ファスト映画は終焉へ:流行ってしまったのは社会のせい?
なんでも、1本の映画を10分程度の動画にまとめた「ファスト映画」「ファストシネマ」なるものが、動画サイトで猛威を振るっているそうですね。
結論から言いましょう。
そんな「ファスト」はいらん。
とまあ、私のようなにわか映画好きが言うまでもなく、すでに多くの映画関係者、ファンが、ファスト映画に対してNOを突きつけている、この問題。実際に2021年6月23日には、著作権法違反の疑いで、初の逮捕者も出ています。
著作権法上の複製権や翻案権、公衆送信権の侵害にあたると言われている、ファスト映画。ただそれ以上に、作り手が血と汗と涙を流しながらつくった映画を、どこぞの無法者が私利私欲のために使っている点に問題の大きさを感じます。映画への敬意が全くもってみられません。
ただファスト映画の流行が示すのは、それだけ短時間の“映画もどき”を求めている人がいる、ニーズがあるという事実。なぜ人は映画に「ファスト」を求めるのでしょうか。
ファスト映画の背景にある「損をしたくない」気持ち
ファスト映画の流行の大きな要因の1つに、現代ビジネスの“倍速視聴”の記事で示されていた「タイムパフォーマンスを重視する傾向」があげられると思っています。この記事でも、言葉自体は出ていないものの、おそらくファスト映画であろう動画の存在に触れられていました。みんなが楽しんでいるものは、自分も知って、楽しまなければ。
自分も誰かに影響を与える、情報を届けられる人にならなければ。
こういった圧力が対面だけでなく、SNSでも常にかかっているような状況では、時間的無駄をそぎ落としたくなるのも無理はないでしょう。
これに加えて私は、金銭的な余裕の無さも要因の1つになっているのではないかと考えています。
日本の平均賃金は、コロナ禍までは上昇傾向にありました。
しかしそれとともに、毎月の給与から否応なしに差し引かれる社会保険料も上昇しています。2010年からの10年間で平均賃金が約11.5万円上昇したのに対し、厚生年金の保険料率は1.12%の上昇。2010年の月額給与平均は約246,800円なので、年金保険料は19,270円の計算です。約256,400円の月収と23,790円の年金保険料の2019年と比較してみると、年金額だけ差し引いても、2010年は227,530円、2019年は232,610円と、手取りは5,080円しか上昇していません。これに加え健康保険料率は2012年以降、給与の10%分が天引きされています。もちろんこれ以外にも、源泉所得税や雇用保険料、住民税も差し引かれるわけです。
さらに生きていくために必要な家賃、光熱費、食費などの費用も、どんなにやりくりしても毎月かかってきます。自分の身になにかあった時のことを考えると、娯楽に使える金額はけっして多くはないという人もいるでしょう。そのため1回1,800円以上かかる映画はもしかしたら、娯楽としてのハードルが高くなっているのかもしれません。
また高校生以下の若い世代となると、その傾向はより顕著になると思います。
株式会社テスティーが2021年に中高生を対象に実施した「お小遣いに関する調査」によると、中学生は1,000〜3,000円未満、高校生は3,000〜5,000円未満のお小遣いをもらっているという結果が出ていました。またお小遣いをもらっていない中高生も、それぞれ約4分の1いることが分かったそうです。そしてその使い道の多くは、「友達と遊ぶための交際代」でした。このことから若い世代にとってお金は、人とのコミュニケーション維持のために必要なものだと考えられます。
友だちとの交際費はなにも、映画だけではありません。学割があるとはいえ、1,000円の出費は痛いと考える若い世代がいてもおかしくないと思います。実際に高校時代のお小遣いが5,000円だった私も、当時は付き合いで観るだけの映画に1,000円出すことに、あまり乗り気ではありませんでした。
貴重な1,000円を痛い出費としないためには、気になる作品が絶対におもしろいという確証を得たい――。
時間的にはもちろん、金銭的にも「損をしたくない」という人間の心理、弱みにつけ込んだのが、ファスト映画だと思うのです。
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