『クワイエット・プレイス』が大ヒット! ホラー連発の製作会社「プラチナム・デューンズ」とは?



©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.



全米でスマッシュヒットを記録した映画『クワイエット・プレイス』が、日本でも9月28日から公開されている。音に反応して襲ってくる“何か”によって人類が危機に瀕した世界を舞台に、生き残った1組の家族を通して恐ろしいほどの静寂と極限の緊張感を生み出した本作。サスペンスホラーとして新境地を切り開いた作品として、興収面だけでなく批評面でも高い評価を受けることになった。



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そんな新機軸の作品を生み出した製作会社が、ヒット作を連発している「PLATINUM DUNES(プラチナム・デューンズ)」だ。そしてプラチナム・デューンズを立ち上げた人物の1人であり『クワイエット・プレイス』のプロデューサーを務めた人物こそ、みんな大好き“爆破王”ことマイケル・ベイである。そこで今回は、マイケル・ベイが同社で製作を担ったホラー映画の足跡をたどっていきたい。

マイケル・ベイ、ホラーアイコンを蘇らせる



ジェリー・ブラッカイマーとタッグを組んだ『バッドボーイズ』で映画監督デビューして以降、娯楽大作メーカーとして一気に知名度を高めたベイ。監督3作目である『アルマゲドン』からは自らもプロデューサーを兼任する才能を見せていたが、2001年にブラッド・フラー、アンドリュー・フォームとともに映画製作会社としてプラチナム・デューンズを立ち上げることに。同社による製作第1回作品として登場したのが、2003年のスプラッターホラー映画『テキサス・チェーンソー』だった。

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そのタイトルからも分かる通り、『テキサス・チェーンソー』は“ホラー映画の金字塔”として名高い『悪魔のいけにえ』のリメイク作品だ。人の皮を被りチェーンソーを振り回す大男・レザーフェイスとその家族の狂気を描き、マスターフィルムがニューヨーク近代美術館に永久保存されていることでも有名な作品だが、驚いたことにリメイクでは徹底したゴア描写で観客を震わせる方向へと大きく舵を切ることになった(オリジナルでは意外なほど残酷描写が少ない)。例えばチェーンソーを使った“切り株”描写はもちろん、切断面に粗塩を擦り込むような鬼畜とも呼べる描写を平然とやってのけている。ちなみに3年後には続編となる『テキサス・チェーンソー ビギニング』を製作。マーカス・ニスペルに代わりジョナサン・リーベスマンが監督に就任したが、より痛々しく血のり増し増しのスプラッターへと仕上がっている。

テキサス・チェーンソー ビギニング(字幕版)



話は戻って、『テキサス・チェーンソー』の“路線変更”について、監督のマーカス・ニスペルの意図がどれだけ反映されているかは定かではないが、少なくともプロデューサーとしてのベイの思惑が含まれている可能性は高い。ベイといえばド派手なアクションとともに残酷描写を差し込む“悪童”としても名を馳せており、『パール・ハーバー』での人体損壊(ディレクターズカット版)や、『バッドボーイズ2バッド』のカーチェイス中に無意味なほど遺体運搬車のご遺体を痛めつける悪趣味ぶりなど、割と初期からその片鱗を覗かせていた。その悪童ぶりが、プラチナム・デューンズで手掛けた作品に多く見られるのだ。

『悪魔の棲む家』、『ヒッチャー』と立て続けに往年のホラー作品をリメイクし、再びマーカス・ニスペル監督と組んだのが『13日の金曜日』のリメイク。ただでさえホラー映画界を代表する殺人鬼・ジェイソンの物語を再び呼び覚ますというのに、あの『テキサス・チェーンソー』のニスペル監督と手を取り合うのだから、さぁ大変。フタを開けてみれば、案の定エロ・グロ・ナンセンスを詰め込んだ作品に仕上がっており、顔面叩き割りや頭部串刺しなど、まさに殺人博覧会の様相を呈することになった。

