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『楽園』綾野剛らの心掻き乱す名演が導く、絶望の悲痛から示唆される愛

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© 2019「楽園」製作委員会 



最初に結論から記してしまうと、本作『楽園』は日本映画、いや洋画まで含めてもこの秋最大級の問題作です。

『楽園』というタイトルから安易に連想されるような、甘く居心地の良い世界を期待したら痛い目に遭います。

起承転結やら白黒がはっきりした明快なものをお好みの方も、覚悟しておいたほうがいいでしょう。

ずばり現代の、いや昔も今も変わることのない日本の社会全体が抱える風土や人の心の闇が大きなモチーフにもなっていますので、少なくともどこぞから唱えられがちな上っ面の「美しい日本」みたいなものが描出されることなど微塵もありません。

しかしながら、本作の原作者が『悪人』『怒り』など野心的傑作を世に放ち続ける吉田修一であり、同じく監督が『ヘヴンズストーリー』(10)『菊とギロチン』(18)など常に社会と人間の関係性を問いかけ続ける鬼才・瀬々敬久であることを事前に把握していれば、本作が真に何を訴求しているか、ある程度は予測しながら作品に接することもできるでしょう……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街414》

そう、誰もが人生において「楽園」を追い求めながら生き、それゆえに諍いが起き、傷ついてしまうという、そんな人間の悲痛なまでのサガを鋭く見据えていくのが映画『楽園』の本質なのです。

二度の少女失踪事件に
翻弄されていく人々


映画『楽園』は5つの短編からなる吉田修一の『犯罪小説集』の中から『吉田Y字路』と『万屋善次郎』を大胆に脚色し、映画化したものです。

とある地方の閉塞的な田舎のY字路で、少女の失踪事件が起きました。

事件は未解決のまま12年経ち、当時被害少女と一緒に下校し、些細な喧嘩でY字路で別れたことをずっと悔やみ続けている紡(杉咲花)は、日頃から地域の住民に差別されている貧しくも心優しい青年・豪士(綾野剛)とふとしたことで知り合い、どこかお互いに共感できるものを見出していきます。

しかし、まもなくして夏祭りの夜、Y字路で再び少女が失踪。

やがて村人たちは、当時も容疑がかけられていた豪士を犯人と決めつけてしまいます……。

一方、そのY字路の先にある集落に住み、養蜂で村興しを進めようとしていた善次郎(佐藤浩市)は、ちょっとした意見の相違から村の実力者たちに疎まれるようになり、村八分にされ、孤立していきます……。

本作はY字路で起きた事件を機に、民衆の差別意識の中から容疑者にされていく青年と、過去の悔恨を払拭しきれない少女、そして良かれと思ってやったことが仇となって追い込まれていく男、この3人の過酷な生きざまと運命を徹底してサスペンスフルに描いていきます。

もっとも、事件の真相そのものを追い求めるミステリ的な要素に焦点を絞りすぎると、本質を見誤ってしまうかもしれません。

それよりもやはり、彼らを追い詰めていったものとは一体何なのか? という日本の、いや人間そのものが生きる風土と社会全体を覆う闇にこそ注目し、ではそこからいかに脱却していくべきなのかを観客ひとりひとりに自問自答させる問題作として見据えたほうが賢明です。



楽園を追い求める
がゆえの悲劇


デビュー作『課外授業 暴行』(89)などのピンク映画時代から社会と人間の相関を鋭く見据えた作品を撮り続けてきた瀬々敬久監督は、一般映画に進出して以降も反骨の姿勢を何ら変えることなく、メジャー系大作を撮っても映画作家としての我を貫き、ヒューマニズムを基軸としながらも、その奥に生きることの厳しさを常に示唆し続けてきている鬼才です。

本作にしても、そうそう簡単に見る側を楽園気分にさせるものに仕上がっているわけがありません。

そもそも楽園とは何か? それは人が生きていく上での理想の象徴かもしれないし、単に住みやすい安住の場所かもしれないし、いずれにしてもそういったものをそれぞれが追い求めていくことでそれぞれがぶつかりあい、傷つき、時に取り返しのつかない悲劇にまで発展してしまうという、理屈では割り切れない矛盾とどう向き合い、その上で希望を見出していけばよいのか? 

真にそれを突き止めようとする行為はかなり厳しくも過酷な道であり、しかしながら本作の主人公3人は真摯にそれを実践しようとしながら、もがき苦しんでいきます。

特に差別と迫害の対象となっていく豪士を演じる綾野剛は、衝撃のラストも含めて観る者の心を掻き乱しまくること必至の名演。

またそれを受け止めながら、希望の象徴に成り得るか成り得ないかを体現しようと腐心していく杉咲花の、不安定さが魅力に転じるスタンスにも注目していただきたいところ。

追い込まれながら壊れていく男を体現する佐藤浩市は『ヘヴンズストーリー』『64 ロクヨン』前後編(16)『友罪』(18)などを経て、既に瀬々監督と阿吽の呼吸が培われているようにも感じられます。

また、そんな彼に惹かれていく村人のひとりを演じる片岡礼子も、本作の中でさりげなくも秀逸なる白眉として屹立していますが、彼女もまた『ヘヴンズストーリー』『友罪』などで瀬々作品の要となる貴重な存在です。

作品のテーマを巧みに奏で得ていると思しき、絶望を凌駕させるに足る愛に満ちた主題歌《一縷》(野田洋次郎:作詞・作曲・プロデュース、上白石萌音:歌)をエンドタイトルとともに聴き惚れながら、観る人それぞれの人生の歩みによって共感or反発も含め大きく賛否の意見が分かれることになるであろう映画『楽園』。

いずれにしても心えぐられ、後々まで脳裏にこびりついて離れない作品であることは間違いありません。

(文:増當竜也)

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