『アイアン・スカイ』ティモ・ヴォレンソラ監督に聞く!カットされた重要シーンとは?



©2019 Iron Sky Universe, 27 Fiims Production, Potemkino. All rights reserved.



月からナチスが攻めてきた!

観客の意表を突いたトンデモ設定と、見事なCG合成によるクオリティの高さが評判を呼び、世界中でヒットを記録した2012年の作品『アイアン・スカイ』。

その7年振りの続編となる『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』が、遂に7月12日から日本でも公開されました。



月面で一大決戦が繰り広げられた前作とは180度変わって、今回の舞台は何と地球の奥深くに存在する地底王国!

えっ、前作のあのラストから、この設定にどう繋がるの?

観る前から既に謎だらけの本作なのですが、今回はその見どころや制作エピソードを、プロモーションのために来日したティモ・ヴォレンソラ監督にインタビューしてきました。

1979年生まれ、現在39歳の若き映画監督が、再び7年の歳月をかけて作り上げた作品は、果たしてどんな内容に仕上がっているのか? 30分という限られた時間内でしたが、いろいろとお話を伺ってきましたので、まずはそのインタビューの模様をどうぞ。




――今回は舞台が宇宙から地球の内側へと大きく変更されていますが、やはりそれはエドワード・ブルワー=リットンの書いた小説「来るべき種族」からの影響によるものでしょうか?

監督:確かにタイトルやヒト型爬虫類の登場、それに未知のエネルギー"ヴリル"とか、小説の要素は映画に登場するけれど、他にもあまりに多くの要素が映画に登場するので、直接影響を受けたのかと言われると答えるのは難しいね。基本コンセプトの部分では、確かに影響を受けているかもしれない。

――何故これを聞いたかというと、「来るべき種族」が日本では長い間邦訳されてなくて、やっと昨年の8月に正式な邦訳が出版されたからです。その分「来るべき種族」への馴染みが薄い日本の観客には、逆に小説から離れたオリジナル作品として、先入観無しに観てもらえるのではないかと思って。

監督:ホントに? そうだと嬉しいね。


――ただ、前作とはかなり方向性が変わっているので、宇宙空間のバトルを期待していた観客は、ちょっと戸惑うのではないかと。今回、そうまでして監督が地球の内側の世界を描きたかった理由とは、何でしょうか?

監督:SF小説の舞台が宇宙にまで広がる以前は、ジュール・ヴェルヌの作品の様に地下世界や海底という、地球にある未知のフロンティアが舞台になっていたんだ。僕も子供の頃はジュール・ヴェルヌが大好きで、地下世界を舞台にした冒険映画や小説を楽しんだ。だから、その頃と同じ自由な発想やフロンティア精神を現代に蘇らせたかったんだ。

――確かに、地球空洞説とか「海底二万哩」での海底探検が、宇宙SFの前は主流でしたね。

監督:今回、敢えて全然違うテイストの映画にしたのは、一度成功してヒットした映画をトレースして、同じ様な作品を量産して飽きられるよりも、一つのテーマを選んで毎回違った内容にすることで、同じ作品世界の中でもオリジナル性を持った作品が作り続けられると思ったんだ。



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――その点を踏まえて、気になる3作目についてお聞きします。実は以前、3作目が2018年に公開予定とのニュースがネットで発表されたのですが、その後の製作状況などを話せる範囲で是非お願いします。

監督:3作目(仮題『アイアン・スカイ:ジ・アーク』)は、フィンランドと中国との合作映画で、実は内容的にはスピンオフ作品になる。だから厳密には、第3作とはちょっと違うニュアンスなんだけど。物語自体も過去2作とはあまり関係が無い内容で、あくまでも中国が舞台のスピンオフになる。

公開の時期は、うーん、中国側のプロデューサーの意向にもよるので、今のところ編集真っ最中と言っておこうかな。うまくいけば、今年中に公開できるかもしれないね。

――ファンとしては、期待して待つしかないですね。ところで、3作目にアンディ・ガルシアが出演するという話を聞いたんですが?

監督:もちろん、出演してるよ。

――おお! ちなみにどういった役でしょう、やっぱりナチですか?

監督:残念、ナチじゃなくて彼はイルミナティの一員として出演してるんだ。

――あ、そっちの方向に行くんですか! 個人的には時代が遡って、ナチスのUFO開発にまつわるエピソード1的な話になるかと思ってたので、ちょっと意外でした。

監督:実は今ちょうど、いろいろな『アイアン・スカイ』ユニバースの物語の可能性を考えているので、そっちの方向に行くって可能性もあるかもしれないね。うーん、でもどうなるかは本当に完成するまで分からない。ただ中国との合作によるスピンオフに関しては、未来が舞台になるはずだよ。




――ところで前作で重要なキャラクターだった、黒人モデルのワシントンが今回は登場しません。彼はどうなったんでしょうか?

監督:死んだ(笑)!

