『女たち』のレビュー:コロナ禍の今だからこその意味を持つ映画
どうも、橋本淳です。
82回目の更新、今回もよろしくお願い致します。
舞台公演で九州は久留米に滞在中。本来であるならば、舞台の地方公演は楽しみがたくさんある。ご当地の美味しいものを摂取し、そこの風土や営みを感じる街をゆったり散策したり、地元の方と交流したり、と。
しかし現在はコロナ禍ということで、そういったものは全て禁止。食事はホテルで独りお弁当。外出も極力自粛。軽く軟禁状態で生活をしている。ぐはぁ。
もちろん舞台の本番を安全行うために、絶対必要なことですが、精神的にはつらいものです。寂しいねぇ、とこぼす共演者も多数。
こういう状況になればなるほど、人間の底力といいますか、順応する強さを感じます。
精神的距離を取らされた反動からか、舞台上では役として、より一層、濃密な関係性を取れるような気がする。普段抑えつけられている分だけ、発散し合っているような、共通の敵と共闘しているような。
どんな苦境に立たされても、それに対応して立ち回る人々。その強さに感動する一方、やはり心配にもなる。対処しているということは、どこかで無理をしているということ。たまには休むことも必要であり、その余裕だけは死守したい。
共闘も大事だが、"共癒"をすることを第一に考えなくては。
今回はコチラの作品をご紹介!
『女たち』
自然あふれる田舎町、40代を目前にした美咲(篠原ゆき子)は、半身不随の母・美津子(高畑淳子)と2人暮らしをしていた。美咲は、東京の大学を出たものの希望の就職先に勤めることが出来ず、結婚も恋愛も出来ずに実家に戻り、鬱々とした日々を過ごしていた。
アルバイトをしつつ、母の世話を必死にするが、母からは罵詈雑言を浴びてばかりの毎日に、美咲の心は疲弊していた。
しかし、美咲にとっての救いがあった。ホームヘルパーの直樹(窪塚俊介)との温かな恋心。そして、養蜂場を営む幼なじみで親友の香織(倉科カナ)という存在。養蜂場を少し手伝ったり、香織とワインを傾けながらお互いの話を笑いながらするのが幸せな時間であり、美咲は癒されていた。
そんな日々は突如して終わりを迎える。
急に直樹の消息がつかめなくなり、美咲は慌てて探しに出る。が、その先に待ち受けている現場を目撃してしまう美咲。恋愛関係だと思っていた直樹に美咲は裏切られてたのだ。さらに悲劇は重なり、親友の香織が突然命を絶ってしまう。
美咲の心はさらに荒みきり、母や仕事先、あらゆるところからの圧力を受けて崩壊に向かっていくのだった。
コロナ禍の世界。あらゆる感情を持ってこの作品を制作した想いが詰まった作品でした。
すでに行き詰まり、息の詰まる状況なのに、そこへ新型コロナという大波が拍車をかけ、主人公である美咲を含め、多くの人間を苦しめていく。
政府から配られた綿マスクを何度も洗って使用している美咲。だが、そんなマスクには、なんの防御力もなく守ってくれるはずもなく、美咲を精神的に追い詰めていく描写に寒気がしました。
これは決してフィクションではなく、誰にでも起こりうる現実の話でした。目を背けたくなる現実に焦点を当て、いま観なくてはいけないと、突きつけられた気がします。
各女優陣の芝居の掛け合いは、怪演と言っても過言ではなく、素晴らしい。それぞれの感情を爆発させたりするシーンや、半身不随の迫真の演技、ぶつかり合いなど迫力もものすごくあり、見事でした。
しかし、"個人的には"そういった目が行きがちな部分ではなく、主役の篠原ゆき子さんの受けの芝居が本当に見事でした!
特に前半部分の色んな粘度の高いものを蓄積していく感じ、その時の表情や皮膚の乾き、背中から出る、なんとも言えない雰囲気、それが画面から客席にまで香り立っていました。
それだけで、無駄な説明は必要なく彼女が背負ってきたマイナスなものを感じられます。
このベトついた嫌ぁ〜な空気が作品の核をしっかりとさせ、それぞれの見せ場(?)なシーンをより良く魅せていると思いました。主役でありながら、脇役としての立ち回りを見せる技量と度量、素晴らしいです。
積み重なる不幸と人々からの無慈悲な圧力。コロナで人々は心の距離が広がり、ギスギスとした中で生活をしている。
そのなんとも言えないエグミを、唯一救ってくれるのが、新しく来るホームヘルパーのサヘル・ローズさん演じる田中マリアム。
彼女の心の広さと無償の愛のような温かさに、観客は母・美津子と同じように、優しく包まれるでしょう。マリア様のような存在に、辛すぎる境遇を追体験している歓喜にとっては大きな救いとなります。ささやかな優しさが、どんなに人の心に突き刺さるのかを、まさに実感しました。
鑑賞ポイントが少しずれてしまうかもしれませんが、マスクの付け方や扱い方で、その人のキャラクター性が出ていて、そこにも注目してみると、面白いかもしれません。
そういった、細やかな積み重ねが光り、さまざまなメタファーがつまっている本作。
今だからこそ制作されたし、今だからこその意味を持つ。客観的になるのではなく、主観として体感してみてはいかがでしょうか?
是非映画館でご覧ください。
それでは今回もおこがましくも、紹介させていただきました。
(文:橋本淳)
■このライターの記事をもっと読む
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
(C)映画「女たち」製作委員会