13日の金曜日(2009) (字幕版)



『テキサス・チェーンソー』、『13日の金曜日』といずれもホラーアイコンを蘇らせたベイだが、意外にも(と言っては失礼だが)世界興収で1億ドル前後をマークする健闘を見せている。それに気を良くしたのかは分からないが、レザーフェイス、ジェイソンに続いて蘇らせたのが『エルム街の悪夢』だ。かつてウェス・クレイヴンがクリエイトした、鉄の爪を持つ縞柄セーターの殺人鬼・フレディをスクリーンに呼び戻したわけだが、オリジナルにあったフレディのユーモアセンスをリメイクでは排除。フレディ役を務めたジャッキー・アール・ヘイリーの怪演もあり、不気味なほど得体の知れない殺人鬼像を描くことに。ポスターなどでもその表情を読み取れないよう伏せられた状態で、本編においても陰影や暗闇を効果的に使うなどビジュアル面でも高い精度のリメイクとなった。その甲斐あってか“ホラーアイコン三部作”の中では最も高い世界興収をあげている。

エルム街の悪夢(2010) (字幕版)



マイケル・ベイ、スプラッターから離れる



レザーフェイス、ジェイソン、フレディをドル箱スターに押し上げ、そうなると気になってくるのが「次にベイはどのキャラクターをリメイクするのだろう」という期待感だ。もちろん権利諸々はあるものの、それを度外視すれば「チャッキー? マイケル・マイヤーズ?」と想像は膨らむばかりだった。ところが、2010年の『エルム街の悪夢』を最後に2013年までプラチナム・デューンズはホラー作品の製作をストップしてしまう(『エルム街~』に至るまでにリメイク作品ではない『ホースメン』や『アンボーン』があった)。そして2013年にプラチナム・デューンズが放ったのが、のちに同社での最長シリーズ化作品となる『パージ』だった。

パージ (字幕版)



『パージ』は少しだけ先の未来において、経済が破綻したアメリカを舞台とするホラー作品。イーサン・ホークを主演に迎えて描いたのは、1年に1度、夜の7時から翌朝7時までの12時間に殺人まで含めすべての犯罪が“合法”となる世界。これまでベイが手掛けてきたホラー作品群の中でも、ホラーアイコンや超常現象に頼ったものではなく、現実的な世界観の延長線上に成り立った作品となっている。それはプラチナム・デューンズでこれまであまり描かれてこなかった貧困などの社会問題にも目線を置くもので、政治的背景や血と暴力を盛り込んだスリラーとしての側面も強くなった。

決して褒められる評価ではないものの『パージ』は市場で肯定的に迎えられ、のちにプロットはそのままで『パージ:アナーキー』、『パージ:大統領令』へと規模を拡大。ホラー系シリーズとしては珍しく世界興収は右肩上がりの成績となり、『クワイエット・プレイス』に抜かれるまでは、『パージ:大統領命令』がプラチナム・デューンズのホラー系統作品でトップの成績だった(余談だが、同社のタイトル全てを含めた場合の世界興収トップは『ミュータント・タートルズ』、2位が『クワイエット・プレイス』、3位が『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>』)。

新たな扉を開けた、マイケル・ベイ





『クワイエット・プレイス』 ©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.



プラチナム・デューンズとしてはほかにも『呪い襲い殺す』(原題:『OUIJA』)シリーズやSFドラマ『プロジェクト・アルマナック』といった作品が。それらの作品群の中にあって『クワイエット・プレイス』は同社にとって予想外のヒット作へと成長し、話題を集めることになった。冒頭で記したようにホラージャンルの中で新たな潮流を作り出し、その“核心部”は同社やベイにとっても新たな挑戦となった。常に変化を続けるプラチナム・デューンズ、そしてマイケル・ベイによるプロデュース作品。これからのホラー界を牽引する大きな存在としてチェックしておいて損はないはず!

(文:葦見川和哉)

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