――いや、それは分ってますけど(笑)。映画の中には遺影で登場して、具体的な死因が説明されなかったので。

監督:原因は肺ガンだね。映画を観て分かる通り、月面基地は採掘現場の影響で"月のほこり"がひどいことになってるんだ。それに登場人物が皆咳をしてるし、ウド・キアが演じるキャラクターも、同じ病気にかかって咳をしている描写が出てくるだろ。

――なるほど! 納得しました。今ちょうど、ウド・キアの話題が出たのでお聞きしますが、ウド・キアという俳優は、どんな人物なんでしょうか? どうしても映画で演じた役のイメージが強いのですが。

監督:バンパイアみたいな(笑)? もちろん実際のウドは世界一ユーモアのある人で、部屋に彼がいるだけでそこがパーティー会場になるくらい、楽しい人物だったね。

誰とどこにいても、たとえアンディ・ガルシアや他のスターが一緒にいても、ウドが部屋に入ってくるや、彼がその場の空気を支配して主役になってしまうんだ。彼のジョークや小噺は面白いし、何よりとてもフレンドリーで、『アイアン・スカイ』シリーズ2本の撮影を通して、プライベートで彼の家に遊びに行くくらい凄く仲良くなれたんだ。

――今、「アンディ・ガルシアと一緒に~」と言われたんですが、ということは製作中の3作目にもウド・キアは出ている?

監督:もちろん(笑)! でも小さい役だけどね。

――そうなると、ウド・キアを通して3本の映画が繋がるってことですか?

監督:そうだね、ウドの演じる"ウォルフガング"というキャラクターが、3本を結びつける重要な役割を果たすことになるはずだ。



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――監督の作品では、強い女性が活躍する場合が多いのですが、それは普通に男が活躍するよりも意外性があって面白いからですか?

監督:いや、そういうわけじゃなくて、女性をメインキャラクターにすることで、物語を描く目線が変わってくるだろ。今までナチスを扱った映画はいっぱい作られているけど、どれも男性目線で描かれたものばかりじゃないか。女性の目線から描かれた作品がとても少ないので、1作目では月面とナチに女性という、意外な取り合わせにしてみたというわけだ。

今回の続編に関しては、1作目の流れから自然に主人公に娘がいるという設定にしようと思ったんだ。娘が母からバトンを受け継ぐ形で物語が続いていく設定って、凄くいいだろ。特に僕の中に強い女性を登場させるというルールがあるわけじゃなくて、SFって男性の主人公が多いから、その視点を少しシフトさせるだけで、まだまだ面白い作品が作れるじゃないか。



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――最後に一つだけ。前作『アイアン・スカイ』で、せっかく"宇宙戦艦ヤマト"を登場させたのに、編集でカットされたとのことですが、今回それに当たる様な"イースターエッグ(隠れキャラ)"の登場などはありますか?

監督:実はこの作品でもカットした部分はいくつかあるんだけど、一番大きなシーンは、あるミュージカルナンバーを丸々カットしたことかな。

――えーっ! もったいないじゃないですか。それって、ちなみにどんなシーンだったんですか?

監督:凄く美しいシーンで、ウド・キアが階段を降りてきて「娘よ、娘よ~」といきなり歌いだすんだ! 映画の途中でいきなり「えっ、ミュージカルが始まったのかよ」って観客が思うようなね。準備にも凄く時間を費やして二日間かけて撮影して、もの凄くいいシーンが撮れたんだけど、ところが編集の時に他のシーンと全く合わなかった…。

――でしょうね(笑)!

監督:いろんなシーンの間に、あれこれ試行錯誤して入れてみたんだけど、残念ながらどれもダメだった。でも、間違いなくこの映画の中で一番いいシーンだから、ディレクターズカット版には何とかして入れたいと思ってるよ。




実は映画学校に通ったことが無く、独学で7年かけて完成させた『スターレック 皇帝の侵略』(2005年)で世界に認められた、ティモ・ヴォレンソラ監督。

インタビューが終わって、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』が好きなティモ監督に、日本の本や資料をいろいろとプレゼントしたのですが、『スターレック 皇帝の侵略』の日本版DVDを見せたところ、「凄い! これ写真撮っていい?」と喜んでくれたのが印象的でした。

最後に



いかがでしたか?

きっと本作を観て、前作と全く違った展開に困惑された方も多いのではないでしょうか?

実はインタビューでも触れたのですが、本作の原題『~カミング・レース』が表している様に、今回の続編はエドワード・ブルワー=リットンの小説「来るべき種族」に大きな影響を受けています。

来るべき種族 (叢書・エクリチュールの冒険)



ただ、残念ながら日本で「来るべき種族」の正式な翻訳が出たのは昨年の8月だったため、この小説の知識無しに映画を観た方も多いと思います。

そのため、小説の中に登場する未知のエネルギー"ヴリル"や、ヒト型爬虫類が生息する"地球空洞説"が登場する本作の展開に、「急にトンでもない方向に話が進んでるけど、何これ?」、そんな感想を持ってしまった方も少なからずおられるのではないでしょうか。

しかし、小説に出てくる"ヴリル"という未知のエネルギーに興味を持ったヒトラーが、実際に影響を受けて数々の実験や兵器開発を行い、更には"ヴリル"を見つけるための探検隊を派遣していたことを知って鑑賞すると、今回の監督の意図が見えてくるのではないでしょうか。

更に、実はナチスが密かにUFOを完成させて火星に到達していたという都市伝説や、ヒトラーと親しかったドイツの地政学者であるカール・ハウスホーファーが、第二次大戦中にドイツとロシアとの同盟の必要性を主張したにも関わらず、ヒトラーがソ連に侵攻した歴史的事実を前もって知っておかれると、本作でロシア人が登場する展開やラストシーンにも納得がいくと思います。

3作目にしてスピンオフ作品となる『アイアン・スカイ:ジ・アーク』(仮題)では、ついに秘密結社イルミナティが登場するなど、今後は更に世界的な陰謀論の内幕に踏み込む内容に発展しそうな、この『アイアン・スカイ』サーガ。

さすがに3作目の公開まで7年空くことはなさそうですが、まずはその公開を楽しみに待ちたいと思います。

(文:滝口アキラ)

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