新しい『パピヨン』は73年オリジナル“神”版ファンも納得できる出来!
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古今東西、名作映画のリメイクは常に行われ続けていますが、正直この映画のリメイクだけは見たくはない……というかリメイクしようという恐れ多い考えを持つ者がいることすら、にわかには信じられないほどでした。
1973年度製作のフランス&アメリカ合作映画『パピヨン』。
アンリ・シャリエールの自伝小説を原作に、フランクリン・・シャフナー監督のメガホン、スティーヴ・マックィーン&ダスティン・ホフマン主演で描いた脱獄映画の名作です。
人によっては、これを“神”映画とみなしている方も多いことでしょう(私もそうです)。
ところが、この『パピヨン』がついにリメイク! 見るべきか見ざるべきか大いに迷いつつ、やはり見てみないことには何も言えないだろうということで、恐る恐る試写室へ赴いたところ……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街388》
これが、な、何と73年オリジナル版のファンも納得できる優れものに仕上がっていたのでした!
マックィーン&ホフマンに
挑んだハナム&マレック
繰り返しますと、映画『パピヨン』は1931年のパリで捕えられ、幾度も脱獄を繰り返し手は捕らえられ、ついにはフランス史上最悪と呼ばれた南米の流刑地“悪魔島”に収監されるも、そこからの脱獄に成功したアンリ・シャリエールのおよそ13年に及ぶ執念と奇跡の自伝小説を原作にしたものです。
ちなみにパピヨンとはフランス語で「蝶」のこと。
シャリエールは胸に蝶の刺青をしていたことから、パピヨンというあだ名で呼ばれていたのです。
73年版でパピヨンを演じたのは、今なお不滅の人気を誇る大スター、スティーヴ・マックイーン。
そして彼と共に脱獄を試みる獄中の友人ドガにダスティン・ホフマン。
飄々としつつもギラギラした執念を隠すことのないマックィーンのパピヨンと、一見抜け目がないようで、その端々から人間味を覗かせるホフマンの絶妙のコンビネーションは、当時も今も映画ファンを大いに魅了するところです。
今回、パピヨンを演じるのは『パシフィック・リム』(13)『キング・アーサー』(17)などのチャーリー・ハナム。
マックィーンのギラギラした個性とは少し異なったタフガイ的精悍さが新味となっています。
かたやドガには『ボヘミアン・ラプソディ』(18)のフレディ・マーキュリー役で一大ブレイクしたラミ・マレック。
ホフマンよりもちょっと弱々しい感じが功を奏して、パピヨン×ドガの関係性にある種の華を与えているかのようです。
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原作及び73年版脚本から
繰り出されたリメイク版
今回の映画化に際してはアンリ・シャリエールの小説に加えて、ドルトン・トランボが記した73年版の脚本もベースにしながら、デンマーク映画界の若手ホープたるマイケル・ノアー監督と、『プリズナーズ』(13)などのアーロン・グジコウスキが共同で脚色。
ドルトン・トランボは戦後ハリウッド赤狩りの犠牲となり、『ローマの休日』(53)『黒い牝牛』(56)などの名作脚本に携わりつつも長年実名を公開できなかった時期があったことで、自由を求めて脱獄を試み続けるパピヨンという囚人に、その痛恨の想いを託していました。
今回のリメイクは、そんなトランボの想いを受け継いでいることが、まずは成功の要因だったのではないかと思われます。
一方でマイケル・ルアー監督は、あえて73年版を意識せず、プロジェクトに関わって以降は見返すことは避けて、何かつまづいたりしたらシャリエールの原作本を読み返しながら作業を進めていったとのこと。
つまりは73年版を意識した脚色と、原作を意識した演出の融合によって、73年版をリスペクトしつつもそれから45年以上の時を超えた現代に訴え得る『パピヨン』が誕生したと捉えるのが得策かと思われます。
今回のリメイク版にはパピヨンが捕まるまでのプロローグや脱獄成功後のエピローグなど、73年版にはなかったシーンも出てくる一方で、上映時間は73年版(151分)よりも短い133分で、その分テンポなどは今の映画観客のニーズに沿った流れのリズムになっています。
独房での過酷な諸描写や、コロンビアへ逃げての楽園のようなひとときなどは正直73年版に軍配があがりますし、またさすがに73年版のジェリー・ゴールドスミスによる「これぞ“神曲”!」といえる音楽の芳醇なる感動を求めることはできませんが、リメイク版のほうはややクールな趣きや抽象的表現なども感じ取れ、これはマイケル・ルアー監督の個性も関係しているのかもしれません。
見ていくうちにどんどんチャーリー・ハナムの顔がスティーヴ・マックィーンの顔に似てくるように感じられてくるのも、作る側の姿勢のベクトルが73年版とリメイク版の双方とも同じだったからでしょう。
本作を見終えた後、すぐさま家に帰って73年版をBlu-rayで見返してしまいましたが、それはリメイク版がつまらなかったからではなく、逆に面白かったがゆえに偉大なる先達の名作を再確認し直したくなったからなのでした。
こういうリメイクは正直大歓迎なのであります。
(文:増當竜也)
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