映画コラム

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2019年12月13日

無声映画の楽しさを知るための「7つ」のポイント

無声映画の楽しさを知るための「7つ」のポイント


6:無声映画時代の
映画業界の内幕映画


映画『カツベン!』では無声映画時代の初期、女性を男優が演じていたことや(これには歌舞伎など日本の伝統芸能の影響も色濃く反映されています)、カットを割ることなく1シーン1ショット撮影が常だったこと(技術的問題もさながら、これまた演技の流れを重視する舞台感覚の延長線で映画製作を捉えていたからと思われます)などの事実を最初に描きつつ、やがて女性を女優が演じ(黒島結菜扮するヒロインもそのひとり)、モンタージュ理論に応じた若き世代の映画監督が次々と登場していく新しい時代の到来を描いています。

ここで池松壮亮が演じた二川文太郎監督は1925年に20分以上に及ぶクライマックスの大立ち回りが話題騒然となった無声時代劇映画の最高峰とも謳われる『雄呂血』を発表。

雄呂血 [VHS]



また本作には登場しませんが、その前後から伊藤大輔や稲垣浩、マキノ正博など、後の日本映画界を背負う若き才人が続々台頭していくのでした。

そんな無声映画時代の映画制作現場を背景にした映画も多数あります。

海の向こうでは、イタリアからアメリカに渡った兄弟がハリウッドでD・W・グリフィス監督の『イントレランス』撮影現場の美術スタッフとして参加していくタヴィアーニ兄弟監督作品『グッドモーニング・バビロン!』(87)や、チャールズ・チャップリンの生涯をロバート・ダウニーJrが完璧に演じきったリチャード・アッテンボロー監督の『チャーリー』(92/余談ですが、アッテンボロー監督が1969年に撮ったデビュー作で第1次世界大戦の悲劇を描いた『素晴らしき戦争』の中、最前線の兵士たちがチャップリン映画の面白さを語り合うシーンが出てきます)などはその代表格でしょう。

トーキー長編映画第1号『ジャズ・シンガー』の主演男優アル・ジョルスンの半生を描いたアルフレッド・E・グリーン監督の『ジョルスン物語』(46/主演はラリー・パークスだが歌はジョルスン本人が吹き替えている)や、ジーン・ケリーが監督(スタンリー・ドーネンと共同)・主演したミュージカル映画の代名詞『雨に唄えば』(52)では、映画がサイレントからトーキーへ移行していく際の現場の状況も描かれています。特に後者ではトーキーになって俳優の声質の問題がクローズアップされていました。

日本では山田洋次監督の『キネマの天地』(86)があります。

キネマの天地



無声映画とトーキー映画が混在していた1930年初頭の松竹蒲田撮影所を舞台に、新人の小春(有森成実/モデルは田中絹代)が父・喜八(渥美清)などの励ましを得ながら女優として大成していく姿を中心に描いたもので、実名ではありませんが、当時の映画人をモデルにしたキャラクターも多数登場。

小津安二郎をモデルにした緒方監督は岸部一徳が演じており、彼の大作『浮草』(小津監督の『浮草物語』がモデル)主演に抜擢された小春は現場で厳しい指導を受けるくだりが一つの見せ場にもなっています。

では、無声映画からトーキー映画へ移る時代の流れは活動弁士たちの運命をどのように変えていったかを伝える一例として、市川崑監督の『悪魔の手毬唄』(77)を推したいと思います。

ご存じ名探偵・金田一耕助を石坂浩二が演じた人気シリーズの第2作ですが、ミステリものなので深いことは書けないものの、ここではトーキーの到来がもたらした時代の悲劇が巧みに描かれています。

映画『カツベン!』はまだトーキーの時代が到来する前を描いているので実に清々しいものがありますが(周防監督も「無声映画が一番輝いていた時代を描くことで、観客にもハッピーな気分を味わってほしい」といった趣旨の発言をしています)、主人公の俊太郎は本編ラストの後どのような運命をたどっていったのか、どうか幸せになっていてほしいと今は祈るのみです。

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