2021年09月23日

『整形水』チョ・ギョンフン監督インタビュー「主人公・イェジの生き方は、韓国の辛い食べ物のように刺激的」

『整形水』チョ・ギョンフン監督インタビュー「主人公・イェジの生き方は、韓国の辛い食べ物のように刺激的」


“美(にく)をください。”

センセーショナルなキャッチコピーが目をひく、韓国発のサイコホラーアニメ『整形水』が9月23日(木・祝)から全国で公開される。「LINEマンガ」で独占配信中のオムニバス作品『奇々怪々』のアニメ映画化で、世界中の映画祭で高く評価されている本作。



美しさを探求するあまり、奇跡の水「整形水」を手にした主人公のイェジがその不思議な魅力に取りつかれ、徐々に破滅に向かっていくというストーリーは、一見、あり得ない設定と思うものの、もし自分も「整形水」を手にしたら……? 頭の中をさまざまな想像が駆けめぐり、「本当の美しさ」とは何なのか? ということも考えさせられる作品となっている。



本作で長編アニメーション監督デビューをはたしたチョ・ギョンフンに、今回の『整形水』という作品の魅力について、また彼の考える「美」について語ってもらった。

人はなぜ美しくなりたいのか?

——ホラー映画というよりも、人の「美に対する執着」や「生き方」について考えさせられる作品でした。監督自身は人が「美しさ」に執着することをどのように考えていますか?

チョ・ギョンフン監督:人が美に執着してしまう根本的な原因は私もわかりません。しかし、もしかしたら遺伝子が関係しており、美に対する執着心が遺伝子の中に組み込まれているのかもと考えています。



また、私たちはそれぞれが美の基準を持っており、それによって他人を評価します。そして、自分も評価の対象にされます。これはおそらく、人が一人では生きていけないからこのような行動をしてしまうのではないかと考えています。それぞれが持っている美の基準が人を突き動かす要因になっている気がしています。その美の基準を超えるか、超えないかによって人の美に対する執着への心理は変わってきます。その基準に達していなければ人は心理的な暴力を加えてしまうこともある。

今回この『整形水』という映画の中で、各々が持つ美の基準について振り返るきっかけになってくれればいいなと思っています。

——ついつい自分に甘えてしまう「イェジ」と美しく生き続ける強さを持つ「ソレ」、どちらも人間として魅力を感じました。監督はイェジとソレ、どちらに共感をしますか?

チョ・ギョンフン監督:イェジの場合は子どものころから不細工だと言われ、周りからもそういう評価をされて生きてきたのでどうしても萎縮している部分があると思います。



一方でソレの場合はそういう状況を打ち破り、美しい容姿を利用することによって新たな暴力を作り出している気がします。これこそ美の基準がマトリックスのなかに入り込んでしまったようなところがあります。

イェジには憐れみを感じてしまうので多くの人はイェジに共感を持つかもしれません。ソレの場合はやはり気の強い性格なので憎たらしく見えますよね。「美」を手に入れる前と後では本質的なところをみると違いがありますね。

しかし、私にとっては同じ人物なので体形が変わっても2人は同じ人物だという認識が強いです。

一番のこだわりは効果音

——ホラー映画には効果音(BGM)は欠かせません。本作も非常に印象的な「音」を使っていました。どんなところに気をつけたのでしょうか?

チョ・ギョンフン監督:じつは本作を制作するにあたって、とくにこだわったところは効果音です。音を使って丁寧に表現しようと努力をしました。

私は人がなんらかの映像を見たとき、感情の概念を刺激するのは視覚よりも聴覚による印象が大きいと考えていました。そこで、主人公のイェジの喜怒哀楽の部分をどういう効果音を使ったら表現できるだろうか、ということを音楽監督と何度も話し合いを重ねました。



そのうえで参考にしたのは古典ホラー作品の効果音です。映像と音楽が密接に関わり、融合しストーリーが流れていくような作りにしたいとかなり、こだわりました。観ている人たちが感情移入しやすい効果音ができたのではと、今は満足しています。

刺激を受けた日本映画について

——ホラー映画やアニメは日本でも大人気ですが、監督が影響を受けた日本のホラー作品はありますか? あればその作品を選んだ理由もお聞かせください。

チョ・ギョンフン監督:アニメーションに関してはほとんどの作品を観ていると言っても過言ではありません。日本のホラーの作品に限っては今敏監督の『PERFECT BLUE』を観ました。

また、アニメではないですがホラー映画というカテゴリーで一番好きな作品は、黒沢清監督の『CURE』という作品です。学生時代に観たのですがこの作品には熱狂しました。恐怖心というものがすっと自分の中に入り込んでなかなか消えない作品です。



人間が持つ本質的な死に対する感情や、人がもっている残酷さ残忍さ、人間の汚い部分や悪の部分が絶妙な形で描かれているのですが、いまだにその恐怖心が無意識の中に宿っているように感じます。しこりのようにモヤモヤしたものが私の心の中に残り続けているということは、ホラー作品としては美徳であり、素晴らしい作品といえると思います。

公開前にいま思うこととは?

——今後はどんな作品を手掛けたいと思っていますか?

チョ・ギョンフン監督:じつはいろいろな企画があるのですが、次は韓国の巫俗(ふぞく)、霊媒師をテーマにしたオカルトホラーものを作っています。いつかダークファンタジーかつ、ミュージカルアニメーションも撮ってみたいと思っています。



——公開前の今の心境を聞かせてください。

チョ・ギョンフン監督:私がアニメーションをスタートさせたのは1980年代から90年代です。当時、日本のアニメーションを見て私もいつかこういう作品を撮りたいなと思い続け、ようやくこの場にたどり着くことができました。ですから、私が作った作品を日本の皆さんに観ていただけることは「うれしい」の一言につきます。

——これから『整形水』をご覧になる、日本のホラーアニメファンにメッセージをお願いします。

チョ・ギョンフン監督:これまでの日本のアニメーションとはスタイルが違う作品ですが、感情移入はできる作品かと思います。破滅に向かって一直線にまっしぐらに疾走していく主人公・イェジの生き方は、韓国の辛い食べ物のように刺激的です。ぜひ楽しんで観てもらいたいと思います。



ただし、この作品を観るにはかなりエネルギーの消耗が予想されます。心と体のコンディションがいい状態のときに、ぜひ楽しんでください。

(取材・文:駒子)

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