映画コラム
『クリード 炎の宿敵』全ての人に観てほしい5つの魅力!
『クリード 炎の宿敵』全ての人に観てほしい5つの魅力!
©2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
1月11日に公開を迎えた『クリード 炎の宿敵』は、結論からいえば“スポ根”映画ではない。もちろん『ロッキー』の系譜であるボクシング映画という括りから見ればスポーツ映画ではあるものの、その根底にあるのは勝ち負けにこだわった物語でなく、まして『ロッキー4/炎の友情』のストーリーを回収する上で、実にドラマチックな作品となった。
前作『クリード チャンプを継ぐ男』で監督を務めたライアン・クーグラーは、主演のマイケル・B・ジョーダンとともに製作総指揮を担当。当初はロッキー・バルボア役のシルベスター・スタローンが監督を兼任する予定だったが、降板ののちにクーグラーの推薦で新鋭スティーブン・ケイプル・Jr.が抜擢されている。前作と同じように、いやそれ以上に熱い物語となった『クリード 炎の宿敵』について今回は紹介していきたい。
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『ロッキー4/炎の友情』を回収した見事なアイデア!
改めて『クリード』シリーズを解説すると、物語の核となる主人公は『ロッキー』シリーズでロッキーの良きライバルであったアポロ・クリードの息子アドニスにバトンタッチ。アドニスのなかに流れる父親の血筋を見出したロッキーはトレーナー役を引き受け、アドニスを鍛え上げていく。すぐさま頭角を現したアドニスはアポロの息子“クリード”として注目を集め、ついにはチャンピオンのリッキー・コンランに挑むことになる。
本作『クリード 炎の宿敵』ではタイトルを獲得したアドニスに、ヴィクター・ドラゴからの挑戦状が叩きつけられる。『ロッキー』シリーズファンならドラゴという名からすぐにピンとくるように、ヴィクターの父親はイワン・ドラゴ。ドルフ・ラングレン演じるロシアの“殺人マシーン”であり、『ロッキー4/炎の友情』(以下『炎の友情』)のリングにおいてアポロを死へと追いつめた人物でもある。
アドニスというキャラクターが「アポロの息子」という設定である以上、イワン・ドラゴは必ず『クリード』シリーズで改めて語られるべきキャラであったことには間違いない。問題はどのように彼を登場させるかという点にはあったはずだが、その息子ヴィクターを登場させるという、ある意味では正攻法を取った。二作目で早くもアドニスにとっての“命題”が語られる上、「イワン・ドラゴの息子」の登場というのはいささか“ありきたり”ではないかという不安が正直なところあった。ところがフタを開けてみれば、『炎の友情』を回収する上でも、そして『クリード チャンプを継ぐ男』の続編という意味においても、これ以上にない完璧な回答を本作は示してみせた。『炎の友情』は興収面での成功とは裏腹に評価自体は酷評を受けてしまい、のちに様々なシーンが笑い種として語られるほどになってしまっていたが、それらも含めて本作が見事に一つの物語へと昇華したのだ。
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ドラゴ親子はただの“悪役”ではない!
本作の成功を握る上で最も重要だったのは、ドラゴ親子をいかに描くかという部分にあっただろう。イワンからすれば『炎の友情』で敗北を喫したロッキーへの復讐心があり、アドニスからすればイワンは父親の仇でもある。いうなれば二つの視点はイコールで結ばれているが、おそらくその設定ありきで本筋を描いてしまえば『ロッキー4/炎の友情』と同じ運命をたどっていた可能性は高い。
しかし脚本も担当したスタローンにとって、同じ轍を踏んでしまうことは避けたかったのだろう。ヴィクターは父親譲りの頑強な肉体の持ち主であり、身長差も圧倒的。条件としてはロッキーVSイワンとほぼ同じものだ。しかし殺人マシーンであるイワンがファイターとしての熱い心を持っていたのと同じように、ヴィクターにも“人間としての弱さ”を持たせたのだ。その弱さこそ彼が持つ本来の“強さ”と紙一重であり、一度はアドニスをマットに沈めながらも勝利を逃してしまった結果に表れている。
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試合には敗北しておきながらアドニスを相手に完膚なきまでの勝利を収めたヴィクターは、一転してヒーローへと祭り上げられていく。それは母国ロシアで父がたどったのと同じ運命であるものの、父親と決定的に違うのは、彼が心のどこかで自身の弱さに気づいていたことにあったのではないか。国を背負っていた父親と違い、ヴィクターはイワン・ドラゴという父親そのものを背負って生きてきた。そんな彼が表面上の強さとは一転して見せる“ある人物”への憎悪は、ヴィクターの強さの本質でもありウィークポイントでもあった。この点を描くにあたって『炎の友情』からの伏線を回収する手立ては実に見事だった。なるほど“ある人物”が予告編などでほとんど隠されていた意味がいま思えばはっきりしているではないか。
