『斬、』配信記念!塚本晋也を今一度振り返ろう!

(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER 

9月から塚本晋也監督の2018年度作品『斬(ざん)、』がネット配信されることになりました。

塚本監督初の時代劇でもあるこの作品、江戸時代末期の農村を舞台に、農家の手伝いに従事る日々に忸怩たる想いを抱いている若い侍(池松壮亮)と彼を愛する農家の娘(蒼井優)、京都の動乱へ参戦しようとする剣の達人(塚本晋也)の3人の確執を赤裸々に描いていくもの。

もちろん今回も製作・監督・脚本・撮影・編集・出演を兼任しての塚本ワールドが炸裂しています。

塚本監督作品は常に肉体と暴力の相関関係から現代社会が描出されていますが、今回も時代劇の姿を借りて、人を斬れない若侍と、人を斬ることに躊躇しない老侍の関係性から、人が人を斬る=殺すことの恐怖や現代に通じるすべての争いのおろかさや醜さなどが見事に描かれているのです。

では今回、そんな『斬、』の配信リリースを記念して、これまでの塚本作品の魅力などを今一度振り返ってみることにいたしましょう!

肉体と暴力、都市、
エロス、暴力、そして……

最初にも触れましたが、塚本監督作品の根本的魅力といえば、登場人物の肉体を徹底的に痛めつけ、その暴力性の中からもたらされる精神の軋みや生と性のもがきなどから現代社会が描出されていくところにありますが、その筆頭といえば、やはり彼の出世作となった『鉄男 TETSUO』(89)でしょう。

(C)1989 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

自らの肉体が鉄に蝕まれ金属化していくサラリーマン(田口トモロヲ)の恐怖と、それを仕掛けた“やつ”(塚本晋也)の復讐を描いた本作は、第9回ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞し、それまで自主映画活動を続けてきた塚本監督にとって大きな飛躍となり(86年には本作の原型ともいえる『普通サイズの怪人』も発表)、今でも塚本映画の代名詞的存在として君臨し続けています。

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本作の成功により、姉妹編の『鉄男Ⅱ BODY HAMMER』(92)、アメリカでセルフリメイクした『鉄男 THE BULLET MAN』(10)も作られています。

また、こうした肉体が改造されることで暴走していく精神を都市が包み込んでいく路線は、この後もボクシングを題材にした『東京フィストTOKYO FIST』(95)や拳銃に魅せられた男の狂気を描く『バレットバレエ』(99)などに継承され、ついには人体解剖をモチーフにした『ヴィタール』(04)へ行き着きます。

同時に、都市と肉体がもたらすエロスを追求したスリラー『六月の蛇』(03)も特筆しておきたいところ。狭いコンクリート空間に閉じ込められた男の恐怖を描いた中編『HAZE』(06/塚本監督初のデジタル撮影作品)もユニークではあります。

塚本監督が敬愛するシンガーソングライターのCoccoを主演に迎え、世界が二つに見えるシングルマザーの過剰な強迫観念を描いた『KOTOKO』(12)も見事に塚本ワールド足り得ています。

そして彼が自身の映画キャリアの集大成的意欲で取り組んだのが、戦争映画『野火』(14)でした。

大岡昇平の原作小説を学生時代に読んで以来、いつかこれを自身の手で映画化したいという彼の願いがついに実っての執念の作品、ここでは肉体と精神を崩壊させる究極の場ともいえる灼熱の戦場地獄を徹底してクールな目線で見据えつつ、ついには人が人を喰らうカニバリズムの狂気まで追求していきます。

そのおぞましさは、単に過去の戦争の悲劇の域にとどまらず、実は現代社会に向けて発せられた全ての争いを否定する真摯なメッセージでもあります。

それこそ戦争を容認するようなことを国会議員が平気で口にするような危険な状況にある昨今、本作および塚本監督作品の存在はすこぶる重要なものではないかと思わずにはいられません。

作家性とエンタメを
両立させた手腕

さて、こうした自主制作スタイルの映画作家として他の追従を許さない塚本監督ではありますが、実は自身の企画だけでなく他方面から依頼されて演出した作品もいくつかあります。

まず、『鉄男』が各方面で評価されたことから演出のオファーがなされたのが『ヒルコ 妖怪ハンター』(91)でした。

これは原作漫画『妖怪ハンター』の原作者・諸星大二郎の世界と『鉄男』が通じるものがあると見越した製作サイドからの依頼だったわけですが、その試みは大正解! 

