『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』と同じ時代の庶民を描いた映画たち
反戦映画であり続けるべき
『火垂るの墓』
『この世界の片隅に』のラスト、すずさんは戦災孤児を拾って我が子として育てていきますが、戦災孤児の悲劇を描いた作品も多数ある中、やはりもっともポピュラーなのは高畑勲監督のアニメーション映画『火垂るの墓』(88)でしょう。
もはやストーリーなど記す必要もない(というよりも、あまりの過酷さゆえに記したくない!)ほどの映画史上に残る名作で、原作者の野坂昭如に「アニメおそるべし!」と言わしめた傑作。
兄と幼い妹の飢えと哀しみの彷徨は、今では世界中の映画ファンからもリスペクトされている反戦映画の傑作です。
ところが高畑勲監督は晩年、本作は反戦映画ではないといった衝撃的な発言をしています。
つまり、戦争のために犠牲となった幼い兄妹の悲劇を繰り返さないために、次の戦争は勝たねばならないと政治家が訴え始め、世の中がそういった流れに傾いてしまった場合、本作は好戦映画に転じてプロパガンダの道具にされかねないといった趣旨です。
さすがは随一の知的映画人たる高畑監督ならではの弁で、またそれを避けるには国民が常に政治が軍国主義に流れないよう監視していく必要があるとも。
実は好戦映画と反戦映画は紙一重といった映画論もありますが、いすれにしてもキナ臭さこの上ない今の日本および世界情勢の中、もう『火垂るの墓』を見て単に涙を流すだけの時代は終わりにして、本作が永遠に反戦映画であり続けるよう、ひとりひとりが意識を持ち続けていく必要がありそうです。
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