『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』その原題に込められた意味とは?
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公開前の評判とは違って、全米での公開直後に観客からの不評と興業的不振のニュースが伝えられた、この『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』。
確か映画公開前のニュース等では、「旧三部作のテイストで見事に映像化されている!」と好評だったはずの本作。その内容について非常に興味があった本作を、今回は2D字幕版で公開二日目夜の回に鑑賞してきた。果たして、気になるその出来は評判通りのものだったのか?
ストーリー
シリーズ屈指の人気を誇るハン・ソロは、いかにして愛すべき悪党<ハン・ソロ>となったのか!?
銀河一のパイロットを目指すハン・ソロと、生涯の相棒チューバッカ、そしてミレニアム・ファルコン号との運命の出会いとは?
やがて彼は、謎の美女キーラらと共にカリスマ性を持つベケットのチームに加わり、 “自由”を手に入れるために莫大な金を生む“危険な仕事”に挑む!
(公式サイトより)
予告編
果たして、本当に不評を買う様な内容だったのか?
既にニュースでも伝えられている通り、当初監督に当たっていたフィル・ロード&クリス・ミラーが降板。急遽その後を引き継いだロン・ハワード監督により、何と全編の7割が再撮影されるというトラブルに遭ってしまった本作。
ただ、鑑賞後のレビューや感想を見る限りでは、完成作品に対してそこまでの否定評は上がっておらず、否定評の内容も主に主役の俳優に対するイメージの違いや、いまいち内容が地味だった、との声が多く寄せられている様だ。
実は今回、かなりの不安を胸に鑑賞に臨んだのだが、冒頭のカーチェイスから惑星脱出のサスペンスまでの部分で、既に観客を物語の世界に引き込んでくれるし、その後の仲間たちとの出逢いからラストに向かっての意外な展開まで、素直に面白い!と思いながら最後まで鑑賞出来た本作。
確かにプリクエル(前日譚)三部作の様に、観客にとって馴染みが深いキャラクターの若き日を描く内容は、キャラクターに対する観客の想い入れが強いほど、色々と不平不満が出て来るものではある。しかも既にそのキャラクターの生死が分かっている上で、その若き日のエピソードを描くとなれば、話や設定が繋がる様に辻褄を合わせている様な印象を与えかねないのも事実。
だが本作は、旧三部作をリアルタイムで観た世代はもちろんのこと、プリクエル三部作やアニメ版、更にはビデオゲームの設定まで盛り込んで、多くのファンが楽しめる盛りだくさんの内容となっている。
事実、今いる場所から旅立ちたいと願う主人公の宇宙への憧れと、彼が現在置かれている厳しすぎる現実との対比が描かれる冒頭部分などは、正に『最後のジェダイ』のラストシーンで夜空を見上げていた子供たちの姿そのものではないか!この他にも、作品の随所に過去作へのリスペクトを感じた本作。それでは何故、興行的に苦戦する結果となってしまったのだろうか?
確かに旧三部作世代にとっては、過去作へのオマージュやリスペクト満載で十分に楽しめる内容の本作。だが、サイドストーリーだからもっと自由な発想で描いて欲しかった、そんな観客の声が多かったのも事実。前述した過去作やファンへのその気配りこそが、実はファンにとっては「物足りない」あるいは「新しさが無い」と映ってしまった理由である可能性は否定出来ないだろう。
思えば、まだ若く経験不足で正義感が先行するルークに対して、大人の余裕と経験から来る独自の価値観を持ったアウトローとして、颯爽と我々の前に登場したハン・ソロ。そんな彼が一人の女性に振り回され、子供扱いされて軽く扱われる姿を敢えて見たくは無い、そんな感情が観客に働いたことも本作への不評の原因に挙げられるかも知れない。
確かに先に公開されて、同じサイドストーリーながら興行的にも批評的にも高い評価を得た『ローグ・ワン』の様に、馴染みのキャラクターが登場しない世界で自由な発想で物語が展開する作品の後では、有名キャラクターが主人公となる本作への注文や風当たりがキツくなるのも十分に理解出来る。
要は、ハン・ソロというキャラクターに対する観客の愛情や思い入れがあまりに強すぎたことへの反動。それに尽きるのではないだろうか。今後の展開として、同じ人気アウトローキャラの「ボバ・フェット」や、何とあの「ジャバ・ザ・ハット」の単独作品製作がアナウンスされている、この『スター・ウォーズ』のサイドストーリー。
今回の観客の反応が、今後の更なる展開への良き教訓となることを願うばかりだ。
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実は原題にこそ、大きな意味が込められている本作
今まで語られて来なかったハン・ソロと彼の仲間たちの、出逢いや過去の因縁などのエピソードが次々に登場する本作。中でも見所の一つが、主人公ハン・ソロの名前の由来が映画冒頭で明らかにされる点だろう。
