映画コラム

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2019年05月24日

日本版『リトル・フォレスト』2部作は、韓国版を観る前に抑えておきたい

日本版『リトル・フォレスト』2部作は、韓国版を観る前に抑えておきたい

最近、アジア各国で日本映画のリメイクがなされることが珍しくもなくなってきていますが(同時に、その逆パターンも増えています)、2019年5月17日から公開された韓国映画『リトル・フォレスト春夏秋冬』も日本映画『リトル・フォレスト』2部作をリメイクしたものです。



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今回は、そのオリジナルたる『リトル・フォレスト』2部作をご紹介していきましょう。

都会から帰ってきたヒロインの
自給自足生活


日本映画『リトル・フォレスト』2部作は、五十嵐大介の同名コミックを原作にしたものです。

まずは『リトル・フォレスト 夏・秋編』が2014年8月30日に、続いて『リトル・フォレスト 冬・春編』が2015年2月14日に封切られました。

主人公は東北の小さな集落・小森(モデルは原作者が実際に暮らしていた岩手県奥州市衣川区大森)に住む女性いち子(橋本愛)。

かつて東京で暮らしていたこともあるのですが、そこでの恋や人間関係などにうまくなじめず、小森に戻ってきたいち子は、何もかも自分でやらないと気が済まない性分で、それが高じていつのまにか畑を耕して自給自足の生活を送るようになっています。

料理も得意で、自家製のパンを焼き、ジャムもウスターソースも手作りといういち子ですが、それらは全てかつて突然家を出ていった母の福子(桐島カレン)から教えてもらったもののようです。

小森にはいち子と同じく都会から帰ってきた友人のユウ太(三浦貴大)がいますが、どこか都会を嫌っている節がある彼に対し、いち子は「都会から逃げてきた」という意識を払拭しきれずにいるようで、一方ではこの地に定住するのをどこかたられっている節もあります……。

映画はそんないち子の夏から翌年の春までの、およそ一年の生活を『夏』+『秋』と『冬』+『春』の2部作に分けて描いていくのでした。



(C)「リトル・フォレスト」製作委員会 



達観したふりをしつつ
葛藤し続ける平成の若者像



大きな見どころとしては、豊かな大自然の中でいち子が手作りする料理の数々で、季節の旬の素材を活かしながら、ちょっとしたアレンジを試みたりと、実に美味しそうなそれらは、一方ではそのときのいち子の心理を表現していたりもして、映画として実にさりげなくも深い感慨をもたらしてくれます。

時に自分が「他人と向き合っていない」ことを親友のキッコ(松岡茉優)から指摘され、気まずくて落ち込むこともありますが、仲直りさせてくれるのもお互いが作る料理だったりもします。

主演の橋本愛は撮影前から幾度も現地に入って役作りする熱の入れようで、農業や料理を作るシーン、また春編のクライマックスとなる神楽舞などもすべて吹替なしで撮影されました。



(C)「リトル・フォレスト」製作委員会 



監督は『Laundry』(02)『銃力ピエロ』(09)などの才人で、今年は吉岡里帆主演のサスペンス映画『見えない目撃者』(こちらは韓国映画『ブラインド』の日本リメイク)が秋に公開予定の森淳一。

思うに、昭和の青春映画の大半は良くも悪くも熱く燃え盛っていたのに対し、平成期の青春映画はどこか達観したふりをしつつ冷めた風情を装うものが多かったような気がしていますが、本作はまさにそんな平成期の青春像を象徴し得たものになっているのではないかと、令和の時代に突入したばかりの今、そのように感じられてなりません。

世知辛い世の中を見て見ぬふりすることで傷つくことを恐れつつ、心のどこかでは葛藤している若者たちも、いつかは対峙しなければならない時が来ることを、本作はコワモテ風ではなく慈愛に満ちた優しい眼差しで示唆しているのです。

□『リトル・フォレスト 夏・秋編』を配信しているサービス(2019年5月24日現在)
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□『リトル・フォレスト 冬・春編』を配信しているサービス(2019年5月24日現在)
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ちなみに韓国版は『お嬢さん』でブレイクしたキム・テリを主演に、都会から故郷へ帰ったヒロイン1年の流れを2時間に凝縮しながらドラマを進めていきます。

登場する料理の中にトッポギや蒸し餅、マッコリなどが登場するのも、韓国版リメイクならではのお楽しみでしょう。

(文:増當竜也)

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