『アウトポスト』レビュー:米兵50人対タリバン300人の激戦を描いた壮絶な「戦場」映画!
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
本作はアフガニスタン紛争における屈指の激戦とされる2009年10月3日“カムデシュの戦い”を、アメリカ側の目線からリアルに見据えた戦場映画です。
パキスタンとアフガニスタンを結ぶ米軍キーティング前哨基地(アウトポスト)は、険しい山々に囲まれた谷に存在し、毎日のように上からタリバンの小規模な攻撃が成されていましたが、米兵たちもそれに慣れて(?)、油断していたところに300人を優に超えるタリバンの総攻撃が始まり、迎え撃つ米兵50余名による、およそ14時間もの熾烈な激戦が繰り広げられていきました。
前半は、日々じわじわと仲間が斃れていく米兵たちの緊張とストレスに満ちた日常を、そして後半はついに始まったカムデシュの戦いを、まさに本物の戦闘かと思わされるほどのすさまじくもリアルな臨場感で見事に描出していきます。
紛争そのものに対する政治的主張は一切抜きにして、兵士たちの生活のみを淡々と描きあげていくタッチは潔いほどで、4月にリバイバルされるヴェトナム戦争映画の傑作『ハンバーガー・ヒル』とも共通した要素も多々見受けられます。
基本的に群像劇スタイルを採っていますが、一応の主人公クリント・ロメシャ2等軍曹を演じるスコット・イーストウッドの存在感は、やはりキャストの中でもピカイチ。
また、それこそ実父クリント・イーストウッドが若き日に『荒鷲の要塞』『戦略大作戦』などの戦争映画に主演したときの雰囲気に今の彼がそっくりなのにも、長年の映画ファンとしては不思議な感慨をもたらしてくれることでしょう。
こうした前半部が実に丁寧に描写されているからこそ、後半の戦闘がまさに地獄絵図として見る者に脅威をもたらしてくれます。
(これを見れば、戦場の兵士たちが大なり小なりPTSDを患ってしまう理由も、肌感覚で理解できてしまえることでしょう)
そもそも、まるで茶碗の底のような危険な場所になぜ基地を建てたのか? も含めての、戦場から遠く離れた場所から現場の意向などどこ吹く風の指令だけを出すお偉方たちや、いざ現場指揮官も各々の姿勢によって部下が右往左往させられてしまうことなどへの批判のメッセージもさりげなく盛り込まれています。
もっとも、自身も従軍経験のあるロッド・ルーリー監督の目線は、米兵に対する敬意に満ちたものが根幹にあり、それゆえのラストとエンドクレジットは興味深いものも多々あれども(実際のモデルと演じる俳優たちの風貌がかなりそっくりなのも、ここでわかってびっくり!)、ある種の議論を呼ぶかもしれません。
いや、むしろ議論になるくらいであってほしいほどに、戦場の兵士たちの地獄と、そこを経ることで国家からもたらされる名誉との関係性について、いろいろ考えていただきたい必見の問題作でもありました。
(文:増當竜也)
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