【大注目】NHKドラマ「17才の帝国」を楽しむ“3つ”の魅力
2022年5月7日よりNHKにて放送されているドラマ「17才の帝国」。なんと本作の主人公は、AIが選出した17才の総理大臣である。
経済が落ち込み少子高齢化が進んだ日本を、世界は「斜陽国=サンセットジャパン」と揶揄する。そんな風潮に抗うため、政府が打ち出した新たな施策が、AIを駆使して国を改革するUA(ウーア)構想だった。
とある地方都市をその実験区域とし、現地に派遣されたのはAIで選ばれた17才の総理大臣と、20歳前後の大臣たち。一般的には「年端もいかない」と称される彼らが、都市・UAの政治を担うことになる。
果たして、彼らの目指す理想の国とは?
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「17才の帝国」が目指す場所
ドラマ「17才の帝国」の舞台は、現在よりも少しだけ未来の202×年。数百年後の未来ではなく、今を生きる私たちの想像範囲を超えない、手を伸ばせば届く距離にある未来の日本である。そんな少し先の未来は、サンセットジャパンと呼ばれている。経済の落ち込み、進む少子高齢化によって、多少の劇薬でもないと復活を見越せない状況になっているのだ。そんななか、政府が打ち出したのが「UA構想」。AI技術を駆使し、国を改革する施策である。
AI(作中の名はソロン)は、膨大に溜め込まれたデータを慎重に吟味し、1人の総理大臣と3人の大臣を選出する。
厚生文化大臣・林完(望月歩)。環境開発大臣・鷲田照(染谷将太)。財務経済大臣・雑賀すぐり(河合優実)。そして、総理大臣に選ばれたのは、17才の真木亜蘭(神尾楓珠)。
衰退した地方都市に派遣された彼らは、真木自身が選んだ総理補佐官・茶川サチ(山田杏奈)や、現内閣の官房副長官を務める平清志(星野源)とともに、改革へと邁進していく。
「若者に政治が担えるか」と至極もっともな反発だってものともしない。AI=ソロンに蓄積されたデータを活用し、まずは市議会の廃止を試みる。
実験都市は「ウーア」と名付けられた。AIによって選ばれた政治家たち、AIによって決められていく政策。
果たして、そこに血は通っているのだろうか。反対意見もすべて考慮する政治が、17才の若者に可能なのだろうか。AIは人を幸せにし、国を良くするのだろうか。
「政治」「AI」「SF」ーーいくつもの要素が絡み合ったドラマ「17才の帝国」は、これまでにないエンターテイメント作品として風穴を開けようとしている。
1:作・吉田玲子!SFアニメ要素を取り入れた世界観
ドラマ「17才の帝国」の脚本を手がけるのは、主にアニメ業界で広く名を知らしめている脚本家・吉田玲子。「けいおん!」(2009年)「弱虫ペダル」(2013年)「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(2018年)など、アニメファンならずとも見聞きしたことのあるタイトルを担当している。「17才の帝国」制作スタッフブログによると、本作は「NHKワールドJAPAN」を通じて世界160カ国に放送されるようだ。
国内に限らず海外の目も意識した作品を、と構想を練る段階で、海外のプロデューサーに向けたリサーチを実施。浮かび上がったモチーフ「AI」「SF」を引っ提げ、アニメ脚本家・吉田玲子とともに作り上げられた世界観が「17才の帝国」に結実している。
海外に向けてのアピールとして、やはりジャパンアニメの力は欠かせない。
そこに政治要素も絡めた新しすぎるエンタメは、無難なところを素通りし、誰も到達したことのない境地を目指している。少なくとも、この心意気は全世界に届くはずだ。
脚本の魅力を増幅させる音楽の存在にも触れておきたい。物語の始まりを期待させるオープニングもさることながら、エンディングに流れる楽曲「声よ」も素晴らしい。
作曲を坂東祐大、作詞とボーカルを羊文学の塩塚モエカが担当している。放送回によってエンディング映像が少しずつ変化している点も見逃せない。
2:見たことのない世界観を実現させる映像の力
さまざまな要素が絡み合った作品は、往々にしてそれらが反発し合い、かえって印象が凡庸となりがちである。しかし、本作に限っては当てはまらない。それにはいくつかの理由が考えられるが、やはり映像の力が大きいだろう。
ソロンと呼ばれるAIを起動するには、専用のグラスとリングが要る。グラスを目元に装着し、手元のリングを使うと、空中に浮かび上がったあらゆる“要素”を操作できるのだ。その映像表現がたまらなくリアルなのである。現在のVR技術を進化させたようなイメージだ。
17才の総理大臣・真木が演説をするときも、空中に巨大な彼が登場する。国会に集まったり、テレビやラジオを使う必要がない。閣議の様子は常にライブ配信されており、国民投票もソロンを通じて行われる。
現実世界では「政治なんて遠い世界の話」と捉えられる向きもあるが、手元のリングで簡単に投票できる仕組みは、市民たちの意識を最も簡単に政治へと向けていく。
「政治」も大きなテーマとして据えている以上、映像美を追求しすぎるのは現実感の欠如にも繋がってしまいそうだ。
それが起こっていないのは、地に足ついたリアルと映像の美しさが、奇跡的なバランスで均衡しているからだろう。
3:淡々と熱い表現力のぶつかり合い
脚本、音楽、映像。ドラマに欠かせない要素として、役者の表現力にも言及したい。とりわけ主役・真木亜蘭を演じる神尾楓珠の存在感は、もはや異質なものとして映るレベルである。
彼が演じる真木は、学生でありながら、理想とする国家像を実現するための活動をしていた。とある事件をきっかけに、嘘やごまかしのない国を作りたいと願っていたのだ。
オンラインサロンを運営し、同じ思いを持つ若者たちと繋がって、意見交換や企画プレゼンを重ねていた。
淡々とし、口数も少なく、勤勉な様子の真木。ソロンは、そんな彼の人柄も含め、実験都市・ウーアの総理大臣として真木を選出したとみられている。
17才とは思えないほどの落ち着きと聡明さを併せ持っている様を、神尾楓珠は見事に表現しきっているのだ。
そんな彼を支える、総理補佐官として選ばれたのが、茶川サチ。彼女を演じている山田杏奈は、映画『彼女が好きなものは』(21)で神尾楓珠と共演している。再共演となる本作では、互いへの信頼感が演技に表れているようだ。
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3人の大臣を演じる望月歩、染谷将太、河合優実についても、同世代で活躍している役者たちである。
本作での様子を見ていると、それぞれの役を独自の手法で生きている印象が強い。20代の役者たちが各々の表現方法を確立している様を味わえるのも、醍醐味のひとつと言える。
そんな若者たちの脇を固めるのは、星野源、柄本明、田中泯、岩松了といった錚々たる顔ぶれだ。老若それぞれの実力者たちが、奥底でじっと燃え続けているような、いつ爆発するともしれない表現力をぶつけ合っている様がたまらない。
政治に限らず、これまでにない新しいことに挑戦しようとすれば、必ず反発に出くわすもの。実験都市の未来を任された若者たちが、大人の意見や先達の妨害に、どのように立ち向かうのか。
そして、どのように“理想の国家”を実現するのか。
「17才の帝国」最終回は、6月4日(土)放送。
果たして、彼らの目指す理想の国とは?
(文:北村有)
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