ヴィクターにとってその屈強な強さこそ諸刃の剣であり、憎悪はまさしく弱点そのものだった。そんな彼が改めてアドニスの挑戦を受けて立つラストファイトは、まさに本作が描きたかったテーマが見事に濃縮されている。それは“ある人物”が見せる行動からはっきりと見て取れるものだが、これも『炎の友情』でのラストファイトでイワン側に立って比較してみると奥が深いカットだ。そして本作でイワンの行動そのものが『炎の友情』から続く“呪縛”を解くという意味でも、やはりアドニスVSヴィクターのラストファイトが“答え”になっているのは勝敗以上にドラマチックな展開だった。
アドニスの精神的な成長
ドラゴ親子がストーリーを牽引しがちに思えるが、チャンピオンとなったアドニスがいきなり絶望の淵に囚われるというのも本作を語る上では外せないチャプターになっている。父・アポロの敵討ちというアドニスにとっては一世一代のリングでありながら、自らの戦法がヴィクターに全く通じず容易くマットに沈められた恐怖。本作ではそんなアドニスにたびたびアポロの姿が意図的に被せられる場面が描かれているが、アポロのたどった命運を鑑みればその演出はあまりに酷というものだ。
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満身創痍のなか、そして父親の命運が影を落とすなかでアドニス自身が父親となるのは、彼を精神的に成長させるという意味ではこの上ない出来事だっただろう。アドニスが生まれる前に父アポロはこの世を去っているため、アポロはいうなれば父親としての役割を果たすことはできなかった。そんな生い立ちがある以上、アドニスは前作で出会ったビアンカをひとりにすることなどできず、2人の間に生まれた子に同じ経験をさせるわけにはいかないという使命感が芽生えたはず。ファイターであり、夫であり、父親であり。こうした側面は『ロッキー』シリーズにおいても描かれてきた部分ではあるものの、父親を亡くしているアドニスだからこそそのドラマ性はより濃く描かれることになる。
ロッキーが醸し出す“世代交代”の波
アドニスに拳を託したとはいえ、スタローン演じるロッキー・バルボアも『クリード』シリーズにおけるファイターであることに変わりはない。前作では癌を患っていることが判明しており、彼がいつ倒れてもおかしくはない状況にいることは、ロッキーファンにとって衝撃は大きいものだった。それでもロッキーは不屈の精神で立ち続け、アドニスのトレーナーとしてワークアウトをともにする姿には往年の輝きを感じさせるものが強い。それでこそ“ロッキー・バルボア”であり、それでこそシルベスター・スタローンという名優だ。
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とはいえ、彼の立ち位置はあくまでもリング上ではなくセコンドにある。この点も『炎の友情』を踏まえた上で本作では重要な意味を占めており、ロッキーにとってもアドニスとヴィクターの一戦は“他人事”ではない。過去の因縁と決着をつける一戦であり、そのアドニスとともにリングへと向かう様はどこか哀愁感も漂わせつつ、しかしアドニスの背中を押す意味では力強いものがある。アドニスVSヴィクター戦を通して、観客はアポロをめぐる宿命の結末を見ると同時に、ロッキーからアドニス=クリードへと受け継がれる魂を見ることにもなる。そうした脚本の巧みさがすべての要素を見事にまとめ上げ、本作の芯たる部分を強固にしているのだ。
前作から続く熱い音楽!
『ロッキー』シリーズでビル・コンティが生み出したテーマ曲は、いまや世代を超えて語り継がれる名曲となった。『クリード』シリーズはロッキーの物語の延長線上であるため音楽面においてもその血は脈々と受け継がれている。前作ではライアン・クーグラー監督の盟友ルドウィグ・ゴランソンがスコアを担当して、『ロッキー』シリーズの音楽を見事に現代篇へとアップデートすることに成功している。
本作で監督はバトンタッチしたもののゴランソンが音楽を続投、お得意のリズムを多用しつつも前作以上にキャラクターに寄り添うような繊細な音楽を生み出している。前作同様に各シーンへのスコアの采配もがっちりとハマっていて、アドニスとビアンカの間に生まれた娘について語っている場面では、前作のトレーニング・モンタージュ曲「Fighting Stronger」のアレンジが流れるのも巧みな演出なので聞き逃さないでほしい。また『炎の友情』ではアポロの入場曲でまさかのボビー・ブラウンが登場するのが有名だが、本作のファイナルファイトでアドニスの入場曲「I Will Go to War」を歌い上げるのは妻であるビアンカ。歌手という彼女の役柄が活きた場面であり、演じるテッサ・トンプソンの素晴らしい歌声はスコア盤サウンドトラックでも聴くことができる。
まとめ
前評判を覆してヒットを記録した『クリード チャンプを継ぐ男』から、“熱い”男の戦いの遺伝子がしっかりと受け継がれた『クリード 炎の宿敵』。もちろん『ロッキー』シリーズ(特に『炎の友情』)を復習しておくに越したことはないものの、それぞれが戦う意味というものは本作を観る分でも十分に伝わってくるはず。リング上で、拳で語りそして闘志が魅せる物語を真正面から受け止めてほしい。
(文:葦見川和哉)
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