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2021-01-25

『名も無き世界のエンドロール』レビュー:「危険なビーナス」ディレクターが仕掛けるプロポーズ大作戦



“衝撃のエンディング”とか“ラスト○○分は見逃せない”などという宣伝文句は流石に聞き飽きたという人も多いのではないかと思いますが、『名も無き世界のエンドロール』はそんなちょっと飽きたよというような人でも楽しめるサスペンスエンターテイメントに仕上がっています。

原作は小説すばる新人賞を受賞した行成薫の同題小説で、主演の二人に岩田剛典と新田真剣佑。カギを握るヒロインに山田杏奈と中村アン。これに柄本明、大友康平、石丸謙二郎などのクセのあるベテランが脇を固めます。

監督は昨年冬の注目を集めた話題のドラマ『危険なビーナス』のチーフディレクターの佐藤祐市。時間軸の入れ替え、視点を変えた回想シーン、意味深な描写をふんだんに盛り込んで、見ている人間すべてをミスリードしていき、鮮烈なエンディングに導きます。

あらすじ



複雑な家庭環境で育ち、さみしさを抱えて生きてきたキダとマコト。

そこに同じ境遇の女子・ヨッチも加わり、3人は支え合いながら家族よりも大切な仲間として同じ時間を過ごしてきました。しかし20歳の時、訳あってヨッチは二人の元から突然いなくなってしまいます・・・。

そんな彼らの元に、政治家令嬢で、芸能界で活躍するトップモデルのリサが現れます。リサに異常な興味を持ったマコトは、リサを食事に誘いますが、全く相手にされません。キダは「住む世界が違うから諦めろ」と忠告しますが、マコトは仕事を辞めて忽然と姿を消します。

2年後。マコトを捜すために裏社会にまで潜り込んだキダは、ようやく再会を果たします。マコトは、リサにふさわしい男になるために、死に物狂いで金を稼いでいました。マコトの執念とその理由を知ったキダは、親友のため命をかけて協力することを誓います。

以来、キダは〈交渉屋〉として、マコトは〈会社経営者〉として、裏と表の社会でのし上がっていきます。そして、迎えたクリスマス・イブの夜。マコトはキダの力を借りてプロポーズを決行しようとする。しかし実はそれは、10年もの歳月を費やして二人が企てた、日本中を巻き込む“ある壮大な計画”だった─。

ダークな岩ちゃん、野心家の真剣佑



メインの岩田剛典のキダと新田真剣佑のマコトの二人は幼馴染であり、物語の中盤以降はある事情から大きな計画のコインの裏と表を担います。

二人の関係は子供の頃から描かれ、岩田剛典も高校生以降の10年間を演じています。学生時代の頃のキダは陽性なキャラクターで、これまでも多くの作品で見せてきたパブリックイメージ通りの“岩ちゃん”を感じさせます。しかし、中盤以降、裏社会の住人となると一気にダークサイドに墜ち、ちょっと珍しいほどのシリアスな顔を見せます。こんなに笑わないのは2018年の主演作『去年の冬、きみと別れ』以来ではないでしょうか?

そんなキダが闇堕ちしてまで支え続けるのが新田真剣佑演じるマコトのある計画のためです。前半のマコトは“ドッキリ”を仕掛けるのが好きな純粋な少年キャラですが、中盤以降、金のために活きる野心家に変身します。本格的な海外進出のために21年5月以降日本での活動を制限することを発表した新田真剣佑の勢いとシンクロして、その勢いをそのまま活かしたようなキャラクターになっています。

新田真剣佑は『ブレイブ 群青戦記』『るろうに剣心 最終章 The  Final/The Beginning』とメインキャストを演じる大作が控えていますが、これでしばらく“邦画の真剣佑”は見納めになるかもしれません。

物語を繋ぐ二人のヒロイン山田杏奈と中村アン



キダとマコトのあらゆる意味での生きる理由となる二人のヒロインを演じるのが山田杏奈と中村アンです。

衝撃的な復讐ホラー『ミスミソウ』の主演で注目を浴び、『屍人荘の殺人』などの話題作に出演してきた山田杏奈。



今回はキダとマコトの“ピュア”な部分を引き出す役柄ヨッチを演じています。彼女もまたピュアな存在であるがゆえに彼女の喪失が物語が大きく動き出させます。山田杏奈は20代最初の年となる今年・21年も『哀愁しんでれら』と『樹海村』が同日(21年2月5日)公開予定であったりと活躍の幅が拡がり続けています。

ドラマ「危険なビーナス」の好演も記憶に新しい中村アンが演じるのは政治家の令嬢であり、トップモデルとして活躍するリサ役。キダとマコトのある想いを一身に受け止めることになる立ち位置で、本業のモデル業ともリンクするキャラクターになっています。近年女優業も積極的に行っている中村アンは“らしさ”と“意外性”の両方を持ち合わせて約4年ぶりの映画出演を果たしました。 

うねる物語のタクトを握るのはあのヒットドラマのチーフディレクター



映画『名も無き世界のエンドロール』の監督を務めたのは佐藤祐市。テレビ・映画両方でうねりを感じるミステリー、サスペンスドラマを手掛けてきた演出家です。映画いえば『キサラギ』で大きな注目を集め、『ストロベリーナイト』や『累』など監督してきました。テレビドラマでは中村アンも出演してた日曜劇場の『危険なビーナス』でチーフディレクターを務めています。
『危険なビーナス』でも回想シーンや“ifの展開”を随所に差し込み、見る者を幻惑させてきましたが、この手法は映画『名も無き世界のエンドロール』でも健在です。時系列を入れ替えたり、回想シーンを唐突に差し込んだり、意味深なアイテムをさりげなく登場させた吏と見る側を前後左右に見事なまでに振り回して来ます。中盤からは見事なミスリードを連発してきて、途中から“何を見せられているのか?”と戸惑いを感じたほどです。

実は、行成薫の原作をすでに読んでから映画を見たのですが、それでも戸惑いを感じるほどの絶妙な演出でした。
クライマックスの展開は細かいシーンの転換によってストーリーの加速度がどんどん増していきます。小説の終わり方も良かったのですがモンタージュ演出をフル活用できた映画の方がスピード感が増して、結果としてエンディングの切れ味の良さを感じました。
 

まとめ

安心感のあるキャリアを積んだ監督のスウィングの利いた演出が活かされた物語と硬軟両方の演技を見せるメインキャスト達の好演もあって映画『名も無き世界のエンドロール』は、数多ある“エンディング勝負”の映画の中でも頭一つ・二つ出た作品になったといっていいでしょう。

(文:村松健太郎)

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