映画コラム

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2018年02月02日

私の母親は、私を誘拐した人でした。『八日目の蟬』が問いかける母と娘の絆とは?

私の母親は、私を誘拐した人でした。『八日目の蟬』が問いかける母と娘の絆とは?



(C) 2011 映画「八日目の蟬」製作委員会



東京は大雪が降るなど、身も心も寒くなりがちな昨今、せめて映画でも見て心温かくなりたいもの。

もっとも、今回ご紹介する『八日目の蟬』は単なるヒューマン映画ではなく、そこに誘拐というシビアな犯罪が大きく関わってきます。

しかし、そのことによって親と子の、母と娘の絆が濃密に、そして感動的に描かれ、その年の映画賞を多数受賞した名作なのです!



優しかったお母さんは、
私を誘拐した人でした。


『八日目の蟬』は累計130万部を越える角田光代の同名ベストセラー小説を原作に繰り広げられるサスペンス・ヒューマン映画です。

ある日、野々宮希和子(永作博美)は不倫相手・秋山(田中哲司)の子を宿すも出産をあきらめざるをえない状況に陥り、彼が妻との間に設けた赤ん坊を一目見ようと自宅に侵入し、眠っていた赤ん坊の恵理菜を衝動的に誘拐してしまいます。

希和子は赤ん坊に薫と名付け、逃亡生活を続けた末、女性だけで共同生活を送る“エンジェルホーム”を経て小豆島に落ち着きますが、やがて1枚の写真がもとで逮捕。

薫=恵理菜は実の両親のもとへ返されました。

しかし、今さら本当の両親と言われても、恵理菜はなかなか心を開くことができず、親の側も、特に母(森口瑤子)はどう対処したらいいかわからず、いつしかつらくあたるようになっていきます。

月日が経ち、大人になった恵理菜(井上真央)は、妻子のある岸田(劇団ひとり)とつきあうようになり、妊娠してしまいます。

いつのまにか希和子と同じ道を歩んでしまっている恵理菜は、かつてエンジェルホームで一緒だった安藤千草(小池栄子)と再会したことを機に、かつて自分が薫と呼ばれていた幼い日の希和子との生活を追想していきます。

希和子は自分を誘拐した犯人ではありますが、母としての愛情に満ち溢れていたのです……。

脚本はアニメ版『時をかける少女』や『サマー・ウォーズ』、実写版『魔女の宅急便』などで知られる奥寺佐渡子。

監督も脚本家出身の成島出なだけに、やはり非常に緻密な構成に腐心しつつ、俳優陣への厳しい演技指導のもと、それぞれの心情を繊細に描出することに見事成功しています。
(ちなみに彼は本作の成功を機に大きくステップアップし、2015年の『ソロモンの偽証』2部作でもその年の映画賞を大いに賑わせました)

「優しかったお母さんは、私を誘拐した人でした。」と、インパクトあるキャッチコピーで宣伝された本作は、2011年4月29日から全国公開され、興収12億円のクリーン・ヒット。

そしてこの年の映画賞では日本アカデミー賞作品賞を始め10冠を制覇。

また主演の永作博美と井上真央はその年の各映画賞の主演女優賞を二分し、小池栄子も助演女優賞を多数受賞するなど、まさに2011年の日本映画を代表する名作となったのでした。



(C) 2011 映画「八日目の蟬」製作委員会




七日で死ぬはずのセミがもし
八日目まで生きたとしたら?


ドラマは過去と現代、大きくふたつのパートに分かれて進行していきますが、特に誘拐という大罪を犯しながらも恵理菜を我が子のように一心に愛し育てようとする希和子の姿から、親子とは? 母と娘とは? といった問いかけが真摯になされているのが本作の大きな特徴でもあります。

またラストは、原作と異なる映画独自の結末を迎えますので、原作を既に読破されている方も比較しながら楽しめることでしょう。

なお『八日目の蟬』というタイトルには、普通なら七日で死んでしまうはずのセミが、もしも八日目まで生き永らえることができたとしたら、それは幸せなことなのか?」という意味が込められているとのこと。

つまり、本作のヒロインふたりもまた、ある意味で八日目まで生きているセミであり、ではどのような運命が待ち受けているのか? ということなのかもしれません。

さて、本作は小豆島がドラマの大きな舞台として登場しますが、小豆島といえば何といっても木下惠介監督の日本映画史上に残る名作『二十四の瞳』の舞台としても有名です。

かつて教師と教え子の心の絆を感動的に描いたドラマの背景となった小豆島が、ここでは血のつながらない母と娘の心の絆を切なくも麗しく魅せるための場所となっているのも見逃せないところです。

長年、小豆島には映画と文学のテーマパーク『二十四の瞳映画村』がありますが、現在その中の“キネマの庵”では映画『八日目の蟬』小豆島展も常設され、日本アカデミー賞のトロフィや監督が使用した台本や絵コンテ、出演者の衣裳などが展示されています。

映画ファンなら、ぜひ一度は行ってみたいですね。

[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2018年2月2日現在配信中)

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(文:増當竜也)

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