映画コラム

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2019年09月27日

『オール・アイズ・オン・ミー』と「人に歴史あり!」な4本の映画

『オール・アイズ・オン・ミー』と「人に歴史あり!」な4本の映画



(C)2017 Morgan Creek Productions, Inc.



現在ベニー・ブーム監督作品『オール・アイズ・オン・ミー』(17)がU-NNEXTやアマゾンプライムビデオ、NETFLIXなどのサイトで配信中です。

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1991年にラッパーとしてソロデビューし、一躍ヒップホップ界の頂点に立つも、凶弾に倒れ25歳の若さでこの世を去った2PAC(ディミートリアス・シップ・ジュニア)の短くも激しく燃えた生涯を描いたこの作品、実は背景となった1990年代当時のヒップホップ界の西海岸VS東海岸抗争に2PACも巻き込まれていった事実と、未だに謎が残る死を抗争の悲劇の象徴としても描出していきます。

彼自身は死後も世界中のアーティストやファンからリスペクトされ続け、2017年にはロックの殿堂入りを果たしていますが、本作はそんな2PACを生前から知るL.T.ハットンがプロデューサーとして陣頭指揮していることもあって、公私に渡る彼の波乱の生涯を露にしています。

「全ての人に歴史あり」と痛感させるに足る本作。

そこで今回は「人に歴史あり」と思わず考えさせられてしまうような映画を集めてみました。

『フォレスト・ガンプ』がシンクロさせる
人生とアメリカ社会&風俗史


「人に歴史あり」ということで、真っ先に思いつくのがこの作品『フォレスト。ガンプ 一期一会』(94)です。

フォレスト・ガンプ/一期一会 (字幕版)



他人よりも知能は劣るものの、純真な心をもって周囲の人々の慈愛を受けつつ数々の成功を収めていくフォレスト・ガンプ(トム・ハンクス)の半生をつづったロバート・セメキス監督のヒューマン映画。

1950年代から90年代までの激動のアメリカ史に乗せて、時折々の事件や人物とフォレストが関わっていく仕掛けが実にユニーク。音楽もその時期に流行した歌曲などがふんだんに用いられることで、時代の空気感も見事に醸し出されています。

中でも記録フィルムの中のケネディ大統領などとフォレストを巧みに合成させて「共演」させているあたりもお見事。

母(サリー・フィールド)が言う「人生はチョコレートの箱、開けてみるまではわからない」の名台詞が示唆するように、あくまでも人の善意を信じて前向きに生きようとするフォレストに多くの観客が感銘を受けるとともに勇気をもらい、世界中で大ヒット。

第67回アカデミー賞作品・監督・脚色・主演男優・編集・視覚効果賞を受賞し、作品そのものが歴史に名を残すことになりました。

80年代の古き良き青春の日々と
現代を対比させる『横道世之介』


続いては、吉田修一の同名小説を沖田修一監督が映画化した青春映画『横道世之介』(13)。

横道世之介



舞台は1980年代、大学進学のために長崎の港町から上京してきた横道世之介(高良健吾)。その明るく素直で嫌味のないキャラクターは周囲の人々を次々と魅了していきます。

一方ではやはり若い男の子、年上の女性(伊藤歩)に片思いしたり、お嬢様の祥子(吉高由里子)と淡く微笑ましい関係になっていったり……。

しかし、そんな大らかで楽しい80年代バブル期の大学生活を描いた映画の域に留まらず、本作は一気に16年後の2000年代、即ち「今」の彼らを捉えていきます。

およそ160分という青春映画としては一見異例にも思える長尺ですが、のどかで楽しくも愛しかった青春時代と、どこかシビアに映える現実との対比が巧みに描かれることにより、劇中では描かれない16年間の彼らそれぞれの人生の歴史そのものにまで想いを馳せてしまうという効果までもたらしてくれているのです。

