『空飛ぶタイヤ』は、長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生の夢の競演作!
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
地上波やCSなどで放送された数々のTVドラマ版でも人気を呼んだ、池井戸潤原作小説の映像化作品。6月15日より公開中の映画『空飛ぶタイヤ』は、意外にもファン待望の初映画化となる作品だ。『超高速!参勤交代』シリーズで大いに笑わせてくれた本木克英監督が、主演に長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生の人気俳優を迎えて、果たしてどの様に映像化してくれるのか?個人的にも非常に興味のあった本作。
実は2009年にもWOWOWで連続ドラマ化されているこの話題作を、今回は公開二日目の夜の回で鑑賞してきた。さすがに人気の池井戸作品だけあって、一番大きなスクリーンでの鑑賞となった本作。年齢層はやや高めの印象が強かったが場内はほぼ満員の盛況ぶりだった。果たして、気になるその内容とはどんなものだったのか?
ストーリー
ある日突然起きたトレーラーの脱輪事故。整備不良を疑われた運送会社社長・赤松徳郎(長瀬智也)は、車両の欠陥に気づき、製造元である大手自動車会社のホープ自動車カスタマー戦略課課長・沢田悠太(ディーン・フジオカ)に再調査を要求。同じ頃、ホープ銀行の本店営業本部・井崎一亮(高橋一生)は、グループ会社であるホープ自動車の経営計画に疑問を抱き、独自の調査を開始する。
それぞれが突き止めた先にあった真実は大企業の“リコール隠し”ー。 果たしてそれは事故なのか事件なのか。 男たちは大企業にどう立ち向かっていくのか。正義とはなにか、守るべきものはなにか——。(公式サイトより)
予告編
実は大逆転劇が展開する、大エンタメ作品だった!
実は今回不安だったのが、二時間という限られた上映時間の中で、果たして連続ドラマの様な盛り上がりを再現出来るのか?という点。
でも大丈夫、その心配は今回全く必要なかった!
本作の見所となる豪華キャストの競演により、魅力的な的な登場人物それぞれに見せ場があるという、正に見せ場たっぷりの第一級のエンタメ作品に仕上がっていたからだ。
突如起こってしまった痛ましい事故。そのために運命を狂わされた人々が、その原因究明のために巨大な企業を前に戦いを挑んで行くストーリーは、それだけで既に燃える展開!
確かに連続ドラマでじっくり描かれるのも良いが、二時間という限られた上映時間の中に納めるための、映画版独自のアレンジや省略も、実は映像化においての楽しみの一つと言えるだろう。
既に放送済みのWOWOWドラマ版では、中村トオルが主役の赤松を演じていた、この『空飛ぶタイヤ』。機会と余裕があれば是非WOWOW版や原作とも比べて頂いて、その違いを楽しんで頂ければと思う。
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
正に夢の顔合わせとなる、主役の三人が最高!
劇場で一際観客の目を引いていたのが、長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生の三人が一致団結して、巨大企業や権力に立ち向かう印象を受ける本作のポスターだった。
実際自分も鑑賞前は、この三人がどう物語に絡んで来るかが本作の見所だと思っていたのだが・・・。
実は予想とは少し異なり、あくまでも物語の主役は長瀬智也演じる赤松であり、ディーン・フジオカ演じる沢田は、終盤のある展開までは企業側の人間として立ち回ることになる。更に高橋一生演じる井崎に至っては、ほぼ特別出演的な役割であり、他の二人とは直接絡むシーンが無かったりするのが非常に残念!
ホープ自動車の課長である沢田は、しつこく会社に電話をかけたり出向いて来る赤松を、映画の序盤では徹底的に避ける行動に出る。何故なら、彼にとっては会社組織が自身の拠り所であり、会社が出した調査結果に何の疑問も抱かず盲目的に信頼しているからだ。
ところが、ある段階で会社側が不審な動きをしていることに気付いた沢田は、自身で会社内部に探りを入れ、一転して赤松に対しても協力する姿勢を見せる。だが、それは事故の真相を世間に公表するためだけでなく、会社の危機を事前に防ぐためだったり、あるいは自身の今の地位が危険に晒されるのを防ぐ目的でもあるのだ。
その中で、やはり会社側の隠蔽工作に不満を持って沢田たちに協力した内部告発者が左遷されたり、人事部が自身を懐柔するための栄転話を持って来ると、再び沢田は会社組織の方を選択する。もちろん、沢田本人も悩んだ上での選択だったことが描かれるのだが、赤松が遺族の男の子が死んだ母親に宛てた手紙を沢田に渡しても、彼はそれに目を通そうとはしないのだ。
ところが、栄転先の部署で自身が飼い殺しの身であることに気付いた沢田は、ここでやっと赤松から渡された男の子の手紙に目を通す。その後、事件現場を弔問に訪れた沢田が先に来ていた赤松に言うセリフこそ、何故町の小さな運送会社の社長である赤松が、大企業に対抗してここまで事件に喰らい着くことが出来るのか?その答えになっていて実に見事!
