『エルネスト』、我々がチェ・ゲバラに魅了される理由とは?
©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.
こんにちは、八雲ふみねです。
今回ご紹介するのは、現在公開中の『エルネスト』。
チェ・ゲバラの没後50年、見果てぬ夢を追い求めた二人の“エルネスト”が甦りました。
八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ vol.127
医者になることを夢見る日系二世のフレディ前村は、キューバのハバナ大学に留学中、キューバ危機に直面。その混乱の中で、チェ・ゲバラに出会う。
彼が持つ理念やカリスマ性に感銘を受けたフレディは、ゲバラの部隊に加入。ゲバラのファーストネームである“エルネスト”を戦士名として授けられ、やがてボリビアの軍事政権を倒す戦いに身を投じていく…。
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知られざる歴史に光をあてる。
キューバの歴史的英雄、チェ・ゲバラ。
理想を追求し、信念を貫き通した彼の生き方は多くの人に知られていますが、ゲバラが命を落としたボリビア戦線で共に行動し、志を貫いて殉じていった唯一の日系人が存在したことは、あまり知られていない事実です。
そのフレディ前村ウルタードに光を当てたのが、本作『エルネスト』。
主演は、オダギリジョー。フレディ役を演じるために、クランクイン前からスペイン語を、しかもフレディの生まれ故郷であるボリビア ベニ州の方言を習得。単身キューバに乗り込み、撮影に臨みました。
一方、歴史的英雄 チェ・ゲバラを演じたのは、キューバの俳優で写真家としても活躍するホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ。阪本監督によると、ゲバラ役を決めるオーディション会場でラテンなキューバ人俳優たちが陽気に自分の出番を待つなか、その時が来るのをひとり静かに待つホワンの姿に、ゲバラと重なる部分があったのだとか。
オダギリジョーとホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、ふたりの情熱を秘めた存在感あふれる演技は、魂で通じ合ったフレディ前村とチェ・ゲバラそのもの。
観る者の魂をも揺さぶることでしょう。
さらに冒頭のチェ・ゲバラの広島訪問を取材した日本人、森記者役を永山絢斗が好演しています。
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フレディ前村の遺族たちの思いを背負って…。
メガホンを取ったのは、阪本順治監督。約3年半にわたるリサーチを重ね、当時のフレディやゲバラを知る関係者への取材をもとに、自ら脚本を執筆しました。
キューバでの撮影は予測外の事態が起こることも多く、思うようにカメラを回せない日もあったとのこと。それでもとことん史実と向かい合うことで「フレディ前村というボリビア人の日系二世がいた」ということを世間に知らせたい…。そんな阪本監督の使命感にも似た思いが、映像の随所から伝わってきます。
ボリビア戦線を題材にした映画…と聞くと、戦争映画をイメージする人も多いかと思いますが、本作はフレディ前村というひとりの青年の学生生活を中心に描いた青春物語。
しかし、医者を目指して普通に大学生活を送るはずだった若者が、何故、銃を手にゲリラ戦に身を投じたのか…という過程が克明に描かれており、そのリアリティは現代を生きる私たちにも響きます。
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これは、日本映画界の革命。サムライたちの志が観客を魅了する…。
10月7日に開催された公開記念舞台挨拶に、オダギリジョー、永山絢斗、阪本順治監督が登壇しました。
「いまの日本映画界ではチャレンジングな作品。だからこそ参加したいと思いました」とオダギリさんが話せば、「(この映画の)完成を待たずに亡くなった、フレディさんの姉のマリーさんに本作を捧げたい」と語る阪本監督。
そして「この映画に参加出来ただけで幸せ」と笑顔を見せる、永山さん。
共に闘ったサムライたちの姿に、お客様も魅了された様子でした。
またチェ・ゲバラの50回目となった10月9日には、ゲバラ追悼イベントを開催。
作家の海堂尊氏が登壇し、ゲバラファンを代表して献花台に花束を添えました。
「とても強烈に、しかも自然に人を惹き付ける力がチェ・ゲバラにはあった。フレディも、その磁場に惹き付けられたのではないかと思います」と、海堂さん。
二人の関係性にまつわる海堂さんの鋭い推察に、観客も司会を務める私も興味深く聞き入ってしまいました。
海堂さんは現在、チェ・ゲバラを主人公に据えた長編4部作を執筆中。
第1作「ポーラースター ゲバラ覚醒」につづき、第2作「ゲバラ漂流 ポーラースター」が発売されたばかり。
海堂さんの「ポーラースター」シリーズにも、フレディ前村は登場予定とのこと。
小説の今後の展開も気になりますね。
作品情報
エルネスト
2017年10月6日から全国ロードショー
監督 阪本順治
出演 オダギリジョー、永山絢斗、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス ほか
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公式サイト http://www.ernesto.jp/
(文:八雲ふみね)
八雲ふみね fumine yakumo
大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。
八雲ふみね公式サイト yakumox.com
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