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2019-01-26

コラム

一線を越えた先に何が待っているのか…塚本晋也監督の『斬、』を観て痺れていただきたい

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■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。26回目の更新となりました。

毎年のことですが、新年の数字になれないウチにも時間はどんどんと過ぎ、2019という年のひと月目も後半に差し掛かっている。この思考は毎年起こるわけです。

が、焦る自分と、まぁそんなもんかと呑気に構える自分がいるのも事実。

何が正しくて、何が間違いか。

そんなものは、誰にも分からず、答えは闇の中。やるべきことは時間を掛け、自分なりの答えをなんとか見つけ出すことだと思います。

何事にも。

目まぐるしく色んな事が起こっている、この世の中。きな臭い匂いが立ち込めるこの流れに、横一文字に斬りかかる。そんな印象を抱いた素晴らしい作品をご紹介したいなと思います。

『斬、』




(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER


塚本晋也監督の最新作。

「鉄男」「野火」など、世界中にファンを持つ塚本晋也。熱狂的なファンも多く、僕の周りでも当然、塚本作品を待ちわびている人々が多いです。今作で3度目のヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品を果たしました。

江戸末期。長い泰平の世が続いていた。

都築杢之進(池松壮亮)は、藩から離れて江戸近郊の農家で手伝いをして共に暮らさせてもらっていた。農家の息子・市助(前田隆成)に木刀で稽古をつけ、自らの鍛錬も怠らずに過ごす。そんな2人を見つめる市助の姉・ゆう(蒼井優)と都築は、互いに想いあっていた。

長い泰平の中、開国するかで、世の中は動き出そうとしている。そんな中、ある浪人・澤村次郎左衛門(塚本晋也)が、2人の剣術稽古を目撃し、声をかける。江戸で仲間を集め、京都の動乱に参戦する。実力ありと思い都築を誘ったのだ。都築はもちろん、市助もそのことに同意し、澤村に同行することに。

澤村は他にも、この地で強者を探しているところに、無頼者集団が村に流れてくる。村人たちに流れてくる噂は悪いものばかりで不安な空気が立ち込める。

その頭 源田瀬左衛門(中村達也)と対峙する都築だが、源田は「俺らは悪い奴らにしか、悪いことはしねぇんだ」と、なんとか無駄な争いは起きずにいた。しかし村と無頼者、不穏な空気や距離感は変わらず。

血気盛んな市助が、源田たちと出くわし、ぶつかり合ってしまうことから、事態は思わぬほうへ動いていく。

ストーリーとしては監督も仰っていることですが、とてもシンプルです。その中でもこんなにも美しくて儚くて繊細な作品に仕上がっているのです。

一本の刀を過剰に見つめる若い浪人。

このたった一行から塚本監督はこの作品を立ち上げました。長い間、この一行が身体に残り構想を繰り返しようやく出た答え。それを目撃出来たこと、これは本当にうれしい。

なぜ
人は
人を斬るのか

都築杢之進は人を斬ったことがなく、人を斬れない男。木刀での見事な立ち回りも、真剣になると慄き震えてしまう。

その都築という男の立ち位置を、今の僕たちの世界での立ち位置のように感じてしまう。いざ、戦という経験したことのないことを目の前に急に出された時にどうなってしまうのだろうか。

今決して逃げてはいけない問いを、真っ直ぐ投げかけられている気がしました。

人任せにせずにそれぞれが、きちんと判断し、行動する。

江戸という遠い過去の歴史が、今の世の中に当てはまる恐怖。この問題にもう一度、目を向けるべきと投げかけてくれる映画。

池松壮亮さん、蒼井優さん、塚本晋也さん、キャスト陣の美しくも削りあっている演技のエネルギー、圧巻の集中力。それを焼き付ける見事なスタッフワーク。シンプルな美をさらに磨き上げている、塚本組になくてはならない、石川忠さんの音楽。

若い浪人が、一線を越えたときそのあとになにが待っているのか、どこに向かうのか。

それを是非観ていただきたい。

映画館で観て痺れていただきたい。

どうぞ。

それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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