映画コラム

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2021年04月12日

『約束の宇宙(そら)』レビュー:宇宙へ旅立とうとする母と、それを見送る娘の心の絆

『約束の宇宙(そら)』レビュー:宇宙へ旅立とうとする母と、それを見送る娘の心の絆



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

子どものころからの夢だった宇宙飛行士になり、まもなく宇宙へ旅立とうとしている母(エヴァ・グリーン)。

そんな彼女に対し、幼い甘えゆえの寂しさを隠し切れない娘(ゼリー・ブーラン・レメル)。

本作は一見特殊な状況下で繰り広げられる物語のようでいて、実は日常社会で働く母と子の関係性に十分なぞらえることのできる作品であり、自身も母であるアリス・ウィンクール監督の想いが見事までに映像へと結実し得たヒューマン映画の秀作です。



会いたいときに上手く会えない、伝えたいことが妙に上手く伝えられない、そんなお互いのジレンマが、時に対立や確執を生んでしまう親子の関係は、どこの国でもどんな時代でも変わることはないでしょう。

本作はSF科学的設定を背景にしたエンタテイメント仕立てでそのことを巧みに訴えているのが出色であるとともに、そのことで女性の自立を示唆する昨今の世界的映画事情に即したものにも成り得ているのです。

同時にここでは宇宙飛行士の訓練風景などがリアルに描かれていますが、ここまで厳しい訓練や管理、隔離などを経ないと人は今もなお宇宙へ飛び立つことが出来ないのかと、正直溜息をつかされる瞬間も多々あります。



さらには、ここでも男性優位的社会の中で女性がいかに対峙していくか、そのひとつの例が描かれているようでもあります(いまどきの科学最先端施設の更衣室が男女同じなのにも、正直びっくり)。

その意味では、若き日にヤンチャな映画の出演が多かったマット・ディロンが一見そうした男性社会の象徴として、しかし男たちもこれからは意識を変えていかなければいけないことを、彼の姿を通してさりげなく描出されているの好もしいところでした。

それにしても、最近は「月の土地を買いましょう」とか「宇宙旅行しましょう」みたいな商売文句が現実的に聞こえ始めたりもしてはいますが、実際のところはまだまだ夢物語とでもいいますか、やはり人間はそうやすやすと地球から旅立つことはできない大自然の摂理に支配されていることを痛感させられてしまいました。

しかし、そんな摂理をはねのけてでも夢をかなえようとする母と、何だかんだ言ってその夢を応援する幼子の絆もまたひとつの不偏的摂理でもあるのでしょうし、そんな双方をさりげなくも巧みに奏で得ている坂本龍一の音楽にも唸らされました。

エンドタイトルに映し出される、これまで宇宙へ飛び立った女性たちの写真(我が国の山崎直子の姿も)の大半が母と子が写されたものであることも、世の多くの女性たちに何某かの希望を与えてくれることでしょう。

(文:増當竜也)

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(C)Carole BETHUEL (C)DHARAMSALA & DARIUS FILMS

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