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2020-08-31

コラム

『レイトオータム』名作の4度目のリメイク!ヒョンビンと恋に落ちる「3つ」の魅力




第23回:『レイトオータム

今回ご紹介するのは、Amazonプライム・ビデオの見放題タイトルで配信中の、2012年日本公開の韓国・香港・アメリカ合作の映画『レイトオータム』です。

『愛の不時着』で日本でも大人気のヒョンビン主演による、アメリカのシアトルを舞台にしたラブストーリーなのですが、後述する通り、実は60年代の名作韓国映画のリメイク作品でもある本作。

ポスターや予告編からは、落ち着いた雰囲気で展開する大人のラブストーリーとの印象を受けるのですが、気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


DVの夫を誤って死なせたアンナ(タン・ウェイ)は7年間刑務所に収監されていたが、母の葬儀のため72時間の外出を許されバスでシアトルへ向かう。バスでは運賃を貸してほしいと頼んできた男フン(ヒョンビン)のおしゃべりが、アンナを辟易(へきえき)させる。久しぶりに家族や親戚と再会したアンナだったが、刑務所生活で忘れかけていた残酷な現実に直面し、葬儀に参加せずこのままバスで刑務所に帰ろうか迷う。そんな時、バス停で偶然フンと再会したことで、二人は束の間の自由を共に過ごすことになるのだが…。


魅力1:ヒョンビンの見事な演技!



暴力をふるう夫を誤って殺害してしまい、7年間刑務所に収監されているアンナと、女性向けのエスコートサービスを職業としているフン。

まるで接点のなかったこの二人が、偶然同じ長距離バスに乗り合わせたことから次第に心を通わせていく、この『レイトオータム』。

ガラスに映った自分の外見を常に気にしていたり、当初は口の上手い軽そうな男と思われたフンですが、ときおり登場する電話での会話から、ある問題で人から追われて慌ててシアトル行きのバスに乗り込んだことが、観客にも分かってきます。

持ち合わせの現金が足りなかったフンが、アンナにバスのチケット代30ドルを借りたことから二人の交流が始まるのですが、後述するように物語の舞台をアメリカに変更したことで、バスの乗客の中で唯一のアジア人だったアンナにフンが話しかける展開が、実に自然に受け入れられるのは見事!

夫を殺した罪の意識を抱えながら、無表情に生きているアンナ。そんなヒロインに生命を吹き込む、タン・ウェイの抑制の効いた演技も素晴らしいのですが、異国の地で女性が要求する通りの男を演じて生きてきたフンという複雑なキャラクターを、英語のセリフと共に演じたヒョンビンの存在も、本作成功の大きな要因と言えるでしょう。

なぜなら、一見いい加減な印象を与えるフンが、単に女性を食い物にしている男ではなく、アンナと同様に心の奥に本心を押さえ込んで生きていることが、ヒョンビンの見事な演技によって観客にも充分伝わってくるからです。

加えて、借りていた30ドルをちゃんとアンナに返したり、バスの中で眠っているアンナにフンが掛けてあげたコートなど、この男の繊細な内面が描かれることで、ラストの悲劇的な展開がより高まる点も、実に上手いのです。

『愛の不時着』とは真逆な役柄を見事に演じる彼の姿を、ぜひご堪能頂ければと思います。

魅力2:実はこんなにリメイクされている!



1966年の名作韓国映画『晩秋』の、実に4度目のリメイク作品となる、この『レイトオータム』。

1975年の『肉体の約束』、1981年の『晩秋』、そして今回の『レイトオータム』と、韓国で過去に3回もリメイクされているのですが、この3本に先駆けて最初にリメイクしたのは、なんと日本なのです!

岸惠子と萩原健一共演で、韓国よりも早い1972年に製作された日本映画『約束』がそれなのですが、ヒロインの外出に女性監視官が同行するという本作の設定が、そのまま75年の韓国版リメイク作品に取り入れられていたり、『レイトオータム』でのヒョンビンの役柄に、この『約束』での萩原健一のキャラクターからの影響が感じ取れる点は、実に興味深いものがあります。




このように、時代を超えて何度もリメイクされている作品だけに、時代を反映したさまざまなアレンジや変更が加えられているのですが、ストーリーの基本的な部分に関しては、オリジナル版の設定がそのまま踏襲されています。

今回のリメイク版が素晴らしいのは、何といっても物語の舞台を韓国からアメリカに置き換えた点でしょう。

この遠いアメリカで暮らすアジア人の男女という設定により、彼らの孤独さや二人が惹かれあう展開にも、説得力が加わることになるからです。

加えて、携帯電話が普及している現代を反映して、ヒロインに監視官が同行せず、携帯電話で自分の番号と現在位置を刑務所に報告するというアレンジも、刑務所から外出したアンナに自分が犯罪者であることを思い出させたり、アンナとフンが同じように携帯電話で行動を支配されている存在であることを表現する上で、実に効果的と言えます。

