・・。
確かに、これでは作品全体のコントロールが取れるとは思えず、その結果素晴らしいアイディアとシリーズ完結に相応しい内容の脚本にも関わらず、今回のラストがこれだけ賛否両論となってしまったのは、非常に残念でならない。
監督の経験や技量不足による物なのか、終始平板な展開と同じようなシーンの描き方が続くため、ラストの決断に至るまでのマックィーンの心の動きが観客に伝わり難く、彼の重要な選択が見る人によっては、「ギブアップして諦めた」と取られてしまうのは、本作にとって実に不幸なことだと言える。
しかし前述した通り、細部まで気をつけて見て頂ければ、マックイーンの選択の本当の意味と、彼が決断に至るまでの心の動きが理解して頂けるはず!
これからご覧になられる方は、1作目を復習されてから鑑賞に臨むと、より理解が深まると思われるので、お時間があれば是非お試しを!
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(文:滝口アキラ)
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