『ジュディ 虹の彼方に』レネー・ゼルウィガーの名演が泣ける!「3つ」の見どころ



© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019



『オズの魔法使』や『スタア誕生』など、数々の名作映画の主演で、今も映画ファンの心に残る女優ジュディ・ガーランド。彼女の晩年を描いた話題作『ジュディ 虹の彼方に』が、3月6日から日本でも劇場公開された。

主演のレネー・ゼルウィガーが本年度のアカデミー主演女優賞に輝いたこともあり、そのステージシーンの再現度が、公開前から多くの映画ファンの間で話題になっていた本作。

気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものだったのか?

ストーリー


『オズの魔法使』や『スタア誕生』など、数々のミュージカル映画に主演し大スターとなった名女優ジュディ・ガーランド(レネー・ゼルウィガー)は、長年の薬物摂取や飲酒が原因で遅刻や無断欠勤を重ねた結果、ついに映画のオファーが途絶えてしまう。夫とも離婚し借金が増え続ける中、今や巡業ショーで生計を立てる毎日を送っていた彼女は、1968年、子供たちと幸せに暮らすために、イギリスのロンドン公演に全てを懸ける思いで挑むのだが…。


予告編




見どころ1:波乱の人生を彩る人々が実名で登場!



ミュージカル映画で一時代を築いた大スター、ジュディ・ガーランドの晩年を描いた内容なだけに、彼女の波乱に富んだ人生を彩る多くの関係者が実名で登場する点も、映画ファンにとっては魅力の一つとなっている。

だが、彼女の人間関係について本編中では詳しく説明されていないこともあり、「この人って誰、有名な人なの?」と、若い観客の方が疑問に思われる可能性が高いのでは? 鑑賞中にそんな印象を受けたのも事実。

そのため、ある程度の予備知識を持って鑑賞に臨んだ方が、彼女の歩んだ人生をより理解しやすくなるはずだ。

まず、映画の序盤に用意されている、ホテルを料金滞納で追い出されたジュディが、行き先に困った末に娘のライザが催しているパーティーの会場に向かう展開。

ここで登場するライザとは、もちろん母親と同じ道を歩んでミュージカルスターとなった、ライザ・ミネリのことだ。

彼女は、ジュディ・ガーランドとヴィンセント・ミネリ監督との間に生まれ、何と2歳で子役として映画デビューしたという、正にミュージカル界のサラブレットと言える存在。ちなみに、本作の舞台となった時期は、1965年にブロードウェイの舞台でトニー賞の主演女優賞を受賞し、その後ミュージカルの舞台女優から映画界へと本格的にデビューを果たした頃にあたる。

本来なら自分と同じ道を歩む娘に対して、母親としての誇りや共感を抱いても不思議ではないのだが、このシーンのジュディは、まるでライザに対してライバル意識や嫉妬を抱いているかのように見える。

この頃のジュディは、すでに映画界からは離れて主に歌手活動の方で評価されていただけに、これからミュージカルスターとして華やかな道が待っている実の娘に対しては、女優と母親、両方の複雑な感情があったことが伺えるのだ。



© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019



次に、ジュディの別れた夫として登場する、シドニー・ラフトの存在。

映画の中では、子供たちの親権を巡ってジュディと争う人物として登場するが、彼がジュディのキャリアにおいて果たした役割は、実は非常に大きいものがある。

ヴィンセント・ミネリ監督との離婚後、ジュディはシドニー・ラフトと結婚。彼や友人たちの助言により、歌手としてステージに立つようになり、その歌唱力が彼女の歌手としての再評価に繋がることになった。

その後、名作『スタア誕生』の主演女優として、彼女は久々にスクリーンへの復帰を果たすのだが、この『スタア誕生』の製作者が、実はシドニー・ラフトなのだ。

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この出演により、ジュディはアカデミー主演女優賞にもノミネートされるのだが、残念ながら受賞を逃してしまっことで彼女の私生活は再び荒れ始め、ついに1965年にシドニー・ラフトと離婚することになる。

ちなみに、本作で描かれるのは離婚直後の頃の物語であり、長い間、私生活と仕事の両方で共に歩んできた二人の関係性を知っておくと、子供に対する親としての深い愛情や親権を巡る二人の確執に対して、更に感情移入できると思う。

その他にも、ジュディの最後の夫となるミッキー・ディーンズや、映画『アンディ・ハーディ』シリーズ中の1本『初恋合戦』で共演し、彼女が淡い恋心を抱く初恋の相手でもあったミッキー・ルーニーなど、彼女の人生を彩った様々な男性の登場により、その私生活をショービジネスに捧げたジュディの波乱の人生がリアルに描かれていく、この『ジュディ 虹の彼方に』。

後述するレネー・ゼルウィガーの名演技が加わって、世代を超えた観客の心を掴む傑作に仕上がっているので、全力でオススメします!

見どころ2:レネー・ゼルウィガーの熱演に注目!



何と言っても本作最大の見どころは、今年のアカデミー主演女優賞に輝いたレネー・ゼルウィガーの名演にある。

自ら歌う数々の楽曲の素晴らしさだけでなく、もはやジュディ・ガーランドが憑依したとしか思えない、そのステージシーンの再現度の高さや、華やかなステージから降りた私生活の彼女との落差を演じ分ける、その抜群の演技力は必見!



© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019



特に印象的だったのが、荒れた生活によって40代後半という実年齢よりも年老いてしまったように見える、私生活のジュディを演じたシーンだった。私生活での彼女は、まぶたが重く垂れ下がっていることもあり、観客にはその眼がはっきりとは見えない。

だが、一度ステージに立ったとたん、彼女の両目は大きく見開かれて、そこに映画のポスターや写真で目にする名女優ジュディ・ガーランドその人が登場し、表情や外見が一気に若々しさを増す描写は見事!

加えて、ステージで歌うシーンでは、映画『スタア誕生』のDVDパッケージを思わせるショットも登場するなど、その再現度の高さを観客が見比べられる趣向も用意されているので、ここにも是非ご注目頂ければと思う。

見どころ3:人生の"ラストステージ"を巡る物語が泣ける!



本作で描かれるのは、映画界から歌手としての活動にシフトしていたジュディが、晩年に行ったイギリス公演中の日々。

観客の暖かい声援と好評によってスタートしたイギリス公演の中、人生5度目となるミッキーとの結婚やイギリス人スタッフとの交流など、彼女の人生の晩年に訪れた幸福な日々が描かれるが、同時に金銭的な困窮や子供の親権問題など、精神的に追い詰められていた彼女が、毎回ギリギリの精神状態でステージに上がる姿も、隠すことなく描かれることになる。

飲酒と薬物に頼る中、ついにジュディはステージ上で大失態を犯してしまうのだが…。

実は、こうした一連の展開は、ジュディ・ガーランドの代表作『スタア誕生』の内容を思わせるものであり、最近レディー・ガガ主演でリメイクされた『アリー/ スター誕生』を観た方なら、きっと見覚えがあるのではないだろうか。

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加えて、随所にジュディの少女時代の撮影所での回想シーンが登場することで、彼女が子供の頃から周囲の大人によって、いかに精神的に追い詰められ、脅迫観念と精神的ストレスの中で仕事をこなしてきたか? が、観客にも次第に分ってくることになる。

長年にわたる薬物とアルコールの摂取、それに精神的ストレスが、彼女をいかに蝕んでいたか?

長年の荒れた生活が彼女にもたらした"老い"を、映画の中では隠さず描いているため、一見すると彼女がかなり年を取っているように見えるかもしれない。実際、ミッキーとの結婚に至る展開では、この二人がかなりの年の差カップルのように見えるのだが、このロンドン公演直後に彼女が47歳の若さで亡くなったことが、ラストの字幕で観客に知らされることになる。

私生活では、必ずしも幸福な生活を送ったとは言えない彼女が、最後のステージで得たものとは何だったのか?

「仕事を続けなければ自分に価値が無い、誰も注目しない」――少女の頃から周囲の大人に、そう思い込まされてきたジュディを、人生のどん底から救ってくれた存在が明らかになるラストの感動は、やはり劇場の大スクリーンで多くの観客と一緒に味わってこそ意味がある!

きっと誰もが、そう思わずにはいられない、この『ジュディ 虹の彼方に』。

新作映画の上映延期が続く中、観客に勇気と感動を与えてくれるこの映画を、ぜひ劇場でご鑑賞頂ければと思う。

最後に



一般的な幸せや幸福な家庭を望みながら、ついに果たせなかったジュディ・ガーランド。

子役時代から周囲の大人たちに"商品"として扱われ、自分に商品価値が無くなれば誰も相手にしてくれないのではないか? 常に不安とストレスに苛まれていた彼女が、人生最後のステージで得た大切なものとは何だったのか?

本作で描かれるのは、晩年のジュディがロンドンで行った公演の日々であり、この公演の数ヵ月後に帰らぬ人となったことが字幕で知らされるラストが、観客に深い余韻を残すことになる。



© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019



滞在先だったロンドンのホテルの浴室で孤独な死を迎えたジュディだが、その死因は薬物の過剰摂取によるものだった。

元々肥満気味だった子役時代のジュディが、ダイエットのために会社から与えられていた薬が覚醒剤だったため、その常用と仕事に対する精神的ストレスが、次第に彼女を苦しめることになってしまう。

その結果、数々の素晴らしい作品や歌声を残しながら、次第に撮影への遅刻や無断欠勤を繰り返し、最終的に精神病院への入院や自殺未遂を起こすことになるのだが、こうした過去の経緯からか、彼女の死因が自殺だったとの説も出ているほど。

ただ、映画の中ではその死因までは明らかにされていないため、ラストの感動や高揚感が損なわれず、ジュディが歌と観客によって救われた! そう思って劇場を後にできるのも、本作が性別や年齢を問わず高い評価を得ている理由の一つと言えるだろう。

多くの観客を魅了し夢と希望を与えてくれた大スターが、自分が歩んできた道が誤りではなかった! そう観客から教えられる姿が感動を呼ぶ、この『ジュディ 虹の彼方に』。

これから鑑賞される方は、ジュディ・ガーランドのウィキペディアを読まれてから劇場に足を運ぶのが、オススメです!

(文:滝口アキラ)

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