ロシアSF映画『レミニセンティア』と海外で活躍した5人の映画監督

たとえば最近、若い映画ファンが毎年選ぶ映画のベスト・テンなど見ますと、邦画や洋画の区別なく、すべてをひっくるめた“映画”全体からピックアップしているものがかなり多く感じられます。

もう、邦画だ洋画だといった分け方は野暮な時代に突入しているのかもしれません。

実際、今や映画製作も国境を越えてのボーダレス化が促進されています。今年も既にイギリス人バーナード・ローズが監督した日本映画時代劇『サムライマラソン』が公開されたのも記憶に新しいところでしょう。

逆に日本人が海を渡って映画を撮るといったことも、今では珍しいことではありません。

今回ご紹介する井上雅貴監督によるロシアSF映画『レミニセンティア』もその1本です。

日本人監督が単身ロシアで
制作したマインドSF

 (C)INOUE VISUAL DESIGN

『レミニセンティア』の主人公はロシアの小説家ミハエル(アレクサンダー・ツィルコフ)。

実は彼、人の記憶を消す特殊な力を持っていて、時折記憶を消したい人たちが彼を訪れ、その記憶を基にしながら小説を書いたりしているのです。

そんなミハエルですが、実は彼自身、愛娘ミラーニャ(井上美麗奈)の記憶の一部が欠如していることに気づかされ、そのことに悩むようになっていきます。

そんな彼が出会ったのは、記憶を呼び戻すことができる力を持つマリア(ユリア・アサードバ)。

ミハエルはマリアの力を借りて、己の記憶を取り戻そうと欲するのですが……。

本作はロシアSF映画をこよなく愛し、アレクサンドル・ソクーロフ監督が昭和天皇を主人公に描いた『太陽』をはじめ数々のメイキングを務めた日本人・井上雅貴が単身ロシアに渡って自主制作した長編デビュー作です。

彼自身のオリジナル脚本で、ロシアにてオール・ロケ、撮影から照明、録音、編集に至るまで自身が担当した、全編ロシア語によるマインドSF映画。

なるほど、本当にその気になれば映画はどこでも作ることができることを実践した作品であり、またこのアイデアなら特撮などのお金をかけずにSF映画としてアピールすることもできます。

寒々としたロシアの風景と、記憶の欠如という寂しさが見事にマッチしての映像とドラマの流れは、一度見ただけではすべてを理解しきれないものもありますが、そもそもロシアのSF映画は『不思議惑星キン・ザ・ザ』(86)のようなぶっとんだものから『惑星ソラリス』(72)のようにシュールなものまであります。

その意味でも本作は後者のラインを踏襲した知的なサスペンス風味を伴うものであり、幾度も見返すことでさまざまな伏線などに気づかされ、作品の情緒が高められていく類いのものと捉えていいでしょう。

いずれにしましても、これが自主制作で作られたことには驚きを隠せませんが、やはり「好きこそものの上手なれ」で、思い続けることを果敢に実践しての成果としてのこの作品、同じ映画ファンとして大いに讃えてしかるべきものがあるかと思います。

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Jホラーから巨匠まで
外国映画を撮った日本人監督

では、ここからは(単に海外ロケした日本映画ではなく)、海を渡って外国映画を監督した日本人を数名ピックアップしてみたいと思います。

●中田秀夫

ザ・リング2(字幕版)

ご存知『リング』(98)で世界中にJ(ジャパニーズ)ホラー映画ブームを巻き起こした監督で、5月24日からは最新作『貞子』も公開される中田監督ですが、『リング』をハリウッドでリメイクした『ザ・リング』の続編『ザ・リング2』(05)の監督として招かれ、大任を果たしています。

ちなみにこのときの制作エピソードを記録したドキュメンタリー映画『ハリウッド監督学入門』(09)も、海外で映画製作したいと思っている人にはうってつけの教科書となるでしょう。

一方でジョセフ・ロージー監督をこよなく愛する彼は、『リング』の同時期にドキュメンタリー映画『ジョセフ・ロージー 四つの名を持つ男』(98)も撮っています。

●清水崇

THE JUON/呪怨(字幕版)

中田秀夫監督同様、『呪怨』シリーズ(99~)でJホラー・ブームの旗手として躍り出た清水監督も、ハリウッドでセリフリメイク『THE JUON/呪怨』(04)を監督し、全米興行収入初登場1位を記録。続けて続編『呪怨 パンデミック』(06)も手掛けました。

そして2014年には旅客機内の恐怖を描いた『7500』(14)を監督していますが、リメイクのみならず、このようなオリジナル作品まで撮るに至った事実も大いに湛えたいところ。

また彼は2014年に香港ホラー・コメディ映画『霊幻道士』(85)をリブートした『キョンシー』のプロデューサーとしても迎え入れられていますが、こちらはコメディ色を一切排したダーク・ホラーとなっています。

●原田眞人

ペインテッド・デザート タフ劇場版 [DVD]

海外で映画制作を果敢に実践し続けた先駆者として採り上げるべきは、やはり原田眞人監督です。

映画評論家&ジャーナリストとして単身アメリカに乗り込んでハワード・ホークスら巨匠連と交流を持ちつつ、帰国後の79年に映画監督デビュー。その第2作は西ドイツとの合作で日本人バイク・レーサー親娘のヨーロッパ遠征を描いたロードムービーの佳作『ウインディー』(84)。主演は渡辺裕之ですが、彼以外のキャストはすべて外国人で、その中には『XMEN』シリーズでおなじみパトリック・スチュアートもいます。

94年には90年代オリジナル・ビデオ・ブームの中でも頂点と讃えられる伝説のハードボイルド・シリーズ『タフ』の後日譚をオール・アメリカ・ロケで描いた『ペインテッド・デザート』を発表。こちらも主演の木村一八以外、ジェームス・ギャモン、ノブ・マッカーシーなどすべて現地のキャストで、スタッフもほぼ外国人による外国映画とみなすべきでしょう

さらに97年には、ロス・オリンピックをめざす米ボート競技選手の執念をコリン・ファーガソン主演で描いた『栄光と狂気』を発表。日本とアメリカ・カナダの合作ではありますが、制作体制は完全に外国映画。

特に本作や『ウインディー』はDVD以降のソフト化が国内でなされていないこともあって、今ではなかなか見る機会に恵まれませんが、ぜひとも再評価を望みたい作品たちです。

ちなみに原田監督、得意の英語と割腹ある風貌を活かして、『ラストサムライ』(03)や『SPIRIT』(06)に俳優として出演しています。

●黒澤明

デルス・ウザーラ(字幕版)

その原田眞人など世界中の映画人にリスペクトされ続ける日本映画界の巨匠・黒澤明監督がロシア(当時はソ連)に招かれて撮った超大作が『デルス・ウザーラ』(75)です。

20世紀初頭のシベリアを舞台に、ロシア人探検家と案内人漁師との友情を壮大なスケールで描いたこの作品、先ごろ国立映画アーカイブにて70ミリプリントでの上映がなされ、日本中から多くの映画ファンがかけつけました。

1970年代に入り、既に日本映画の小さな枠に収まり切れなくなって(70年に発表した『どですかでん』の興行的失敗も痛かった)、なかなか国内で映画を撮れない状況下にあった黒澤監督ではありましたが、そんな彼に当時のソ連映画界が声をかけたことで、見事に復活。モスクワ国際映画祭大賞やアカデミー賞外国語映画賞を受賞するなどの栄誉に輝き、後の『影武者』(80)『乱』(85)といった超大作の制作に勤しむことに繋がっていくのでした。

(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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