かつて日本アカデミー賞7部門を制覇した『忠臣蔵外伝四谷怪談』
(C)1994 松竹株式会社
3月2日(ちょうどこの記事がアップされる頃ですね)、第41回日本アカデミー賞の授賞式が開催されますが、これで2017年度映画賞の結果が大方出揃う形になります。
日本アカデミー賞は映画人の投票によって選ばれる賞なので、映画マスコミが中心となって選抜する他の映画賞とは異なる結果になることが多く、それもまたユニークな特徴ではあるかと思います。
というわけで、今回はかつて第18回(1994年度)日本アカデミー賞で作品賞など7部門の最優秀賞を受賞した傑作時代劇大作『忠臣蔵外伝四谷怪談』をご紹介!
忠臣蔵と四谷怪談の融合
光と影の巧みな対比
『忠臣蔵外伝四谷怪談』は、そのタイトルが示すように、みなさまご存知の“忠臣蔵”と“四谷怪談”を合体させた作品です。
これは江戸時代の歌舞伎狂言作家・鶴屋南北が『かな手本忠臣蔵』の外伝として『東海道四谷怪談』を発表し、当時の舞台では昼の部に『仮名手本忠臣蔵』、夜の部に『東海道四谷怪談』を上演していた事実をヒントに、『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる名匠・深作欣二監督が映画化したもの。
実は深作監督、1978年に忠臣蔵映画『赤穂城断絶』を撮っているのですが、このときは新解釈を望む彼と、オーソドックスな忠臣蔵の世界にこだわる主演・萬屋錦之介が対立し、結果としてどっちつかずの出来になってしまっていました。
深作監督としては、このときの忸怩たる想いを何とか払拭すべく本作に取り組んんだ感もあります。
つまり、「江戸の仇を長崎で」ならぬではありませんが、「忠臣蔵の仇を四谷怪談で!」といった心意気だったのでしょう。
ストーリーそのものは、浅野家がお家断絶になったことで、家老の大石内蔵助(津川雅彦)をリーダーとする赤穂浪士たちが、主君の仇・吉良上野介(田村高廣)を討つという忠臣蔵そのもののドラマの中、その赤穂浪士に四谷怪談の主人公・民谷伊右衛門(佐藤浩市)が属していたものの、やがて忠誠心が薄れ始め、そんな折に伊藤喜兵衛(石橋蓮司)の孫娘お梅(荻野目慶子)に気に入られたことから、浪士を脱退してお梅と祝言を上げ、身重の妻お岩を亡き者にしようとし、その結果……。
深作監督は『赤穂城断絶』の中でも、赤穂浪士を脱退して落ちぶれていく武士を登場させていますが、本作の民谷伊右衛門も同一線上にある人物です(ちなみに、『赤穂城断絶』でその役を演じた近藤正臣が、ここでは伊右衛門の父親を演じています)。
忠義の心の美しさを説いた“忠臣蔵”と、堕ちていく男の恐怖を描いた“四谷怪談”、一見真逆の世界ですが、それゆえに光と影の対比が濃厚になっていくという面白さがあります。
もともと深作監督はヒーローよりもアンチヒーロー、アウトローといった人生の闇を引きずりつつ、地べたを這ってでも赤裸々に生きようともがく人々に限りない愛着を寄せており、ここでも主人公の伊右衛門の転落人生を、『必殺!』シリーズで知られる松竹京都撮影所スタッフの光と影を際立たせた映像美で魅せてくれています。
また深作監督の時代劇には悪役が白塗りの顔で登場するといった特徴もありますが、ここでも伊藤喜兵衛やお梅は最初から白塗りで登場し、次第に伊右衛門の顔も白くなっていくという趣向になっています。
女優として大きく飛躍した
高岡早紀の大胆な熱演
さて、“四谷怪談”といえば何といっても呪われた悲劇の亡霊お岩を忘れるわけにはいきませんが、ここでは高岡早紀がお岩を体当たりで演じています。
それまでどちらかといえばアイドル的存在だった彼女ですが、本作では着物で歩く姿がぎこちなくならないように撮影の半年前から日常生活を和装で通すよう義務付けられ、また役の設定が湯女(今でいうソープ嬢みたいなもの)ということもあって、文字通りの濡れ場にも果敢に挑戦するなど、仰天させるほどの大胆な演技で見る者を圧倒し、映画女優として大きくステップアップしていきました。
そして亡霊と化したお岩の怨念による恐怖の描出もさながら、さらに驚かされるのはクライマックスの赤穂浪士による吉良邸討ち入りシーンで、ここに何とお岩が登場するのですが、未見の方のためにこれ以上は言わずもがな。ぜひその目で確かめてみてください。
ちなみに本作が製作された1994年、東宝では『四十七人の刺客』が同時期に公開され、ちょっとした忠臣蔵映画対決としてマスコミをにぎわせたものでした。
日本アカデミー賞で本作は作品・監督・脚本・主演男優(佐藤浩市)・主演女優(高岡早紀)・撮影・照明の7部門で最優秀賞を受賞。助演女優(荻野目慶子)・音楽・録音・編集と優秀賞を、そして高岡早紀は新人賞も受賞しています。
(彼女はキネマ旬報や報知映画賞、日刊スポーツ映画大賞などでも主演女優賞を受賞しました)
[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2018年3月2日現在配信中)
(文:増當竜也)
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