『プーと大人になった僕』が、もっとおもしろくなる「3つ」のこと!

(C)2018 Disney Enterprises, Inc.  


『プーと大人になった僕』は、誰もがその名前を知っている『くまのプーさん』を題材としたドラマ映画です。“仕事に疲れた大人に響く作品”であることも話題になっているようで、「仕事をやめたくなった」「ずっと退職届を見せつけられるようだった」「プー(無職)製造映画」などの愉快な感想もたくさん見受けられています。

ここでは大きなネタバレのない範囲で、本作をもっと面白く観ることができる3つのポイントを紹介しましょう。

1:原作小説とディズニーアニメ版にあった“メタフィクション”の要素とは?

まず原作小説およびディズニーアニメ版が、ちょっと特殊な構造の作品になっていることを紹介しなければならないでしょう。

というのも、1926年に発表された児童小説『クマのプーさん』は、“わたし”とする語り手が、クリストファー・ロビンという自分の息子にお話を聞かせてあげる(そのお話の中にもクリストファー・ロビンが登場する)という体裁をとっています。その『クマのプーさん』の作者であるA・A・ミルンの息子の名前もクリストファー・ロビンであり、つまりは息子を本名のまま作品に登場させているのです。

1977年に制作されたアニメ『くまのプーさん 完全保存版』は3つの短編を合わせて繋ぎのシーンを足している作品で、オープニングとエンディングはなんと“実写”になっています。オープニングでは部屋の中にあるプーさんたちのぬいぐるみが映し出され「空想の世界でみんな楽しく暮らしていました」などといったナレーションが覆いかぶさり、アニメで物語を描いた後、ラストではまた実写のプーさんのぬいぐるみを映し出すという構造になっています。

さらには、『くまのプーさん 完全保存版』の劇中には“これは絵本の中の話ですよ”という演出が多々あり、ナレーションで「次のページでどうなるのかがわかるよ」と語られたり、登場キャラが「本から飛び出しちまうぞ。早くページをめくれ!」と言うなどのギャグを交えた話運びもあったりもします。

いわば、原作小説もディズニーアニメ版も「このお話は絵本(想像)の中のことですよ」と提示している、メタフィクション的な構造を持っているのです。これらは2011年に公開された劇場アニメ版でもほぼそのまま踏襲されており、『くまのプーさん』という作品群が持つ一番の特徴と言っても過言ではないでしょう。

ただ、今回の『プーと大人になった僕』ではこうしたメタフィクション的な構造は全体的にあまり強調されていません。今回の大人になったクリストファー・ロビンは、プーさんたちを想像や物語上の存在ではなく、本当に子供の頃に一緒に遊んでいたと認識しているのですから。いわば、今回のクリストファー・ロビンは、実在の人物ではなく、『くまのプーさん』という物語上の登場人物になっているのですね。

しかしながら、『プーと大人になった僕』のオープニングでは“絵本”を意識した演出が取られています。それは今までの『くまのプーさん』にあった、そのメタフィクション的な構造を踏まえたためでもあるのでしょう。このオープニングは大人になるまでのクリストファー・ロビンの“人生”が描かれているので、見逃さないように集中して観ることをおすすめします。



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2:大人になったことで変わった?
クリストファー・ロビンがもともと持っていた資質が重要だった!

本作で主人公となるクリストファー・ロビンというキャラクターが、原作小説およびディズニーアニメ版では何かのトラブルを解決してくれる、みんなから頼られる存在であったということも重要です。

“100エーカーの森”に住むみんなはどこか間が抜けていて、たびたび大騒動を巻き起こすのですが、そんな時にはだいたい「そうだ!クリストファー・ロビンに聞こう!」となり、クリストファー・ロビンはトラブルを解決するアイデアを出したり、みんなを導いてくれることが往々にしてあるのです。

そのクリストファー・ロビンが(現実的な世界で)大人になったらどうなるのか? というのが本作『プーと大人になった僕』の最大の特徴であり重要なコンセプト。子供の頃のクリストファー・ロビンはみんなに優しく面倒見がよかったのですが……大人になった彼はいつも仕事ばかりを重視し、娘に対しても厳しく、 端的に言って“遊び心を忘れた大人”になってしまっています。

これは大人になって性格が180度変わったというよりも、クリストファー・ロビンがもともと持っている“責任感が強い”という性格が、仕事をしなければならない大人になったことでマイナスに働いてしまっているとも言い換えられるでしょう。

もちろん、責任感の強さもクリストファー・ロビンの良いところではあるのですが、“そればかり”になってしまって、何かの大切な価値観を忘れているのではないか? クリストファー・ロビンが持っている本当の資質とは? ということが、物語上で重要になってくるのです。

これは、仕事をするすべての人に当てはまる物語とも言えます。もちろん仕事は生きる上で必要不可欠ではあるけれど、そればかりを重視すると、本当に大切な“その人(自分)の良いところ”をも忘れてしまうのではないかと……これに思い当たる節がある、という方は決して少なくはないはずです。

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3:メッセージは単純な“何もしない”だけではない?

