AV女優をめぐる日常を描く『最低。』は最高の出来だった!



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1980年代初頭からのホームビデオの普及に伴い、アダルトビデオ=AVが世に広く出回るようになってから、もう40年近くにはなるかと思われます。

それまでのブルーフィルムやロマンポルノ、ピンク映画などを凌駕し、そこからさまざまなクリエイターが登場するようになり、出演者も最近では女優ばかりではなく男優にもスポットが当てられ、その双方に女性ファンの追っかけまで現れるようになるなど、最近はかなり偏見も薄れてきたように思いつつ、それでもSNSなどに目を向けると、差別と偏見に満ちた誹謗中傷の書き込みが見受けられるのも事実。

一応18禁の世界ではありますが、性、いわゆるSEXを映像メディアで公に提示するAVという職業につきまとうタブー性は、今後どこまで払拭されるのか? それともされないのか?

そんな中で自らの意思でAV女優となり、そうした偏見などを払拭すべく意欲的に活動を続けている紗倉まなが記した小説『最低。』が映画化されました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.273》

AV女優とその周囲をめぐる日常をオムニバス風に描いたこの作品、映画としてのクオリティは“最高”と断言できるほどの逸品です!

AV女優にまつわる3つのエピソードを
日常的等身大のスタンスで見事に描出



映画『最低。』は、大きく3つのエピソードによって構成されています。

夫は多忙で、家と父が入院する病院を行き来するだけの毎日に満たされないものを感じ、ふとAV女優の面接を受けて、その世界へ飛び込み、いよいよ撮影初日を迎える美穂(森口彩乃)。

家族から逃げるように上京し、軽い気持ちで出演したAVで人気女優となるも後ろめたさはなく、むしろ天職だと思いつつも、家族にそのことがばれて激しく糾弾される彩乃(佐々木心音)。

田舎町で育ち、学校になじめないまま、絵を描くことだけを心の安らぎにしながらも、自由奔放に生きる母(高岡早紀)が元AV女優であったという噂に翻弄されていくあやこ(山田愛奈)。

映画はこの3つのエピソードを単にオムニバスとして描くのではなく、同時進行で巧みにそれぞれを交錯させていくのが妙味で、やがてはひとつの世界観として紡がれていきます。

そして、彼女たちの日々は決して非日常的なものではなく、誰に訪れてもおかしくはない、ごくごく普通のものであることを訴えつつ、しかしながら彼女たちがAVという世界に何かしらの形で接していることを特殊と捉えるのか、そうでないのか、それは見る側の判断に委ねられています。

女性からの視点、男性からの視点、また老若各世代によっても、その印象は大きく変わるかもしれません。

ただし、少なくとも、一度でもAVを自発的に見た経験がある者に彼女らを安易に批判する資格などないと固く信じている側としましては、ここで描かれる3人の女性それぞれの生きざまは大いに共感できるものがありました。

主演3人それぞれの存在感も、極めて優れて引き立っており、思わず応援の声をかけたくなるほどの好演です。

また見逃してはいけないのが高岡早紀や根岸季衣、渡辺真起子、江口のりこといった助演陣でしょう。

特に高岡早紀扮する一見ハチャメチャな母親像は、若い頃に接したら感情的に否定したくなるものもあったかもしれませんが、彼女の実年齢に近い今の自分の立場で見ると不思議と納得できるものがありました。

そう、人生なんてそんなやすやすと割り切れるものではない。

映画『最低。』はそのことまでもさらりと、そしてもやっとした曖昧さまでも隠すことなく描出しているあたりが“最高”なのです。



男女の別なく性が自然に解放される
そんな世界が来るのか否か?



本作の監督は瀬々敬久。昨年は大作『64 ロクヨン』前後篇や、今年も最新作『8年越しの花嫁』などが話題となっている才人ですが、実は彼自身の映画のキャリアはピンク映画からスタートしており、デビュー当時の90年代前半などは“ピンク四天王”のひとりと称されながらさまざまな傑作を発表し、作品を見たいと願う女性シネフィルらのニーズに応えた上映会が催されるほどの人気を博していました。

ピンク映画もまた性をモチーフとしたジャンルであり、演者にしてもこの頃になるとピンク専門の女優だけでなく、AVなどから移行してくる者も多々いました(これは今でもそうです)。

そんな世界の中を渡り歩き、裏の裏まで知っているはずの瀬々監督だからこそ、本作の登場人物に注ぐキャメラアイは、巧みな距離感を保ちつつも慈愛あふれるものになっています。

AVだけでなく、映画でも漫画でも写真でも何でも、「性を売り物にしていいのか?」という批判は昔も今も変わらずありますが、それを単に男性の愚かなニーズがあるからといった論旨だけで語っていいのか?

原作者の紗倉まなは日頃「男性だけでなく、女性の性への欲求も普通に解放できるような世界になってほしい」といった旨の発言をしており、その願いの一環として、自分が知るAV業界に携わる女性たちの等身大の気持ちを理解してほしいといった想いで、あえて『最低。』という名の小説を記し、その想いを汲むスタッフ&キャストの尽力によって映画『最低。』は最高の出来になったと確信しています。

男女の別なく性を自然に解放できる世界がすぐに来るのかどうか、正直私には判断できませんし、そういったことに否定的な立場をとる人がこれを見てどう思うかもわかりません。

その意味では、ある種のリトマス試験紙にも本作は成り得ているようにも思われます。

ただし私自身に関して申すと、先にも触れた作品への賛辞と同様に、ここに登場する3人(プラス彼女らの周りにいる人々)のすべてに人生の哀しみを、強さを、もろさを、逞しさを、そしてはかなさといった部分でのシンパシーを感じることができました。実際、そのこと自体にも男女の別はないかと思われます。

何よりも、鑑賞後「いい映画を見させてもらった……!」

この一言だけは強く訴えておきたいと思いますし、またみなさんにも、その一言を信じて見ていただけたらと願っております。

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(文:増當竜也)

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