俳優・柳楽優弥と長久允 監督が語り合う、幽霊たちとの楽しい暮らし。
『オレは死んじまったゼ!』の中で生きる幽霊たちの姿
ー長久さんはホスト、スタンダップコメディアン、看護婦、女子高生、千利休…など、それぞれのキャラクター設定はどのように考えたんですか?
長久:それぞれ交わることのない人たちが同じ場所に暮らして、一丸ともならないし、微妙な関係性にもならずに、バラバラのままを良しとして日々を過ごしていく話を作りたいというのが根底にありました。生きていくうえで他者を否定せずに、ゆるく肯定をしながら過ごしていくところを描きたかったので、それぞれの属性に偏りがないようにしたかったんです。そういった背景があるなかで、自分的に最近気になっていたスタンダップコメディアンや、千利休を要素として入れていったら、自然と年齢も性別もバラバラの人たちの集まりができていきました。
写真左からギャル、千利休、ホスト、一児の母、スタンダップコメディアンの幽霊。センターには女性は幽霊が集まる蕎麦店の店主
長久:そうすることで、桜田が普通に暮らしていたら絡むことはなかったかもしれないというような出会いにしたくて。それぞれのキャラクターが、一緒に過ごしていく中で見えてくるちょっとした違和感や、ズレた世界観を浮かび上がらせることが出来たのかなと思います。
ー撮影をしていくなかで印象的な出来事はありますか?
柳楽:三遊亭好楽さんの絶妙な間の取り方が好きでした。演技なのかセリフを忘れたのかわからないような、すごく長い間を撮る時があったんですが、大体その後のセリフが僕で、セリフを言おうとすると好楽さんが話し始めたりして(笑)。監督もあえてカットをかけないので、その絶妙なテンポ感が良かったですね。好楽さんも自然体で現場に居られたのかなと思います。
長久:そこらへんは想像をしていない部分だったので、ちゃんと記録をさせてもらって、使えるものは使わせていただいて。やっぱり新鮮でしたよね。
柳楽:そこに(長澤)樹さんが入ったり、松田(ゆう姫)さんが折り重なったりしていって。さっきも話してましたけど、交わらない人との絡みであるときほど、意外と回転が良くなってくるんですよね。
長久:そうそう。本読みから面白かったです。個人的には、柳楽さんが長いセリフの前に、「長いの嫌だな」と素直に言ったり、それが無事に終わったら「やった!」と喜んでいたり。柳楽さんのそういう少年的な部分が印象に残っています。とはいえ、きちんと大人なので、そのバランスが面白くて、一緒に作っていて本当に楽しかったです。
シケモクを吸う柳楽さん演じるホストの桜田
ー「生きるって、火のつけられないシケモク」「死んじゃってからのほうが、生きてた」など印象的なセリフが多かったですが、特に柳楽さんが気になった言葉はありますか?
柳楽:長久さんが書く言葉って、普通はあまり言わないような少し詩的なものだなと思いました。あまり深く考えてはいなかったけど、どのセリフもすごく好きでした。少しファンタジーさもあって、ホストなら言いそうかもしれないですね。
長久:僕のセリフって、難しいと思うんです。ちょっとリアリティがないところの話を、柳楽さんはフラットに話してくれて。
柳楽:セリフについてあまり深く考えていなかったのも、アドリブ感みたいなものが長久組ってあるのを感じていて。だから、自然体のままで居てもいいかなっていう感じが現場にありました。
長久:柳楽さんはすごい反射的に言葉が出てくるので、それも嬉しかったですね。
ー柳楽さんは、今回の撮影を通してどういったところが長久組の現場らしさだと思いましたか?
柳楽:現場にいるスタッフさんや、キャストさんの距離感ですかね。長久組の世界観のなかで、それぞれが自分の役割について向き合っていく姿勢があるように感じました。演じている最中は一体どのように仕上がっていくかは想像できないけど、完成されたものを観て、ここがモノクロになるんだとか、音楽がこんなテンポよくかかるんだとか。映像表現を楽しんで作られている座に自分が入れたのが、俳優としてすごく夢があるなと思いました。すごい硬いマニュアル通りの現場ではなくて、そこに居るだけでインスピレーションをもらえましたし、こういう現場が存在するんだっていう発見が嬉しかったですね。
ー完成した作品で印象的だったのが音楽の使い方です。オープニングで長谷川白紙さんが「帰って来たヨッパライ」(*3)を歌っていましたが、劇中での音楽の使い方も面白かったです。
長久:企画の段階で白紙さんに「帰って来たヨッパライ」を歌ってもらおうと最初から決めていました。もともと知り合いでライブも観てきましたが、白紙さんはどこか存在自体が少し幽霊っぽい人。現代的な幽霊の面白さを汲み取って、幽霊の歌を歌ってもらうのはマッチするんじゃないかなと思ったんです。劇伴って、映像の感情や雰囲気、時代感や世界観を引っ張っていくので、どういう感触にしていくかってすごく難しいと思うんです。長谷川さんが作る、現代的なノイジーさはありながら、根底には切なさや美しさがあるような音が、この作品にバシッとハマる気がしたので、全体の音楽も作って欲しいですと伝えたら、「わーい!」と言ってやってくださったので、すごく感謝しています。やっぱり音楽が作品を引っ張ってくれていると思うので、長谷川さんにお願いできてよかったです。
*3……エクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップ・ミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドが注目されるシンガーソングライター。ザ・フォーク・クルセダーズの『帰って来たヨッパライ』(1968)をカバーした。
ー長久監督の作品は、セリフもリズミカルですし映像自体が音楽的な要素を感じます。
長久:嬉しいです。僕はやっぱり音楽が好きなので、セリフを書くときも自分で読みながら、ある種ポエトリーリーディング的な気持ちで書いていたりするんですよ。そのときに、ここでカットを割りたいとか、音楽的に割っていたりする気持ちはあるんで、そういうところから音楽的な要素が感じられるかもしれないですね。
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