塚本監督としては初のメジャー進出作品でもありましたが、それに臆することなく見事なまでに黄泉の国へ赴くことになった異端の考古学者・稗田礼次郎(沢田研二/原作とまったくイメージは異なるものの、何の違和感もない好演!)が体験する怪奇譚はどこか幽玄かつ耽美な情緒を伴っています。作品の性格から特撮もふんだんで、竹中直人の化けっぷりは見終えてしばらく夢に出てきそうなほどのインパクトがありました。

1999年には江戸川乱歩の同名小説を原作にした『双生児』も発表していますが、これは主演の本木雅弘が発案した映画企画に江戸川乱歩好きの塚本監督が乗って演出を引き受けたもの。

明治末期の医院・大道寺家の跡取り息子・雪雄(本木雅弘)が自分と瓜二つの青年・捨吉(本木雅弘/二役)によって井戸に投げ捨てられました。

実は捨吉と雪雄は双生児で、両親に捨てられて不遇な人生を送っていた捨吉は、復讐のために雪雄になりすまし、家の当主に収まるのですが……。

『ヒルコ』も『双生児』もメジャー製作&配給作品ではありますが、塚本監督が自作のために主宰する海獣シアターも全面協力するというメジャーとインディペンデントのコラボ化が巧みになされています。また『ヒルコ』は撮影を他者に委ねていましたが、『双生児』は自身がキャメラを回し編集も担っていますので、より作家性も強まっているともいえるでしょう。

『双生児』でおわかりのようにミステリ好きな塚本監督は、怪獣シアターとムービーアイ・エンタテインメントの共同製作で長年温めてきた『悪夢探偵』2部作(07&08)にも着手しています。

これは他人の夢の中に入れる探偵(松田龍平)を主人公にしたダーク・ファンタジーとしての側面も大いに持ち合わせたエンタテインメントで、彼のミステリ好き、エンタメ好きな側面を大いに堪能できる逸品です。

このように作家性を押し殺すことなくエンタメ作品も両立させられる塚本監督なのに、なぜ日本の映画制作サイドはもっと彼にオファーしないのかと、時々腹立たしく思えるほどなのでした。

俳優・塚本晋也の
秀逸な存在感

ここまでは映画作家としての塚本晋也を振り返ってみましたが、彼にはもう一つ「俳優」としての顔も持ち合わせています。

もともと演劇からクリエイティヴな活動をスタートさせている塚本晋也なだけに、自主映画時代も当然自身で出演。その豊かなパフォーマンス性に最初に目をつけたのが『ヒルコ』に出演した竹中直人で、彼が監督した火事の起きない町の消防署を舞台にした群像劇『119』(94)に、塚本晋也は署員のひとりとして起用され、好演しています。

その後はいつしか監督作品よりも出演作品のほうが多くなるほどの売れっ子となり、最近でも『シン・ゴジラ』(16)の科学者や、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙―サイレンス―』(16)での処刑される敬虔なキリシタン役など、どれも映画の印象そのものを際立たせてくれる優れものでした。

TVでもNHK朝ドラ『半分、青い』(18)のオタッキーな教授も楽しかったですし、現在はNHK大河ドラマ『いだてん』(19)で東京にオリンピックを招致すべくイタリアの独裁者ムッソリーニと直談判する副島道正を熱演しています。

実は『とらばいゆ』『殺し屋1』『クロエ』『溺れる人』(いずれも2001年公開)で第57回毎日映画コンクール男優助演賞、『野火』で第70回毎日映画コンクール男優主演賞、『斬、』で第73回毎日映画コンクール男優助演賞と、俳優としても高く評価されている彼。

監督作品の特集上映はよく開催される塚本晋也ではありますが、たまには俳優・塚本晋也特集みたいな催しもあってしかるべきかもしれませんね。

(そういえば以前「塚本監督にとって俳優・塚本晋也はどのような存在ですか?」と質問したとき、「あんなに使いやすい奴はいませんよ。言うことをよく聞くし」などと笑って答えてくれました)

(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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