昨今のディズニー作品で優れていると度々感じることは、問題に関して一元化した答えを出さないことが多いということ。シンプルでキャッチーな言葉にも、たくさんの“含み”が隠されており、メッセージは押し付けがましくなく、多様な受け取り方ができるようになっているのです。

例えば、「ありのままで(LET IT GO)」という言葉および楽曲が印象的であった『アナと雪の女王』は、その言葉通り「ありのままでいいんだよ」と訴えているわけではなく、どちらかといえば「ありのままでいいわけはなく、自分で感情や行動をコントロールすることも重要である」という含みも持たせています。

本作『プーと大人になった僕』でも「何もしないことも大切」という結論が導き出されていますが、それは「仕事をやめて休もう」という単純なことだけでもありません。どちらかといえば、それは前述した通り「自分の中にある大切なものを思い出そう」ということでもあり、「仕事をする上での最適解を見つけていこう」という物語でもあるのですから。観ればきっと、それぞれが仕事で重要なことを思い出し、工夫するためのヒントがもらえるというのも、本作の素敵なところです。

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おまけその1:合わせて『グッバイ・クリストファー・ロビン』も観てみよう!

前述した通り、『くまのプーさん』という作品群に登場するクリストファー・ロビンは、原作小説の作者であるA・A・ミルンの息子です。彼らを描いた伝記映画に『グッバイ・クリストファー・ロビン』があることもお伝えしなければならないでしょう。


実在の人物を描いている『グッバイ・クリストファー・ロビン』には、当然ファンタジー要素はありません。主人公のA・A・ミルンは戦争の経験によりPTSD(心的外傷後ストレス障害)になっており、息子が生まれた後は反戦を訴える書籍を書こうとするものの上手く執筆作業は進まず、ある時に児童向け小説のアイデアを思いつき、出版された『クマのプーさん』は大人気となる……という一見するとサクセスストーローにも思える内容ですが、それ以降は“親子の確執”が生まれていきます。

なぜかといえば、クリストファー・ロビンという本名でそのまま絵本に息子を登場させていたことにより、大人気すぎてマスコミが殺到し、ファンレターが山のように届き、クリストファー・ロビンの子供らしい子供時代が失われてしまうから。父親であるA・A・ミルンがこの事態、そしてどう息子と向き合っていくのかが見所になっています(簡単にその事態は解決には向かいません)。

A・A・ミルンを『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』や『エクスマキナ』や『ピーターラビット』などでヒドい目に合う役柄に定評のあるドーナル・グリーソン、その妻を『スーサイド・スクワッド』や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』などで癖の強い女性にも合うマーゴット・ロビーが演じていることも見逃せません。

『プーと大人になった僕』と合わせて観ると、より『くまのプーさん』という作品群の根底にあるメッセージ、作家の想いを知ることができるでしょう(“プー”という名前の由来も知ることができます)。『グッバイ・クリストファー・ロビン』はデジタル配信中、DVDは10月3日に発売予定です。

おまけその2:似ているのは『フック』だけじゃない?
この作品も合わせて観てほしい!

『プーと大人になった僕』に似た構造を持つ映画作品に、スティーブン・スピルバーグ監督作の『フック』があります。


ピーター・パンは40歳の“仕事人間”になっており、子供のころの記憶をなくしているばかりか、見た目がよれよれの中年男性なのでネバーランドに戻ってピーター・パンだとは信じられなかった……というなんとも切ない物語になっていて、中年期に差し掛かった方が観ると胸が締め付けられることでしょう。

映画ではありませんが、藤子・F・不二雄による短編マンガ『劇画・オバQ』も『プーと大人になった僕』に似ています。言わずと知れた『オバケのQ太郎』から15年後の物語で、主人公の少年はサラリーマンになっていますが、Qちゃんは変わらない姿のままで、居候してご飯も20杯を食べるために奥さんからは疎まれてしまう……というのはなんとも切なくなります。『プーと大人になった僕』では、仕事をしないといけない主人公のジャマをしてくるプーさんに(観ているこちらも)イライラしてしまうこと自体に切なくなってしまいました。

さらに余談ですが、『プーと大人になった僕』の監督であるマーク・フォースターはエンターテイメント性とドラマ性を両立した映画を数多く手がけており、『ネバーランド』というピーターパンの作者の伝記映画のほか、『007 慰めの報酬』ではカーチェイスありのアクション映画の監督も務めていました。マーク・フォースター監督作を合わせて観ると、ドラマだけでなくカーアクションシーンもある『プーと大人になった僕』に、いかに監督として適任であったかもわかりますよ。

(文:ヒナタカ)

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