映画『神は見返りを求める』ムロツヨシ&岸井ゆきのインタビュー


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主演・ムロツヨシ、共演・岸井ゆきのの布陣で送る映画『神は見返りを求める』が2022年6月24日(金)に公開される。映画『ヒメアノ〜ル』(2016)『空白』(2021)など数々の作品で、人間の仄暗い部分に光を当ててきた、?田恵輔監督の最新オリジナル映画長編。

本作において、ムロは“見返りを求めない”イベント会社勤務の男・田母神を、そして岸井は“恩を仇で返す”底辺YouTuberの女・ゆりちゃんを演じる。ちょっとしたボタンの掛け違いからすれ違っていく二人のキャラクターを、それぞれどのような思いで演じたのだろうか。

驚くほど時代に“ハマった”物語に、二人も驚嘆


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――田保神とゆりちゃんの甘酸っぱい恋愛ストーリーかと思いきや、物語はまさかの展開になっていきますね。本作の脚本を初めて読まれたときの印象について教えてください。


岸井ゆきの(以下、岸井):私自身、映画『銀の匙 Silver Spoon』(2014)でご一緒させてもらってから、?田監督のファンなので、今回の脚本を読んだ瞬間はとても意外でした。「こんなにポップでファンシーな始まりがあるんだ!」って思いました。だからこそ、終盤に向けてのあらゆる変化にとても痺れましたね。

絶対にもう一度、?田監督と一緒に映画を撮りたいと思っていたので「やっとだ!」という気持ちも強かったです。

あと、ゆりちゃんを演じるのも楽しみでした。ちゃんと愛情を持っている子が、どんなきっかけで豹変していくのか。それを表現するのは、役者として楽しみだな、って思いました。

――ゆりちゃんに対する第一印象は、どうでしたか?

岸井:演じるのが楽しみなのと同時に「この子、すごく嫌い!」とも思いました(笑)。ムロさん演じる田母神さんに対して、もうちょっと優しくなれたはずなのに、素直になれなくって。「私はもう少し優しい人が好きだな」と思いましたね。

この作品を見てくださる人たちが、どのような受け取り方をするのか、最初から最後まで分からないながらも演じてました。公開を待つだけの今も、皆さんがどう思うのかは全然見当がつかないです。


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ムロツヨシ(以下、ムロ):
僕が脚本を読ませてもらったのは3年前なんですが、読んだ当時は「こういった世界をどれくらいの人にわかってもらえるか、未知数だな」と思ったんですよね。

最初は、僕が演じる田母神が、ゆきのちゃん演じるゆりちゃんに助けの手を差し伸べて、それをきっかけに恋のようなものが始まりそうになって……。でも後半になるにつれて、人の本心の中にある“芯”をついてくる展開になる。こういった話を生み出すのは、やっぱり?田監督らしいなと思いました。

でもね、これだけ世界が目まぐるしく変わっていく時代に、YouTuberをテーマに据えた話がどれだけ世間に受け入れられるか、わからないじゃないですか。僕自身も撮影しながら「映画の世界だし、どっちに転ぶかわからないよね」と思っていて。

それが、蓋を開けたらこんなにドンピシャな時期に公開できるなんて、不思議ですよね。ドンピシャって言っていいのかもわからないけど。

岸井:むしろ「YouTubeが廃れていたらどうしよう?」って心配してたんですよね。ただの流行りで終わっちゃうかもと思いました。

ムロ:そうだったよね。初号試写を見せてもらった瞬間に「すごいですね」と?田監督に伝えました。ここまで時代を象徴する映画を作れるなんて、と。

幸せすぎた前半と、酷な後半のコントラスト


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――前半のラブストーリー路線から、後半は一気に色合いが変わる作品ですよね。前半から「この二人はいつ変わっちゃうんだろう?」と恐怖を感じたのですが、そのあたりは意識していましたか?


