映画コラム

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2020年06月12日

「麒麟がくる」後の、美と武の戦い『利休』

「麒麟がくる」後の、美と武の戦い『利休』



世界的視野に長けた
ルネッサンス人・利休


本作は映画監督のみならず華道・陶芸、舞台美術&演出家などさまざまな道に精通した芸術家として世界的にリスペクトされ続ける勅使河原宏が手掛けたオールスター・キャストによる時代劇超大作です。

映画における勅使河原宏監督のタッチは『砂の女』(64)『他人の顔』(66)などに代表されるシュールレアリズムに裏打ちされたものですが、ここでは芸術そのものに真摯に対峙し続けようとする勅使河原監督そのものの生きざまを千利休に託して描いているかのような趣きもあります。

映像は徹底して絢爛豪華、しかしながら決して激昂するようなことはなく、ひたすら静謐で趣きがありつつ、どこかピンと張りつめた緊張感が画面全体にみなぎっています。

勅使河原監督と名コンビでもあった武満徹の音楽も、ルネッサンス的な優雅さの中に緊張感を巧みに忍ばせています。

緊張感ということでは、本作の中で使用されている茶器や掛け軸などはその大半が本物を美術館から借りて撮影しているとのことで、そのため現場の緊張感は並々ならぬものがあったとのこと。
(あの名優・三國連太郎ですらも、本物の茶器を手にして手が震え、NGを出した!)

利休の「静」、秀吉の「動」を対比させながら、本作は芸術的かつ娯楽的要素を巧みに混在させていき、そこから「美は、ゆるがない」(本作劇場公開時のキャッチフレーズでもあります)利休の世界的視野に長けたルネッサンス人としての矜持を見る者に伝えてくれます。

本作はモントリオール世界映画祭最優秀芸術貢献賞、ベルリン映画祭フォーラム連盟賞といった海外での映画賞受賞も当然といった貫禄なのでした。

また本作の豪華絢爛さは、後の漫画『花の慶次』や現在の「麒麟が来る」など戦国から安土桃山へ至る時代を描いた時代劇作品の源流となっている感もあります。
(そういえばかつて黒澤明監督が武田信玄を題材にした『影武者』を撮ったときも「戦国時代の武将はみんなオシャレだったんだよ」と語っていました)

かつての日本にこのような「美」を極めようとしていた時代があり、人がいたことを、見る者に気高く知らしめてくれる名作です。


(文:増當竜也)

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