映像作家クロストーク

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2023年03月28日

【対談】木村太一監督×OSRIN監督│「MV出身のダニエルズだってアカデミー獲ったことだし、いい作品を作って黙らせるしかない」

【対談】木村太一監督×OSRIN監督│「MV出身のダニエルズだってアカデミー獲ったことだし、いい作品を作って黙らせるしかない」

CMやMVの輝かしいキャリアも
映画には関係ない



──ここで一旦、木村監督の初の長編映画『AFTERGLOWS』の概要ですが、2時間の全編モノクロ作品。東京でタクシー運転手として勤務する男が、亡き妻の幻影を見て、嘆き苦しみながら、それでも生きていくという物語ですね。

OSRIN:今日はようやく顔を見ながら感想を言おうかと。ストーリーや脚本がいいとか、トータルの映像がカッコいいとか、細かいところもあるんだけど、以前から太一さんの作品のファンだから、自分の予想を下回ることはないという気がしていて。それよりも実は、とても身近な人が撮った映画を観るのは、『AFTERGLOWS』が初めてだったんです。最初こそ太一さんの顔がチラチラ出てきましたが、途中で物語に没入し、飲み込まれていって、その時に「ヤバいかも」と思いました。エンディングに向かっている最中に、太一さんが聖母マリアのように、光の中から現れるんですよ。それが腹立つというか(笑)。すごく個人的ですが、映画を二重構造で楽しむことができて、凄く貴重な体験になりました。

映画『AFTERGLOWS』のシーンより

木村:そうなんだ、ありがとう。

OSRIN:今までも、いわゆる映画界の王道、自分のビジョンを持って常識をぶち壊しにいこうという監督はいましたが、オレはそれとは別の方法でやろうと思っていて。MVを撮っている太一さんがその一人になったのも嬉しかった。そこで聞いてみたいのは、今後どう攻めて、どうやって映画を撮り続けていくのかということ。例えば、実力のある広告やMVの監督が、映画界へ行っても、なかなか予算がつかないという現状を見ていますよね。エネルギーだけではどうにもならない。しかし、パッションがなければ誰もついてこない。予算を持ってくるには、今までのキャリアはまったく通用しないじゃないですか。

木村:映画を撮ってみてわかったことだけど、なぜ予算1億円のCMを撮ったような輝かしいキャリアのある人たちが、映画の世界で失敗するのか。それは0からのスタートだと考えていないからだと思った。それを認識していないから、変なタイアップをつけたりするからつまらなくなるんだよ。オレは正直、映画を作ったことで、やっと第一歩目に立てたというか。『AFTERGLOWS』には配給を付けず、自分で各地へ出向いて映画館へ頭を下げて、映画をかけてくれるようにお願いした。その苦労が大切なんじゃないかなと思う。

OSRIN:プロセスということですね。

木村:MVを始めた頃、オレたちは散々泥水を啜ったわけじゃない? それを映画で、もう一回やるだけ。先人たちは「CMで苦労したからいいよね?」とスキップしちゃう。年齢やキャリアもあるし、そんなことできないのかもしれないけど、オレにはそんなプライドなんてないから。映画館と交渉する時、土下座でもなんでもするつもりだったけど、実際に「こういう作品はやらないんすよ~」とか、上から目線で言われて。めちゃくちゃムカついたこともあった。それから出資者の方に「お金を出してくれたら、今から延々と飲みますけど、そのつもりがないなら帰りましょう」と言ったり。思い返すと、かなり無礼なことも言って恥ずかしいけど。改めて、そういう苦労をすることが大事だと思った。

OSRIN いいねー! 間違いない!

木村:一館かかるごとに感動を覚えられるから。「わっ、すげえ!」みたいなね。CMやMVを作るのも好きだけど、本当に映画を撮りたかった。そのために売れていくというか。まぁ、たまたま才能があっただけというか(笑)。

OSRIN:(爆笑)よく言いますね。

映画を撮るなら
好き勝手にやった方がいい


木村:それから、撮影監督の今村圭佑くんから「一作目は好き勝手やった方がいいと思う」と言われて、めちゃくちゃ刺さったんだ。先々、お金や配給がついてくるとできなくなっていくから。一番大事なのは、撮って楽しかったと感じることだと思う。評価されるということは、それほど大事なことではないかな。

OSRIN:最初に映像を始めた時の動機は、それでしかなかったですからね。

木村:大学を卒業する時、初めてショートフィルムを撮ったんだけど「映画監督になれる」って思ったもん。当時は、自分では100点だったけど、何も賞とかもらってない(笑)。

OSRIN:好きになる、惚れるということは、マジで大事なことですよね。最近はどういうわけか、最初からクオリティを求めにいっちゃう。それはお門違いだよね。クオリティの高いものがいいかというと、それは見た人の判断。自分は違うハズなんですよ。オレが映像を始めたのは、親友の誕生日祝いの映像からで、そいつを泣かせるためだけに作った映像がスタートでした。とにかく笑って、泣けるものにして。観賞後の感想も嬉しかったな。多分、太一さんが映画を撮って楽しかった理由って、CMやMVでは得られない、いろいろな人からの感想にあったんじゃないですか?

木村:そうだね。そう言われてみると、確かにMVの感想は言われないよね。映画観た人は1500円払ってもらっているから、ディスる権利はあるんだけど、ワンクリックでディスるのは、マジで許さん!

──OSRINさんは、長編映画を撮る予定はあるんですか?

OSRIN:実は先日一本書いたんですよ。近い人へ読んでもらう用の第一稿なんですけど。

木村:どれくらいかかったの?

OSRIN:1年間考えて、8日間で書きました。仕事の後、深夜1時から6時まで執筆時間にあてて。題材はあるけど、尺のロング/ショートとか考えているとキリがないので、まずは書き始めて。やってみたらめちゃくちゃ楽しくて。実現するかしないかは別にして、書き上がったことはすごく嬉しかった。一回印刷して、クリップにまとめた時に“うわっ、分厚っ!”とか。これから知り合いの脚本家に、体裁をどう作ったらいいのか相談するんですよ。「ト書きはこっちにあったほうがいい」とか、全然わからないから。

木村:結果的に楽しかったなら、よかったね。


OSRIN:実は人から「映画を撮らないのか?」と聞かれていたし、太一さんのように実現した人もいて、変な強迫観念があったんですよ。でも、自分の中に物語があるから、やるしかないと思って。仕事をセーブして、言い訳のできない状況を作って。取捨選択をしながら生きてきた人間なので、書けなかったら仕方ないし、映画は諦めようかと思っていました。ただ、負けん気は強い方だから、一泡吹かせたいという気持ちもある。

木村:やっぱり真面目だね。

OSRIN:そんなイメージなんていらないですよ(笑)。絶対に人からダサいと言われたくないだけで、だから、ありがたいと思ってますよ。良くも悪くも、周りが強くしてくれていると思っているので。でも、本当は柔らかく生きていきたいけど。

木村:なんで最後に保険をかけるんだよ(笑)。

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