ムロ:監督も僕たち自身も、最初は誰も恐怖を表現しようなんて、意図してなかったんじゃないかなあ。僕が演じた田母神も、最初の時点では「見返りを求めない」役でしたしね。

岸井:前半は、ただただ幸せでしたよね。あの頃に帰れたらいいのにって思うくらいです。

最初にムロさんと撮ったシーンは、ふたりで巨大竹とんぼを作るシーンでした。それを持って千葉の海に行って撮影したり、海辺でダンスしたりしたのを覚えています。私は、あまりダンスの経験がないから、前もってスタジオにこもって練習もしました。

一輪車に乗りながらナポリタンを食べるシーンを撮るために、一輪車も練習しましたね。色々やらせていただきました(笑)。

ムロ:大変だったけど、楽しかったよね。他人に認められるために、自分たちの力で面白いものを作ろうとしている間は、平和で楽しいのかもしれないなと思いました。

そこから「認められたい」って気持ちが勝ちすぎちゃうと、変わっていっちゃうのかな。いつまでも変わらずにものづくりできる人たちが、もしかしたら一流と呼ばれる人たちなのかもしれないし。ものづくりをする人たちにとっては、誰もが通る道なのかもしれないし。演じながら、いろんなことを考えましたね。 

あえて封印したコミュニケーションは「作品のため」


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――撮影現場では、どんなお話をされることが多かったんでしょうか?


ムロ:今回、僕は現場でほとんど喋ってないんです。ゆきのちゃんとも、挨拶と、別々のシーン撮影した後に「どんな感じだった?」って聞くくらいで、やりとりは最小限でしたね。

岸井:撮影のときだけコミュニケーションをとるという、不思議な感じでしたよね。そういった体験も、新鮮で面白かったです。

なんとなく今回の撮影では、ムロさんと休憩時間に冗談を言い合っていたら、映るものが違ってたんじゃないかなと思います。もちろん、役者さんだからオンオフを切り替えられますけど、作品の空気感みたいなものが違ってきたんじゃないかな、って思います。

お互いの役柄も、冗談を言って笑い合う関係性じゃないですし、もしかしたら恋愛が始まるかもしれない雰囲気をまとっていましたから。作品の世界観を守るためにも、ムロさんとの関わりは最小限にしておいてよかったな、と振り返って思います。


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ムロ:そうですね、とにかく撮影の間は一人の時間を作るようにしてました。?田監督とお仕事をするのは今回が二度目なんですけど(一度目は映画『ヒメアノ〜ル』)、当時は結構お話したり、冗談を言い合ったりしながら作ってたんですよ。

でも今回は「そうやってたら間に合わないだろうな」と思っちゃったんです。休憩中も田母神さんとして在る選択をしました。

?田監督からは「(今回のムロさんは)省エネだったな」って言われてたみたいで。いつもはもっとはしゃいでるだろ、わちゃわちゃした小物感を消してきたな、みたいな(笑)。

岸井:大物感を出してきたな、って言ってましたね(笑)。

?田監督は「ムロツヨシの顔を正面から撮りたがらない」?


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――撮影中のハプニングがあったら教えてください。


ムロ:ハプニングかぁ……なんだろう?

岸井:今回の作品では「クッソ天気良いなあ」っていう大事なセリフがあるんですけど、そのシーンを撮る予定の日は、前日から曇天の予報だったんです。

でも助監督さんが自信満々に「僕の雨雲レーダーでは、あと1時間で晴れますから!」って言うので、撮影を決行したんです。でも、空を見たら完全に曇り、「いったいどこから晴れるの?」って不思議でした。結果的に、もう一回撮影することになりましたよね。

ムロ:ああ〜! あったあった! あったね、思い出した!

岸井:曇天の空を見ながら、頑張って「クッソ天気良いなあ」って言いました。でも再撮影のときのセリフと比べてみると、やっぱりナチュラルさが違いました。環境がセリフに与える影響は絶大なんだな、とあらためて痛感しました。


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ムロ:大事だよね、環境は。僕は、ハプニングってほどではないんだけど、なぜかこの作品は僕の顔を正面から撮りたがらないんですよね。なんでだったんだろう?

