映画コラム

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2019年06月08日

樹木希林が『エリカ38』で浅田美代子に送った壮絶なる「悪女のススメ」!

樹木希林が『エリカ38』で浅田美代子に送った壮絶なる「悪女のススメ」!



(C)吉本興業



昨年、惜しくもこの世を去った名優・樹木希林。今も発言集などの出版物がベストセラーとなり、回顧展などが開かれるなど、話題の的になり続けています。

そんな樹木希林が生前、唯一企画した映画がこのたび公開となりました。

その名も『エリカ38』。

主演は、樹木希林とは旧知の仲の浅田美代子なのですが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街385》

これがもう「浅田美代子にそんなことやらせちゃったたの!?」と驚くほどの悪女の映画だったのです!

稀代の詐欺師をヒロインに据えた
衝撃の実話の映画化



『エリカ38』の主人公は、水商売をしながらアメリカ製サプリを扱うネットワークビジネスを営んでいる渡部聡子(浅田美代子)です。

ある日、彼女は上品な和服女性・伊藤信子(木内みどり)に声をかけられ、やがて平澤(平岳大)という男を紹介されます。

平澤が手掛ける途上国支援事業に関わることになった聡子は、持ち前のチャーミングさと、巧みなセールストークで多くの人々から多額のお金を集め、彼ともども派手に使いまくるようになっていきますが……。

といったところまでで察しがつくように、これは詐欺師のお話であり、実話の映画化でもあります。

1970年代にアイドルとしてデビューし、その後は『釣りバカ日誌』シリーズの二代目みち子さんを好演するなど、常に愛らしいイメージでやってきた浅田美代子に稀代の悪女を演じさせようという、それが樹木希林の目論見だったのです。

そもそも樹木希林と浅田美代子は70年代の人気ドラマ『時間ですよ』で共演して以来、お互いの酸いも甘いも知り尽くす仲であったわけですが、そういった長年の付き合いの中から、樹木希林は浅田美代子の奥に潜む部分を女優として表に引っ張り出してみたら面白いと、これまた女優として直感したのかもしれません。

そして結果は見事なまでに、性別も年齢も問わず知り合ったが最後、金から何まで巻き上げられてしまうこと必至の魅力を放つ悪女を、浅田美代子は恐ろしいほどの可愛らしさで体現してくれているのです!



樹木希林と浅田美代子の
ゆるぎない信頼関係



浅田美代子といえば、70年代思春期世代にとっては前述の『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』シリーズなどのTVドラマや、『しあわせの一番星』『あした輝く』などの主演映画でアイドルの誉れとも呼ぶべき愛らしさを提示してきた存在です(ちなみに本作は『あした輝く』以来の主演映画とのこと)。

実は最近たまたま『しあわせの一番星』『あした輝く』を見る機会があり、その直後に本作を見させていただいたのですが、驚いたのはここでの彼女の笑顔が数十年前のアイドル映画の笑顔と同質ともいえるオーラを放っていたことで、しかしながら全然違うのはかつてのアイドル映画はその愛らしさが観る者をなごませ幸せな気分にさせてくれるのに対し、本作の愛らしさは観る者の心を凍らせていくかのように邪心に満ちたものなのです。

いや、邪心というのは間違いでしょう。ここでの彼女は自分が悪いことをしているといった意識などサラサラ持ち合わせてないようで、それこそ純粋な笑顔をもって周囲の者たちをだまくらかしていくのです。

ある意味、もっともタチが悪い詐欺師といえるかもしれません。

劇中、ヒロインが配当金が受け取れない出資者たちと対峙するシーンがありますが、そこでの彼女の開き直りっぷりのある意味見習いたくなるほどの(!?)凄さは、映画ならではの「悪女のススメ」たるピカレスク・ロマンを成立させてくれているのです。

こうした稀代の悪女を憎たらしくも可愛く体現できる女優であることを、樹木希林はきっと察知していたのでしょう。

そしていつか彼女のためにこういった作品を人生の置き土産として遺していったに相違ありません。

また浅田美代子自身も、そんな樹木希林の想いを汲みつつ、思いっきり欲望の羽を拡げたミステリアスな魅力を放っています。

ミステリアスといえば、本作のタイトル『エリカ38』とは、聡子がタイに赴いて現地の若い男を囲ったとき、自分をエリカと名乗り、実年齢より20も下の38歳と偽ったことから採られているのですが、これによって彼女が60前後に見えたり38歳に見えたりと、観ている側を錯乱させてくれる効果ももたらしてくれています。

恐らくこの作品、多くの同性から共感をもって受け入れられるような気がしています。

それはこういった犯罪を自分もやってみたいということではなく、欲望をあらわにすればするほど可愛く映えていくヒロインに対する理屈を超えたシンパシーとして……。

製作総指揮は昨年青春ハードボイルドの秀作『銃』を世に放った奥山和由、今回もピカレスクこそ映画の華であるといったポリシーを、高倉健を偲ぶドキュメンタリー映画『健さん』で話題となった日比遊一監督に委ね、多大な成果を上げています。

そして何よりも樹木希林、本作にもヒロインの母親役で出演もしていますが、やはり繰り返しますが浅田美代子との友情とも信頼ともいえるゆるぎない関係性が、この作品を一層魅力的に映えさせているのでした。

(文:増當竜也)

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