アカデミー賞受賞作はこの中から出る!?製作者組合賞から徹底予想!

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」



『スリー・ビルボード』


(C)2017 Twentieth Century Fox


最も重要な前哨戦であるゴールデン・グローブ賞の結果が出て、どうやら今年はフォックス・サーチライト作品2作『スリー・ビルボード』と『シェイプ・オブ・ウォーター』の一騎打ちとなる様相が強くなり始めたアカデミー賞戦線。

そんな中、実は先週ひっそりとゴールデン・グローブ賞よりもアカデミー賞に直結すると言われている賞の候補作が発表されたのである。

それは、ハリウッドの映画やテレビなどでプロデューサーを務める5000人弱で組織されたPGA(アメリカ製作者組合)の賞。作品賞枠が5作品以上に拡大されて以降、その密接な関係は高まり、昨年のアカデミー賞作品賞ノミネート作はすべてこの賞の候補作品から出ていたのである。

いよいよ現地時間23日に発表されるアカデミー賞のノミネートの前に、このアメリカ製作者組合賞の近年を振り返り、今年の作品賞レースを占ってみたい。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜特別篇:アカデミー賞作品はここからやってくる!製作者組合賞から作品賞候補を徹底予想>

まずは今年の製作者組合賞の候補作は以下の通り。

『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
『君の名前で僕を呼んで』
『ダンケルク』
『ゲット・アウト』
『I,Tonya』
『レディ・バード』
『モリーズ・ゲーム』
『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』
『シェイプ・オブ・ウォーター』
『スリー・ビルボード』
『ワンダーウーマン』


これまでの賞レースで勝ち進んできた作品が目立つ中で、突如として姿を現した『モリーズ・ゲーム』と『ワンダーウーマン』の異質さが目立つラインナップとなった。

前者は『ソーシャル・ネットワーク』の脚本家アーロン・ソーキンの監督作で、主演には毎年賞レースでの活躍が期待されているジェシカ・チャスティン。必然的に公開前から高い注目を集めていた作品だ。


『モリーズ・ゲーム』


© 2017 MG’s Game, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.


対して『ワンダーウーマン』は記録的なメガヒットを記録して、監督のパディ・ジェンキンスと、主演のガル・ギャドットの躍進が期待されることになった作品。もちろん、このようなアメコミ作品というのは、長きにわたってアカデミー賞の場では冷遇されてきたのである。


『ワンダーウーマン』


(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC


『スリー・ビルボード』や『シェイプ・オブ・ウォーター』といった女性主人公の作品が有力視される一方で、ゴールデン・グローブ賞では『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグが監督賞候補に挙がらなかったことが大きな問題になったことも記憶に新しいだけに、事の発端でもあるハーヴェイ・ワインスタインも参加していた製作者組合側としては、女性の活躍する作品を多く選んだという事実を作ろうとしているのではないかと考えられる。


『シェイプ・オブ・ウォーター』


(C)2017 Twentieth Century Fox


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とはいえ、女性監督ディー・リースの『マッドバウンド 哀しき友情』や、女性監督として唯一のアカデミー賞受賞経験者であるキャスリン・ビグローの『デトロイト』、またアンジェリーナ・ジョリー監督作の『最初に父が殺された』など、他にも有力作がある中で、何故女性が主人公なだけの『モリーズ・ゲーム』がチョイスされたのかには疑問が残るところだ。

閑話休題、その2本はこれまでの前哨戦の結果から推察するに、アカデミー賞候補入りの可能性は他の9作よりも低い。では、残りの9作品はどうなのだろうか。

まず前提として、アカデミー賞作品賞候補は、5作品から10作品の間で随時変わる。第84回からこの制度に変わり(その前2年間は10作品固定だった)、毎年8作品か9作品が候補入りを果たしているのである。

そんな中、昨年を除いて毎年この製作者組合賞に候補入りを果たせなかった作品が1作品は滑り込み、アカデミー賞ノミネートを獲得しているのも見逃してはいけない。

過去8年で9作品。傾向としては「インディペンデント作品」もしくは「アカデミー賞に好かれている監督の作品」といったところだろうか。前者は『ルーム』や『あなたを抱きしめる日まで』、『ウィンターズ・ボーン』。後者では『愛、アムール』『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』、『ツリー・オブ・ライフ』、そして『シリアスマン』。

ルーム(字幕版)



どちらにも該当しないのは『グローリー 明日への行進』と『しあわせの隠れ場所』で、いずれも題材自体がアカデミー賞会員から好まれるタイプの作品であったのだ。
グローリー/明日への行進(字幕版)



では今年、製作者組合から候補漏れをしてしまった作品でこれらに該当する作品があるか。まずは「インディペンデント作品」の枠としては、ショーン・ベイカーの『The Florida Project』を置いて他にはない。

そして後者ではポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』が有力ではあるが、評価の高かった近作でも候補漏れしているアンダーソンだけに、一枚劣る。引退を宣言しているダニエル・デイ=ルイスへの支持の後押しが、作品にも響けば形勢は逆転することだろう。

また、題材的にヴィヴィッドに取り扱われる可能性があるとすれば人種問題を描いた『マッドバウンド 哀しき友情』か、もしくは男性至上主義を打ち破った実話『Battle of the Sexes』あたりか。

もっぱら作品賞レースでリードをつづけている作品、ゴールデン・グローブ賞でも注目を集めていた作品はノミネートの可能性が高い。判断が難しいところは脚本賞に票が集中する『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』と演技部門に票が集中する『I,Tonya』の2作品だろう。


『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』


(c)2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


それ以外の7作品はほぼ確実にアカデミー賞へと駒を進めることができると、過去の傾向からは判断できる。残りの1枠から3枠を、それ以外の8作品で争い、さらなる激戦となるだろう。

(文:久保田和馬)

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