映画コラム
『ライトハウス』レビュー:『ミッドサマー』好きにおすすめの、映画館で極限状態を体感するべき案件
『ライトハウス』レビュー:『ミッドサマー』好きにおすすめの、映画館で極限状態を体感するべき案件
2021年7月9日よりアメリカ・ブラジル合作の映画『ライトハウス』が公開されます。
詳しい理由は後ほど述べますが、本作は『ミッドサマー』(2019)が好きな人におすすめしたい、絶対に映画館で観るべき一本でした。
舞台は1890年代のニューイングランドの孤島。歳の離れた2人の灯台守が4週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事に従事するのですが、そりが合わずに初日から衝突を繰り返します。 険悪な雰囲気の中、嵐がやってきたせいで島は孤立状態に。彼らの精神は次第に異常をきたすようになっていきます。「なろう系」のタイトルっぽく言えば、「灯台守の仕事に就いたら相方がクソジジイで超絶ブラックだった話」でした。
観念的なイメージやファンタジック(?)な何かが見えるようになる、「現実と妄想が入り混じる様」はホラーのようであり、同時にブラックコメディのような様相にもなっていきます。歳の離れた2人の灯台守の口げんかはどこか滑稽で、時にはコントのような間抜けな展開もあったりするのですから。「やるなと言われたことをむしろ盛大にやる」というギャグの基本を正々堂々とやっているシーンさえもありました。「良い意味で気持ち悪いイメージやシチュエーションにおののきつつも、時には苦笑いしてしまう」という味わいの映画なのです。
主演を務めるのは、『処刑人』(99)や『永遠の門 ゴッホの見た未来』(18)のウィレム・デフォーと、『トワイライト〜初恋〜』(08)や『TENET テネット』(20)のロバート・パティンソン。 全編に渡って登場するのはほぼこの2人のみ、「絶海の孤島」という極限状態での「演技合戦」も見所なのです。彼らの「狂演」そのものも、良い意味でエクストリームで、笑ってしまう領域にまで到達していました。撮影もリアルに過酷であり、キャストとスタッフはずっと冷たい波しぶきと強風にさらされ続けていたのだとか……。
そして、本作を映画館で絶対に観るべき理由は、音の演出が優れており、映画館という閉じた空間でこそ、劇中の灯台の閉鎖的な空間の過酷さ、言い換えれば臨場感を味わえるから。
サウンドデザインも凝りに凝っており、その中心は不吉に聞こえる、とどろくような「フォグホーン(霧笛)」。雨音、雷、きしむ木の床などの音は野外レコーディングを行い、実際に灯台に赴き足音や土が押し戻される音も録音、風と雨の不協和音の表現するため小さな巻貝の殻の中にマイクを配置して録音することもあったのだとか。金管楽器に重点を置いた音楽も、存分に禍々しい雰囲気を盛り上げてくれます。
画面が1.19:1のアスペクト比という「ほぼ正方形」であることも、「(灯台に)閉じ込められるように感じる」演出として大いに機能していました。現在も公開中の『アメリカン・ユートピア』(20)と『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(20)に続き、映画館という場所の価値を再確認できる一本と言えるでしょう。
以上をもって、『ライトハウス』と『ミッドサマー』と似ているポイントをあげると、閉鎖的な場所でのイヤ〜な空気を描いていること、見方によってはブラックコメディであること、映画館で観てこその臨場感がある、ということが挙げられます。しかも、製作または配給を手がけたのはどちらもエッジの効いた作品を世に送り続けるスタジオ「A24」。そのクオリティも折り紙付きなのです。
ちなみに、『ライトハウス』は1801年のイギリス・ウェールズの「スモールズ灯台の悲劇」と呼ばれる2人の灯台守の話をベースとしています。なんと「実話もの」であり、これ以降の灯台の仕事は2人から3人に増員されるようになったのだとか。ひどい話であるからこそ、「こうならないため」の教訓も得られる内容とも言えるでしょう。
ちなみに、『ライトハウス』のロバート・エガース監督の長編初監督作『ウィッチ』(15)は、「赤ちゃんが行方不明になったことを発端に田舎に暮らす家族が地獄のような目に遭う」という、『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の長編初監督作『ヘレディタリー/継承』(18)を連想させる内容で、こちらも良い意味でとっても嫌な気分になれました。ぜひ、こちらも合わせて観てみてほしいです。
(文:ヒナタカ)
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