10月23日(金)より全国公開される、スペイン・フランス合作映画『おもかげ』。出発点は、スペインの新鋭ロドリゴ・ソロゴイェン監督が2017年に製作し、第91回アカデミー賞®短編実写映画賞にノミネートされた短編映画「Madre」だ。『おもかげ』では「Madre」のクランクアップから2年の時を経て、主人公エレナを再びマルタ・ニエトが演じている。
短編から生まれた映画『おもかげ』の日本公開を記念し、短編から長編作品へと見事に作品を昇華させた最近の注目作を一挙紹介する。
『おもかげ』(10月23日(金)全国公開)
『おもかげ』の元となった短編映画「Madre」が描き出すのは、エレナが元夫と旅行中だった6歳の息子からかかってきた電話をきっかけに始まる緊迫感あふれる約18分のワンシーンワンカット。電話口の彼のつたない言葉を通じて、エレナは少しずつ息子が置かれた深刻な状況を知ることになり…
短編に続いて本作『おもかげ』のメガホンをとったソロゴイェン監督は、その短編を大胆にも『おもかげ』のオープニングシーンとしてほぼそのままを採用。息子を失ったエレナが10年後、息子の面影を宿す少年と出会ったことをきっかけに、長い闇の時を経て絶望の先にある“光”に向けて歩き出す旅路を丁寧に描いていく。
ソロゴイェン監督は、「Madre」から続く物語として『おもかげ』を製作したことについて、「短編を撮影した後、私たちは大きな満足感を味わいました。私が当初から話していたのは、この短編は、長編映画の非常に長い冒頭シーンのような気がするということです。そして、私たちスタッフはエレナの物語を続けたいと思いました。家から飛び出し、不安に駆られながら息子を捜し回る彼女を、放っておくことはできません」と物語やキャラクターに対して感じた“借り”がきっかけだったことを明かす。オープニングシーンから、ジャンル変更すら感じさせるひとりの女性の心を巡る繊細な物語にぜひ注目してほしい。
なお、『おもかげ』のプロローグにあたる、短編映画「Madre」が、10月22日(木)23:59までの期間限定で『おもかげ』公式サイトにて無料公開中だ。
『SKIN/スキン』(全国順次公開中)
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「Madre」と第91回アカデミー賞®短編実写映画賞を競い、見事アカデミー賞を受賞した『SKIN』を元に長編映画化したのが『SKIN/スキン』だ。イスラエル出身でユダヤ人のガイ・ナティーヴ監督は、過去の自分と決別するために計25回、16カ月に及ぶ過酷なタトゥー除去手術に挑んだブライオン・ワイドナーを追うTVドキュメンタリーに感銘を受け、この物語の長編映画化を思い立った。だが賛同する映画会社は現れず、製作資金を募ることを目的に貯金をはたき製作したのが同じテーマである短編『SKIN』だった。
アカデミー賞受賞で大きな注目を集め、企画から7年を経て、世界的俳優であるジェイミー・ベルを主演に迎え長編映画として『SKIN/スキン』を完成させた。生れて初めて愛を知った差別主義者は組織からの脱会を決意した。だがその肌に刻まれた憎しみの象徴を、社会は決して許そうとしなかった―。現代社会に巣くうレイシズムの問題に正面から向き合った、衝撃の実話だ。順次公開中の一部の劇場では短編『SKIN』も併映されている。
『レ・ミゼラブル』(12月4日DVD発売予定)
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今年のアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされ、今年公開された日本でも高い評価を受けた『レ・ミゼラブル』も、ラジ・リ監督が2017年に発表した同名の短編映画が出発点となっている。後に同作の製作を務めることになるプロデューサーがYouTubeで短編ドキュメンタリーを次々に発表している彼の存在を知り、そのクオリティの高さに目を見張ったといい、“脚本も配役も全てお任せ”という驚きの条件で短編製作に資金を出したのが同作のきっかけになったという。
映画情報サイトIMDbに公開されている短編の予告編(https://www.imdb.com/video/vi2044050201?playlistId=tt6586892&ref_=tt_ov_vi)は、構図やキャラクターやそのセリフなどが長編と限りなく同じ様子で描かれ、リ監督が当時から明確なビジョンを持ち短編を手掛けていたことが伺える。
注目の短編映画
ちなみに、そんなラジ・リ監督は、河瀬直美監督、パオロ・ソレンティーノ監督、クリステン・スチュワートなどといった世界的クリエイターに交じって昨今のコロナ禍によるロックダウンを身近な撮影機材で収めた17組のクリエイターによる短編集『HOMEMADE/ホームメード』に参加。『レ・ミゼラブル』で鮮烈に描き出した“陸の孤島”パリ郊外のモンフェルメイユの、ロックダウンにより様変わりした街の様子を『レ・ミゼラブル』で強い印象を残した少年バズによる“ドローン”により静けさとともに映し出す。
その他にも、コロナ禍という不測の事態の中でジャ・ジャンクー監督の『来訪』、深田晃司監督の『move / 2020』、行定勲監督の『きょうのできごと a day in the home』など、世界的な監督達が次々に短編映画を発表。今こそ、それぞれの想いや狙いを持って作られた“短編”にもぜひ注目してみたい。