これ以外にも、過去のリメイク版での二人が同じ列車に乗り合わせるという設定が、アメリカを舞台にしたことで長距離バスでの移動に変更されたため、途中の停車場で二人が会話したり、バスの発着場で二人が再会するなど、ストーリーの展開がより広がりを持つ点も実に上手いのです。

ちなみに、1981年版の『晩秋』でヒロインを演じたのは、以前この連載でもご紹介した『犬どろぼう完全計画』でレストランの女主人を演じた、若き日のキム・ヘジャだったりします。

更に、本作でのヒョンビンの役名"フン"は、実は1975年版リメイク作品の登場人物と同じ名前なのです。

過去のリメイク作品では、男性の方が警察に逮捕されることで、二人に悲劇的なラストが訪れるのですが、果たして今回のリメイク版では、どのようにアレンジされているのか?

主演二人の名演が胸を打つそのラストシーンは、ぜひご自分の目でご確認頂ければと思います。

魅力3:さまざまな解釈ができる名ラストシーン!



注:以下は若干のネタバレを含みます。鑑賞後にお読み頂くか、本編を未見の方はご注意の上でお読み下さい。

過去のリメイク版とは違い、携帯電話が存在する時代に製作されただけに、二人がすれ違う展開を成立させるための、さまざまなアレンジが加えられている、この『レイトオータム』。

特に観客の心に残るのは、観る人によってさまざまな解釈が出来るラストシーンでしょう。

母親の葬儀のために刑務所から特別に外出を許可されたアンナですが、久しぶりに会った家族や親類との間に埋められない溝を感じたことで、葬儀に参列せずこのまま刑務所に帰ろうか迷ってしまいます。

バスの発着場でチケットを買う寸前までいったアンナと、逃亡のために発着場にいたフンが再会する展開も上手いのですが、フンが理解できない中国語で自分の過去や刑務所に入ったいきさつを告白したアンナは、母親の葬儀に参列することを選ぶのです。

ところが葬儀の席にフンが現れたことで、表面上は平穏だったアンナと周囲の関係が一変! 心の奥に秘められていた、さまざまな感情が明らかになってしまうことに。

この時にフンが見せる怒りの感情や行動は、仕事としての一線を超えたアンナへの想いによるものであり、彼女が本当に聞きたかった謝罪の言葉を相手から引き出し、7年間胸の内に押さえ込んできた感情を爆発させる場を作ってくれたことが、二人の心を結びつける決定的なきっかけとなる展開も、実に上手いのです。

葬儀を終えて再びバスで刑務所に戻るアンナ。そんな彼女を追って、フンも同じバスに乗り込むのですが…。

ここから先の展開は、ぜひご自分の目でご確認頂きたいのですが、実は過去のリメイク作品では、ヒロインの刑期が終わる2年後の再会を約束するものの、男の方が警察に逮捕されてしまったため、それを知らないヒロインが約束の場所で男を待ち続けるという、究極のすれ違いがラストに用意されています。

本作のラストも、見方によっては二人が同じような境遇を共有したとも取れるのですが、2年後に出所したアンナがカフェで誰かを待っているラストシーンをどう解釈するか? それによって本作の結末も大きく変わってくることになるのです。

ただ、こうした過去作の設定を知らないと、いきなり2年後に話が飛ぶラストの展開を疑問に思う方も多いのでは? そう感じたのも事実。

とはいえ、フンの職業を生かした今回のリメイク版でのアレンジは、ラストの悲劇性やヒョンビンの魅力をより際立たせてくれるので、ファンにとっては最高の贈り物と言えるでしょう。

観る人によってラストの解釈が変化する、まるで絵画のような作品なので、全力でオススメします!

最後に



前述した通り、1966年の古典的ラブストーリー『晩秋』の、実に4度目のリメイク作品となる、この『レイトオータム』。

日本を含めて、本作がこれほど時代を超えてリメイクされている理由、それは互いに複雑な事情や過去を抱えた男女が心を通わせながらも、立ちはだかる残酷な現実の前に別れの時を迎えるという普遍的なストーリーと、観客に深い余韻を残すラストシーンにあります。

確かに互いに惹かれあう男女が、やむを得ない事情によって引き裂かれる内容は、時代を超えて多くの観客が共感できるもの。

特に今回のリメイク版では、刑務所から外出を許された72時間の間に繰り広げられるラブストーリーが素晴らしい上に、異国の地で孤独に生きる男女の姿が描かれることで、鑑賞後の余韻が更に倍増するのは見事!

本来であれば各リメイク版を見比べて頂きたいところですが、今のところ鑑賞可能なのが日本で製作された『約束』だけというのも、実に寂しい限りです。

ちなみに、本作の重要人物オクチャを演じたキム・ソラは、この連載の第一回でご紹介した『少女は悪魔を待ちわびて』にも、主人公ヒジュの母親役で出演しているので、興味を持たれた方はぜひこちらの作品にも触れて頂ければと思います。

(文:滝口アキラ)