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SNS時代がもたらした人心の闇と暴力を描く『白ゆき姫殺人事件』
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(C)2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C)湊かなえ/集英社
さまざまな事件が世を賑わせ続ける昨今ではありますが、最近はそれらの事象に対する一般の声が、SNSを通じてダイレクトに発信されるようになったことも、また新たな問題を次々と引き起こすようになって久しいものがあります。
一方、事件を報道するマスコミの姿勢にも、視聴率優先主義でスキャンダラスな要素を過剰に重視しすぎるなど、報道被害をもたらすことも増えてきています。
本来、自由に発言できることは素晴らしいことのはずなのに、現実はそれゆえに言葉の暴力が氾濫してしまうという大きな矛盾。
ふと、SNSの中には、人が誰しも内包しているちっぽけな邪心を増幅させてしまう恐るべき要素が含まれているのかと考えてしまう瞬間すらあります。
今回ご紹介する『白ゆき姫殺人事件』も、単に殺人事件の真相を追う映画ではなく、SNSと報道被害がもたらす人の心の闇を抽出した問題作です。
殺人事件の犯人を勝手に断定した
暴走ツイートがもたらす大炎上の悲劇
ある日、化粧品会社の美人OL・三木典子(菜々緒)の遺体が発見されました。
TVワイドショーの契約ディレクター赤星雄治(綾野剛)は事件に関するさまざまな情報をTwitterでツイートし始めて注目を集めるようになり、被害者が類い稀なる美貌の持ち主であったことから、“白ゆき姫殺人事件”とネットで称されるようになっていきます。
まもなくして、事件当日から失踪している典子の同僚・城野美姫(井上真央)の存在を知った赤星は、彼女に興味を抱いて調査を進め、それをツイートしていきます。
やがて匿名の書き込みで美姫の実名や学歴などがネット上にさらされ、地元は大騒ぎとなっていくとともに、暴走が止まらない赤星はついに彼女が犯人であるかのような番組を演出し、オンエアしてしまいます。
一方、そのころ美姫は世間の糾弾から身を隠しながら、己の忌まわしくも切なく悲しい過去を、そして典子との確執などを思い起こしていました……。
□作品の予告編
火のないところに煙をたたせる
SNSがもたらす脅威と暴力
本作は『告白』や『贖罪』『望郷』など現在社会の闇を鋭く見据えた作家・湊かなえの同名小説の映画化ですが、ここでも殺人事件の真相を追いながら、その実ネット上にあふれかえるさまざまな意見が、“炎上”という名のもとに新たな暴力を引き起こしていくという現代社会ならではの脅威に対する問題提起がなされています。
赤星の職業は原作ではフリーライターなのですが、映画ではTVディレクターに替えたことで、何かと過剰報道に陥りがちなマスコミに対する真摯な意見具申も巧みになされています。
監督は『アヒルと鴨のコインロッカー』(06)『フィッシュストーリー』(09)『ゴールデンスランバー』(10)など伊坂幸太郎原作作品や『チームバチスタの栄光』(08)『ジェネラル・ルージュの凱旋』(09)といった海堂尊原作作品、また『奇跡のリンゴ』(13)のような感動作からホラー映画『残穢―住んではいけない部屋―』(16)、昨年は忍者アクション映画『忍びの国』を大ヒットさせるなど、多彩なジャンルを果敢にこなす才人・中村義洋。
ここでも人気小説を換骨奪胎させつつ、映画的昂揚感をもたらしていく手腕を存分に発揮しています。
キャストでは、井上真央や連佛美沙子、貫地谷しおりなど若手実力派が揃う中、それまでモデルやタレントとして活躍していた菜々緒が美貌の裏に潜む“邪”をにじませる好演で、女優として大きくステップアップすることになりました。
また綾野剛扮するデイレクターのエスカレートしていく言動の数々は、ふと自分たちもこういった罪を犯しているのではないかと、我が身を振り返らせ、大いに反省をもたらすものもあることでしょう。
かつて「火のないところに煙はたたない」などと言われていたものですが、今は嘘でも何でもSNSに書き込むだけで、煙どころかまさに“炎上”という言葉さながら、とりかえしのつかない大火災を引き起こしてしまう時代です。
本作でもTwitterの書き込みが画面内に流されていきますが、たとえそのひとつひとつはストレス発散的なほんの小さないたずら心であったとしても、それがあふれんばかりの波になることで大きな暴力と化していく恐ろしさを、私たちはもっと自覚しておくべき。
ある事象に対して何かをモノ申したくなることも多々あるのも人の常ではありますが、その際に“謙虚”という言葉を脳裏によぎらせてみるべきでしょう。
それこそが『白ゆき姫殺人事件』が発信する、観客への真摯なメッセージであるような気もしてなりません。
[2018年5月18日現在、配信中のサービス]
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(文:増當竜也)
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