まだ撮影する時間もあるのに、ゆきのちゃんのシーンはちゃんと正面から顔を撮って、僕のシーンは横や後ろからしか撮ってくれない。「ムロさんの正面は?」「いらなーい!」みたいな声が遠くから聞こえてくるし。

でもまあね、舞台役者としては、引きの絵で画面が成立するなら、それはそれで嬉しいですから……無理やり納得したんですけどね。




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岸井:ムロさんの正面の顔って、YouTubeの画面くらいですよね。

ムロ:そうなんだよ。?田監督に直接聞いてみても「はは!」って笑ってただけでね。

岸井:最初は「引きで終われるなんてこれこそ映画だよね!」って喜ばれていました。

ムロ:一回さ、歩きながら電話をするシーンを撮るために動きを確認してて、その段取りのシーンがそのままOKテイクになったこともあったの。さすがに僕も初めてだよ、段取りだと思って撮影したものが世に出るなんて!

確かにね、福田雄一監督の撮るコメディ作品の現場では、段取りからそのまま本番に移る撮り方もありますよ。でもね、普通は芝居を見てからカメラとか照明とか調整するでしょ! 探り探りの芝居にOK出すんじゃないよ! って。


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岸井:そんなことがあったんですね、知らなかったです!

ムロ:俺にとっての最大のハプニングですね。撮り直す時間もあったはずなんだけど……。ただ、?田監督が「そのままで大丈夫」って言うんだから、信頼できますよね。

ピュアな二人の“好き”と“嫌い”


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――それぞれ演じられたキャラクターで、好きなところと嫌いなところはありますか?


岸井:私は、ゆりちゃんのこと、好きだったな……と過去形になっちゃいます。どんなにダサくても、一生懸命に頑張ってたゆりちゃんが私は好きでした。有名になりたいって思い始めた瞬間からおかしくなって、自分にも非があるのに被害者のふりをするところなど、好きになれなかったです。

ただ「楽しむ」能力は持ってる子だと思いました。実際にゆりちゃんを演じていて、妬みや嫉みのような感情は、最初の時点ではなかったと思っています。素直でピュアな子だったのに、何かのきっかけで、人は簡単に変わっちゃいます。それをとても実感しましたね。

――ご自身との共通点はありましたか?

岸井:何事も、やり始めたら止められなくなっちゃうところが似てるかもしれないです。

私はとても体力があって、常に元気なんです。「元気にしてなさい」って誰に言われたわけでもないですけど、いきなり普通のテンションになったら周りに心配されるかもしれないとも思って、途中で方向転換できないんです。そういうところが、ゆりちゃんと似てるかもしれません。


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ムロ:僕が演じた田母神は、最初から人の話を聞きすぎなんですよね。自分を犠牲にしすぎるからこそ、手を差し伸べられた側も壊れちゃうって側面があると思っていて。だから、利用はするけど頼りすぎない、ある意味ドライな接し方が一番バランスが取れるんだろうな、と。

自己犠牲は自分の首も締めるし、他人のためにもならない。後先のことを考えずに、人に優しくしすぎるところが、好きになれない部分かなあ。

田母神の好きなところは……探すの難しいんだよなあ……。

岸井:田母神さんが、ゆりちゃん手作りのビーフシチューをおかわりしないシーンがあったじゃないですか。そういうところが良いなって思いましたよ。

神みたいに優しい人だから「おかわりは?」って聞かれたら「お願いします!」って言ってしまいそうな、周囲の人にたくさん気を遣ってる人なのに、私の作ったビーフシチューに対しては無理をしないでいてくれるんだって思いましたね。

ムロ:おお、すごい捉え方! 確かにそうだね。そのシーンで言ったら、ゆりちゃんの部屋に入ってドキドキしてるところとか、可愛くて好きかな。彼のピュアな部分が表れてるシーンだよね。

――そんなピュアな二人が変貌する様も、目が離せない作品ですよね。

ムロ:この作品をご覧になった方は、どういう言葉でこの映画を表現するんだろう。それが一番気になってます。僕たちも、この映画を一言で表すキャッチフレーズが欲しいなと思っていて。良いワードがあったらぜひ教えてください! 良いワードが採用されたら、ビールかコーヒーをプレゼントするんで。

岸井:私はスズキの車が欲しいです。

ムロ:なんで俺が出てるCMの話するんだよ〜!(笑)

(スタイリング=森川雅代<ムロツヨシ>、森上摂子<岸井ゆきの>/ヘアメイク=池田真希<ムロツヨシ>、Toshihiko Shingu、Chisato Mori<岸井ゆきの>/撮影=Marco Perboni/取材・文=北村有)

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