映画コラム

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2021年07月13日

『Arc アーク』のレビュー:30歳の身体のまま生きる、不老不死を手に入れた女性の決断

『Arc アーク』のレビュー:30歳の身体のまま生きる、不老不死を手に入れた女性の決断

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。

84回目の更新、今回もどうぞよろしくお願いいたします。

時間は確実に前へ進んでいるはずなのに、あれ?去年からなにも変わっていない、、、もしかしたら、まだ2020年を生きているのか、と思えるほどに虚しくなる。

こんなことにならないと、動かないのは悲しいですが、ようやく一人一人が考え、行動する起爆剤となることになるなら、まだ救いなのかと悶々となる日々。

過去を嘆いても仕方がない、未来のために、現在を柔軟に生き抜かなくては。と思うが、生き抜いた先が、闇ならそれもまた絶望。となるとそこから変えていかねばならぬ、とまた負のスパイラル。

有限だからこそ、自分の人生線が損をしていくのは耐えられない。だからこんな中でも、少しでも希望を見出して、少しでも前へ歩いていくのでしょうかね。

今回はコチラの作品をご紹介!!

『Arc アーク』



現代からそう遠くない未来。17歳で生まれたばかりの息子と別れ、自由を求めて放浪生活を送っていたリナ(芳根京子)。19歳となった彼女はある晩、踊り手として感情に任せたような踊りを酒場で披露する。その姿を見た、エマ(寺島しのぶ)は自身の仕事場にリナを誘う。

大手化粧品会社〈エターニティ社〉は、エマが指揮をとるボディワークスという部門で、遺体を生前の姿のまま保存できる〈プラスティネーション〉と呼ばれる施術(血液を抜き、代わりに防腐剤を入れる下処理をし、遺体のポーズが決まったところで、今度はチューブから体内に特殊な樹脂を入れて固める)を行なっていた。

リナはエマの元、プラスティネーションの仕事に就くことに。最愛の人を亡くした人々の依頼を受ける日々。

エマの弟である天音(岡田将生)は、プラスティネーションの技術を応用し、樹脂の代わりにコントロールされたガン細胞とも言える細胞を体内に流し込むことで、安定的に細胞分裂を永遠に繰り返すこと、つまり不老不死を可能にした。

そして、リナはその施術を受けた世界初の女性となる。30歳の身体のまま永遠に生きる人生を手にするが、、、、



ネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学賞などを受賞し、世界的に活躍する作家ケン・リュウの「円弧」が原作。

映像化が難しいとされていたこのSF作品を、映像作品として見事に昇華させたのは『愚行録』『蜜蜂と遠雷』を監督し、世界からも注目を集める、石川慶。

今作も、丁寧に物語を紡ぎ、大胆な画作りで、プラスティネーションなど視覚的に具現化が難しいものも見事に作り上げる。

主演を務めるのは、芳根京子。17歳から30歳までを演じ、さらには不老不死の施術をし、見た目は30歳でありながら、89歳まで演じなければならない難役のリナを見事に体現。

不老不死の施術を受けたということで、筋力も変わらず、声帯も変わらない。声色もそのままな中、精神的な演技の変化、背負っているもの、思考回路の成熟さを目に見えないものできっちりと演じ分けている。

不老不死の処置。近未来。SF的な要素が、満載なのだろうと予想を見事に裏切られるのは、小林薫や風吹ジュンの登場。リナが施術を受け、後半パートに入っていくと画面がモノクロに切り替わる。
(これまでは回想や過去の映像として見られていたモノクロの効果が、近年では新しいものの感覚として描かれることが多くなりましたね。)

さらには未来の話でありながら、着ているもの、建造物、使っているもの、それが現代となんら変わりのない部分がとてもリアル。

何十年も残っているものは結局、この先何十年も残るという感覚が肌で感じられる。(全身ギラギラの銀色に光る衣装などに身に纏う未来モノフェーズはいつのまにか過ぎ去りましたね。)

話がそれてしまったので、戻しましょう。

小林薫、風吹ジュンの登場から、ぐっとヒューマンドラマの濃度が濃くなります。近未来の世界観の中に、実に人間味が溢れ、魅力的な人物たちが画面に写し出されるたびに、私たちの日常の延長にある物語を観ている感覚になり、途端に苦しくなり、ダイレクトに様々な感情を掻き乱される。

リナは不老不死の施術を受けますが、周りの不老不死の施術を受けずに、寿命を迎え人生をまっとうしていく人々を見送る。そんな中で、リナは判断をくだしていくのですが、、もちろん私たちが経験したことのないことなのですが、どこか普遍的なものも感じます。

見た目が変わらないリナに、風吹ジュン演じる芙美が語るセリフが印象的でした。

「見た目では分からないけど、どれくらい生きてきたかは、足音で分かるんです」

目には見えない部分にこそ、人と人を繋ぐ優しさがある。それは互いを思ったり、気にかけたり、しなければならない部分。

分かりやすさ、答えを出すということが、よしされている風潮がある現代ですが、"答えが出ない"ということを抱えながら生きることの大切さを再認識する。抱えるというのは、苦しく辛いことであるけれど、その経験というものは必ず必要なもの。

観るたびに答えが変わり、変容する作品だと思います。答えを提示してこない作品を観て、自分自身を見つめる時間を過ごすのは、いかがでしょう?

自分を見失いそうになったときに、自分の現在地を知るためにまた観たくなりそうです。

またひとつ、素敵な作品と出会えました。

それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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