ちなみに主演の高良健吾と吉高由里子は『蛇にピアス』(08)でお互いの身体にピアスの穴を入れまくる壮絶なまでに痛いカップル役で共演していますが、それから5年後、本作では一転して明るく爽やかで切ないピュアな関係性を構築しています。これもまた「人に歴史あり」ですね。

伝説の女優が演じる人生の
現在過去未来『千年女優』(01)


次にアニメーションから、ファンタジー映画『千年女優』(01)を通して「人に歴史あり」を追っていきましょう。

千年女優 [DVD]



かつて一世を風靡しながらも30年前に忽然と公の場から姿を消した女優・藤原千代子の半生を振り返るドキュメンタリー制作を依頼された映像制作会社の社長・立花。

千代子のファンでもあった立花は面会が叶い、彼女のインタビューを始めますが、そこで語られていく千代子の波乱の人生とは……。

過去と現在、現実と幻想、そして何が真実で何が虚構なのか定かではなくなっていく千代子の生涯の中で、やがて一途な「恋」の想いが芯となっていることがわかるに従い、映画はむしろ狂気を帯びていくスリル。

時空を超えたかのような構造は現代劇や時代劇と常に役を演じ続ける「女優」とシンクロし、まるで輪廻転生のような趣きすら感じさせていくのです(タイトルがまたそのことを巧みに象徴しています)。

見る人の人生観によって意見も感想も賛否もかなり異なるであろう、そんなウソとマコトの狭間の世界へ巧みに誘ってくれるのが、『パーフェクト・ブルー』『パプリカ』など秀逸な作品を発表し続けながらも46歳で早逝した今敏監督。

なお本作はドリームワークスの配給で海外でも上映され、日本のアニメーション文化を更に広く世界中に知らしめるに足る1本となりました。

ジェームズ・ディーンの
遺作『ジャイアンツ』


最後に映画そのものではなく、演じた俳優そのものの歴史を思わせる作品として、『ジャイアンツ』(56)を遺作にこの世を去ったジェームズ・ディーンを挙げておきたいと思います。

ジャイアンツ(字幕版)



実は彼、2PACよりも若い24歳で、本作撮影終了直後の55年9月30日に自動車事故で亡くなっています。

しかし、彼が遺した3本の主演映画『エデンの東』(55)『理由なき反抗』(55)そして本作は世紀を超えた名作として今も生き続け、映画史にその名を轟かせ続けているのです。

『ジャイアンツ』という映画そのものも、テキサス州の大牧場を舞台に20世紀前半から中盤までのアメリカ史を壮大なスケールで描いていきます。

緑豊かな東部から砂漠の埃舞う大西部のベネディクト家へ嫁いできたレスリー(エリザベス・テイラー)は、その環境の違いに戸惑いつつも、人種差別や偏見に満ちた牧場とその周辺を少しずつ改革していき、やがては頑固ながらも妻には頭が上がらない夫ジョーダン(ロック・ハソソン)の心境の変化までうかがわせていきます。

そんなレズリーに片想いしているのが、ジェームズ・ディーン扮する貧しい牧童のジェット・リンクで、馬よりも車が好きな彼は、やがて石油を掘り当ててベネディクト家以上の富と名声をつかみますが、差別と偏見を払拭することのない成り上り者として、いつしかレズリーにも疎まれていきます。

アメリカン・ドリームを成し得ながらも、愛だけは手に入れることのできなかった男の、およそ30年の孤独と憂いをジェームズ・ディーンは見事に表現。

特に若き日の彼の繊細でシニカルながらもどこかはにかんだような可愛らしさを忍ばせた演技は大いに魅力的で、一方で中年以降のシーンではベルトに鉛を入れて重々しさを出しつつ撮影に臨んでいたとのこと。

もしジェームズ・ディーンが生き続けていたら、アメリカ映画史もまた大きく変わっていたことでしょうが、それはそれとしてやはり彼が遺した3本の映画に想いを馳せつつ、たった24年の短い人生でも成し遂げられるものがあることを前向きに捉えていきたいものです。

(文:増當竜也)

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