元々ファーストネームの「ハン」だけだった彼の名前。しかし彼の置かれていた境遇により、半ば他人の思いつきで「ソロ」のファミリーネームが付けられることになる。非常に意外だったその由来に加えて、実は映画のOPタイトル部分を観て、「おや?」と思った部分があった。そう、本作の原題表記は『SOLO/STAR WARS STORY』であり、日本版タイトルの様に『ハン・ソロ』とフルネームにはなっていないのだ。短い名前にも関わらず、下のファミリーネームしかタイトルには記載されていない理由、実はこの部分にこそ本作の重要なテーマが隠されている。
映画の中でも印象的に使われている様に、「ソロ=孤独」という意味が重要なテーマとなっている本作には、そのタイトルが意味する通り登場人物たちが孤独な境遇から仲間と出逢い、そして別れ再び一人になる姿が繰り返し登場することになる。
例えばチューバッカ。文字通り絶望的な孤独の中で彼はハンと出会うのだが、その後向かった鉱山で本来の目的だったウーキー族の仲間を見つけるのだが、チューバッカはそのまま同じ種族と同行せずに、彼らと別れてハンと共に行動することを選択する。
更に冒頭の惑星脱出シーンでハンとキーラは引き離されてしまうが、その後再会するものの最終的に彼らは再び離れ離れとなってしまうことになるのだ。
それ以外にも、ハンの師匠的存在となるベケットと仲間たちの死別や、若き日のランド・カルリシアンと女性?ドロイドのL3-37との死別など挙げたらキリがないほど、本作のキャラクターたちの行く手には愛する者や親しい仲間との、悲しい別離の瞬間が待っているのに気が付く本作。
思えば孤独と容赦ない別離は、旧三部作だけでなく「スターウォーズ」サーガ全体を通しての大きな要素であり、また魅力でもあった。
ただ本筋のシリーズには、この別れを新たな人生への旅立ち、あるいは永遠の命を得るための通過儀礼とへ変換する「フォース」という概念が存在していてくれたのも事実。
ところが現在まで二作品が公開されているサイドストーリーでは「フォース」を持たない市井の人々の物語が描かれるため、別離がそのまま死や絶望を意味することになる。
『ローグ・ワン』が非常に暗いシリアスな内容になったのもそのためであり、その点を考慮すれば、ハン・ソロの明るく軽いキャラクターと、サイドストーリーが持つ暗いシリアスな内容とが、今回は上手くコラボしなかったのでは?そんな仮説が今回の興業的不調の理由として立てられるかも知れない。
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最後に
冒頭で触れた通り、監督の交代に伴う大幅な再撮影が発生するなど、厳しいスケジュールでの製作となった本作。だがそれにも関わらず、カスダン親子による素晴らしい脚本とロン・ハワード監督の職人的手腕により、本作は『スター・ウォーズ』の外伝としてだけでなく、一本の独立した作品としても見事なエンタメ作品に仕上がっているのが凄い!
確かに他の監督だったらここまで再撮影せず、既に撮り終えていた映像を使ったりして、もっと内容的に観客の期待を裏切る結果となったのでは?と思えてならなかった本作。
そう考えれば今回の『ハン・ソロ』の興業的な結果も、この製作状況の中でかなり検討した、そう考えて良いのではないだろうか。
実は今回、観客にも馴染みの深いハンソロの誕生を描くエピソード1的内容だけに、同じく長期に渡る人気シリーズ『007』の、原作では第一作目となる『カジノ・ロワイヤル』からの影響が見られる本作。実際、映画冒頭のカーチェイスシーンでの逃走方法にも、実は『007ダイヤモンドは永遠に』からの引用が見て取れるのだ。こうして、ストーリーの根底に『カジノ・ロワイヤル』があると思って観ると、ヒロインのキーラの行動も理解出来る様になるので、時間と余裕がある方は、是非一度両者を見比べて頂ければと思う。
その他にも、西部劇やマカロニウエスタンからの影響が論じられている本作だが、映画全体に漂うどこか懐かしい雰囲気は、実はこうした過去の作品への郷愁がもたらすものなのかも知れない。
実際内容的にも、ミレニアム・ファルコン号の歴史や、今まで描かれることの無かったハン・ソロと彼の周囲の人々の過去が描かれる本作は、主に旧三部作をリアルタイムで鑑賞した世代にとって、興味の尽きない内容となっているのだ。
監督交代などの製作上のトラブルや、『スター・ウォーズ』という超強力作品群の中で比べた場合、他の公開作品よりも確かに見劣りする興行成績に終わったことなど、今回どうしてもマイナスイメージばかりが先行してしまった感のあるこの『ハン・ソロ』。
実際、次に製作予定だったサイドストーリー映画、『オビ=ワン・ケノービ』の製作が中止になったとの報道が出るなど、今後のシリーズ展開にも大きな変更を与えてしまったことも、必要以上に観客の印象を悪くしてしまっている様に思えてならない。
どうか、事前の情報や評判に惑わされることなく、実際に劇場に足を運んで鑑賞して頂いた上で、作品に関しての判断を下して頂ければと思う。
(文:滝口アキラ)
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