“建築はもう一人の役者”『コンペティション』ほか、美しい建築が楽しめる映画5選
SNS の流行により、思わず写真を撮りたくなってしまう見た目麗しい建築や、おしゃれな空間で過ごせる場所に人気が集まっている今日。総合芸術である映画でも、背景や建物も物語を彩る重要な要素の一つ。そして近年、映画に登場する建築に関するこだわりを語る映画監督も増えてきている。
一見、建築に特化していないようだが、実は建物が一躍買っている映画『コンペティション』が3月17日(金)より公開となる。本作を筆頭に、建築が目を引く映画を5本を一挙紹介する。
『コンペティション』 3月17日(金)公開
スペインを代表する俳優、ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスが共演を果たし、現代映画界を爽やかに皮肉った業界風刺エンターテイメント。
ある大富豪の名声のために傑作映画を作ることを指示された鬼才監督・ローラ、人気映画スター・フェリックス、老練舞台俳優・イバンの3人。リハーサルのために集まったものの、エゴとプライドとワガママの塊で生い立ちも性格もバラバラの彼らはまったく息が合わない。予想もできない驚愕の言動で相手を出し抜こうとし、バチバチに火花が散るリハーサル現場。果たして傑作映画は完成するのか――⁉
誰もが憧れる華やかな映画業界の裏側で本当に繰り広げられているかもしれない、天才監督と人気俳優2人の三つ巴の戦いを描いた本作のメガホンをとったのは、『ル・コルビュジエの家』、『笑う故郷』など、スタイリッシュな映像とシニカルなユーモアで構築された独自の世界観を誇る映像作家ガストン・ドゥプラットとマリアノ・コーンのふたり。
過去作でもル・コルビュジエの建築など、美しく個性的な建物を舞台として選んできた監督たちは「場所や建物というのはただの背景ではなく、もう1人の役者だと思っています。建築物はドラマを作り出す大事な役者なので、いつも細心の配慮をしています」とこだわりを語っている。
本作で使用したのは、20世紀のモダニズム建築を代表するドイツの建築家、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが手掛けた作品と空間。画面に登場するのは、ほぼメインキャストの3人のみで、さらに素敵な空間が目立つ画作りとなっているが、その意図として、「だだっ広く無機質で、そこにいる人がすごく小さく感じられる広大な空間は、キャラクターたちの孤立無援な感じを引き出す大きな役割を果たしています」とセリフや説明に頼らずに、空間で物事を伝えるこだわりの技を明かしている。
曲者だらけの登場人物が繰り広げる全力の小競り合い。その幼稚なやりとりはただでさえ滑稽なのに、壮大でスタイリッシュな空間で描かれることで、さらに馬鹿馬鹿しさが増している。美しいモダニズム建築がシニカルなブラックユーモアのエッセンスとなっている一風変わった使い方に注目してほしい。
『エンパイア・オブ・ライト』 公開中
名匠サム・メンデス監督が初の単独脚本を手がけ、映画館への愛を描いた最新作。1980 年代初頭、英国の海辺の町マーゲイトにあるエンパイア劇場を舞台にそこに集う人々の悲喜こもごもが描かれる。
海辺の寂びれた映画館という設定だが、圧倒的な建築の美しさに目を奪われる。ロケが行われたのは実際にマーゲ イ トに存在する“Dreamland”という元映画館兼ダンスホール。1930 年代に建てられた建物はかなり傷んでいたが、この場所に惚れ込んだ監督の指示で撮影用に大規模な改修工事が行われ、新たにエンパイア劇場が誕生。さらに本作でアカデミー賞撮影賞にノミネートを果たしたロジャー・ディーキンスの哀愁溢れる映像が建築の美しさをより引き立てる。
『アフター・ヤン』
長編デビュー作『コロンバス』で、モダニズム建築に癒される男女の物語を描き、自身の建築愛を示したコゴナダ監督が手掛ける近未来を舞台に描いた SF 映画。“テクノ”と呼ばれる人型ロボットと人間の絆、人間と人工知能のあわいを描く。
「映画において空間は常に重視すべきもの」と語るコゴナダ監督が、主人公一家が住む家として選んだのは20世紀半ばの有名な開発者でモダンな建築を残していたジョセフ・アイクラーが手掛けるアイクラーホーム。映画用に少々改装も施されているが、アイクラーホームの建築自体の美しさが生かされた映像となっている。
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
カリフォルニア州サンフランシスコを舞台に、都市開発により取り残されてしまった人たちを描いたヒューマンドラマ。サンフランシスコへ想いを馳せて描かれる本作は、バラク・オバマ元大統領のベスト・ムービーの1つにも選出された。
舞台となる家は、1889年に建てられたというビクトリア朝様式の歴史ある建物。現在の家の主は一目ぼれして購入したものの、一度はお金の問題で手放すが再度買い戻し、ほぼ自らの手でメンテナンスを行いながら住み続けているという。観る者を魅了する家自体が主人公となり、変わりゆく街の物語を紡いでいく。
『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』
言わずと知れた近代建築の巨匠ル・コルビュジエ。長らく彼の作品として知られてきた幻の傑作住宅〈E.1027〉は、実は彼が生涯で唯一その才能に嫉妬したとされる女性アイリーン・グレイの作品だった――。
天才建築家たちの知られざる愛憎のドラマが描かれる作品。〈E.1027〉は、現在フランス政府機関の所有となり一般公開されているが、撮影のために内部を修繕し、アイリーンによるデザイン家具がいくつか復元されている。他にもコルビュジエとアイリーンにゆかりのある建築や家具が多々登場し、建築好きにはたまらない見どころがたっぷり!淡い色使いの映像美で語られるラブストーリーも美しい作品。
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