2021年10月21日

〈新作紹介〉『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』レビュー:浅野忠信、国際スターの貫録を示す激動と魅惑の大河サスペンス・ドラマ

〈新作紹介〉『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』レビュー:浅野忠信、国際スターの貫録を示す激動と魅惑の大河サスペンス・ドラマ



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

浅野忠信が2016年に出演した中国映画が、待望の公開。

日中戦争前後の上海を舞台に、中国ではおなじみの暗黒街ボスのドゥー・ユエションをモデルにしたルー(グオ・ヨウ)を主人公に大河的なドラマが繰り広げられていくので、もしかしたら日本人からすると忸怩たる想いに捉われそうな嫌な日本人像が描出されているかと思いきや、ルーの妹婿で右腕として暗躍する…(!?)日本人ワタベという、これまでの彼が着実に積み上げてきた国際的キャリアを決して裏切ることのないユニークかつ最後の最後まで気の抜けない役柄になっています。



ヒロインのマフィア会長の奔放な妻リューを演じるチャン・ツィイーと文字通りに“絡む”シーンも多く、見方を変えればルー、ワタベ、リューの3人が主人公の映画と捉えることも可能ではあるでしょう。

監督・脚本・編集を手掛けたチェン・アル(原作も彼自身が執筆した小説)の演出は一貫してストイックでスタイリッシュ。

ジャンルとしてはヴァイオレンスの範疇に入れられるものではありますが、静謐さの中に激動の時代を迷宮感覚で綴っていこうと腐心しているのがよくわかります。



その一環として、本作は1937年の上海事変前夜、その3年前、1941年の太平洋戦争前夜、そして1945年の終戦直後と、大きく4つの時代の時間軸が錯綜して描かれていきます。

そのためにストーリーそのものがかなりわかりにくくなってしまっている感も否めないのですが、それでもチェン監督の映像センスそのものの波に乗れてしまえば、不穏で艶めかしい1940年前後の上海の魅惑にどっぷり浸ることができるでしょう。

(もっともラストのオチのつけ方は、日本人の感性ではなかなか考えられない、中国映画ならではのもの!?)



その意味では本作の原題“羅曼蒂克消亡史”(ロマンティックな終焉の歴史)、英語題名“THE WASTED TIMES”(無駄な時代)、そして邦題の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シャンハイ』(むかしむかし上海で)と、それぞれが映画の本質を突いた名タイトルになり得ているような気もしています。

それにしても浅野忠信、本作はもとより『KUJAKU/孔雀』(98)『珈琲時光』(03)『インビジブル・ウェーブ』(06)『モンゴル』(07)『マイティ・ソー』(11)『バトルシップ』(12)『47RONIN』(13)『壊れた心』(14)『沈黙-サイレンス-』(15)『ミッドウェイ』(19)『モータル・コンバット』(21)『唐人街探偵 TOKYO MISSIN』(21)『MINAMATA』(21)、Netflix「アウトサイダー」(18)「ケイト」(21)などなど、本当に良き国際的スターになりましたね!

(文:増當竜也)

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