そう、赤松にとって今回の事件で死者が出たという事実は、単なるニュースの情報で得られる様な他人事ではない。何故なら、赤松は実際に被害者である遺族の人々と、実際にトラックを運転していた社員の人生が狂ってしまった様子を、自身の目で目撃しているからだ。
実はこの部分こそが赤松と沢田との決定的な違いであり、そのことに気付いた沢田が、このシーンのセリフと共に赤松に全面協力する動機に説得力が生まれることになる。
果たして沢田が赤松に言ったセリフとは?会社人間の彼が正義に目覚めるその瞬間は、是非劇場で!
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
主役の三人が最高!だが、本当にスゴい影の主役はこの人だった!
本作で観客の胸を打つのは、過去に同様の事件に遭いながらも、声を上げられず苦渋の決断で沈黙せざるを得なかった運送会社を、赤松が一社ずつ自分の足で説得して回るシーンだろう。
記者から入手したリストに載っていない、ある会社の社員である相沢が提供した資料が、後に反撃への突破口を開くことになるこのシーンで、相沢が赤松に託した物のあまりの重さに、観客のホープ自動車に対する怒りと赤松に対する応援の気持ちが一気に高まるからだ。
もちろん、確実に整備不良が原因でないと反証出来る証拠を持ちながら、それでも会社組織の判断で公表出来なかった相沢を演じる佐々木蔵之介の静かな演技も素晴らしいのだが、ことごとく協力を断られ心が折れかけていた赤松に、個人の調査でもここまで詳細な証拠が集められるのだという勇気を与え、同時にここまで有利な資料を持ちながら公表出来ない程、敵の組織が強大であることを観客に伝えるこのシーンは実に見事!
この様に、自身の生活や家庭を投げ打って、会社の将来と真相究明のために足で情報を追い続ける赤松の姿は正に理想のリーダー像であり、会社が最大の危機にあっても社長を信頼して社員が一丸となって協力する描写に、抜群の説得力を与えてくれている。
更に重要なのは、余りに事件の真相究明にのめり込んでしまい、時に本当の目的を見失い諦めかけそうになる赤松を影で支える、深田恭子演じる赤松の妻史絵の存在だ!家庭内の問題を全て引き受け、疲れて家に帰った赤松を元気付けて再び送り出すという、文字通り理想の奥さんとしか言い様が無いそのアシストこそ、赤松が最後まで頑張れた最大の要因だと思わずにはいられなかった。
ある意味本作の影の主役とも言えるその良妻賢母っぷりは、是非劇場でご確認を!
最後に
巨大企業や組織に対し勝ち目のない戦いを挑む個人の姿は、一見あまりに無力で弱い存在に見える。孤立無援の戦いの中で、人の良い部分や尊い行いがいかに人々の心を動かし、大きな力となって最後に逆転勝利をもたらすか?
この、最後に正義や理想が勝つという展開こそ、我々観客が池井戸潤作品に喝采を送る理由の一つだろう。
加えて、魅力的で熱い男たちが繰り広げる群像劇と、犠牲者の無念を晴らし悪が報いを受ける勧善懲悪の世界は、これこそ正に日本人が大好きな「忠臣蔵」の世界!
強大な権力の前に見捨てられそうな個人の信念や誇りの大切さ、そして正義を最後まで貫こうとする人々の苦労と団結からの最後の逆転劇まで、観客が主人公側に充分感情移入出来て、観客の要求に応えて見たい物を見せてくれる、まさにそんな観客参加型の大エンタメ作品として仕上がっているのが、この『空飛ぶタイヤ』なのだ。
ただ、気になる箇所や残念に思えた点も、いくつか散見出来た本作。中でも一番残念に思えた点は、事件を起こした当事者の運転手である安友が、事件の真相が明らかになったラストで事件現場を訪れたり、被害者遺族と対面して許しを受けるという描写が無かったことだ。
ホープ自動車側の構造上の欠陥に、事件の原因の可能性がある。そう知らされても自分を許さず罪の意識に苦しめられていた安友が、ラストで遂に遺族から許されて罪の意識から解放される姿が見たかった!いや、せめて安友に赤松の口から勝利を知らせるシーンくらいはあっても良かったのでは?今回の映画版で安友を演じる毎熊克哉が好演しているだけに、どうしてもこんな考えが頭を離れなかった本作。
更に、出来ればディーン・フジオカ演じる沢田にも遺族に対面する描写があれば、沢田が最終的に会社よりも正義を選んで行動するに至った動機に、観客も更に共感出来たのでは?そう思えてならなかった。
意外にも初劇場映画化となるこの『空飛ぶタイヤ』に続き、何と来年は劇場映画の第二作目『七つの会議』の公開が既に決定している、池井戸潤原作作品。
しかも監督がTBSドラマ「下町ロケット」や「陸王」、そして今年公開された映画『祈りの幕が下りる時』などで見事な演出を見せた福澤克雄監督とくれば、これはもう原作ファンで無くとも期待するしかない!
果たして全10話で描かれる連続ドラマとは、また違った展開が待っているのか?今から来年の公開を楽しみに待ちたいと思う。
(文:滝口アキラ)
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