ドイツの名匠ファティ・アキンが紡ぎだす、青春冒険ロマンの新たな金字塔『50年後のボクたちは』

© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

『スタンド・バイ・ミー』や『大人は判ってくれない』など、いつでも青春映画はその時代の少年たちの心情を切り取っていく。大人たちへの反抗、未知のものへの好奇心、音楽やダンス、異性への憧れ。

本日、9月16日から公開された『50年後のボクたちは』。世界中でベストセラーを記録したヴォルフガング・ヘルンドルフの小説を映画化した本作は、プロット自体を辿れば、よくある青春映画の1本に過ぎない。しかし、主人公がクラスで味わう疎外感や、移民の転校生との友情と、現代的な課題をみずみずしく描写する。

これは21世紀初頭の青春映画として、長く語り継がれていくタイプの作品ではないだろうか。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.49:ドイツの名匠ファティ・アキンが紡ぎだす、青春冒険ロマンの新たな金字塔>

アル中の母親と、絶賛浮気中の父親を持つ主人公のマイクは、クラスでは変人扱いされひとりぼっち。そんな彼のクラスに、ロシア系の少年・チックが転校してくる。目つきが悪く、毎日のように二日酔いで学校に来る不良のチックに、クラス中の誰もが距離を置いていた。

夏休みが始まり、ひとりで退屈にしていたマイクのもとに、突然チックが車に乗って現れる。どこからか拝借してきたオンボロの車で、ふたりはチックの祖父が暮らす〝ワラキア〟という地を目指してドライブに出かける。

冒頭から、薄暗い道路での事故のシーンで不安げに始まるこの映画。初めから爽やかさが全開とはいかず、鬱屈した主人公の心情に沿っていくように晴れやかになっていくところがまた秀逸である。強引だが人の良いチックのキャラクター像は、強面ながら人情味に溢れた〝昭和のヤンキー〟感が漂うのも粋である。

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少年ふたりの道中に、途中から合流するイザという名前の女性も、魅力的に主人公の心に入り込み、美しくフェードアウトしていく。クラスメイトの女子への憧れから、年上の女性への恋心と、別れが丁寧に描き出されることで、主人公マイクが精神的に成長する瞬間を、一瞬足りとも逃すまいとする作り手の思惑が、本作を精巧な青春冒険ロマンへと導いている。

2004年、まだ世界的には無名であったファティ・アキンは、初めての三大映画祭となったベルリン国際映画祭で、『愛より強く』を発表し、その頂点に立った。その時のコンペティション部門には、ケン・ローチを筆頭に、エリック・ロメール、テオ・アンゲロプロスといった映画史に名を刻んできた錚々たる巨匠たちが出品していたが、それを押しのけての受賞となったのだ。いわば、今後の彼の活躍を見極めた、ベルリン国際映画祭の当時の審査員団の判断は、この上ないほど正しかったといえよう。

そんな彼がデビュー間もない、2000年に手掛けた(日本では『愛より強く』と同時期に劇場公開された)『太陽に恋して』という作品は、冴えない主人公が夏にオンボロの車で遠くを目指していく青春映画という点で、今回の作品とのリンクを感じることができる。

夏休みの予定が何もない教育実習生の青年ダニエルはある時、太陽がデザインされた指輪を買い、理想の女性と出会うことを告げられる。すると彼はたちまち旅行中のトルコ人女性メレクに一目惚れ。彼女を追ってイスタンブールへ車を走らせる彼は、途中でヒッチハイクの女性を拾う。彼女は、ダニエルに想いを寄せていたアクセサリー売りのユーリだった。ユーリと旅をしながら、初めての経験を重ねていくダニエルは、次第にユーリに惹かれ始めていく。

『50年後のボクたちは』は、少年たちの友情と、未来へ向けた希望に溢れた一編であったのに対して、この『太陽に恋して』は、恋愛感情を中心として自分を変えていく主人公を物語る。前者は思春期になったばかり、後者は青年期まっさかりの、それぞれ違う時期の青春ドラマではあるが、醸し出されるノスタルジックな雰囲気は共通している。

コンスタントに作品を発表し続けているファティ・アキンだが、続く『In the Fade』が、カンヌ国際映画祭でダイアン・クルーガーに主演女優賞をもたらしたことは記憶に新しい。同作では爆破テロによって家族を失った女性の復讐劇が描き出されるとあって、今回の新作とはかなりテイストが異なるようだ。あらゆるジャンルの作品を生み出すことができる彼は、今後のドイツ映画を牽引していく存在になっていくに違いない。

『50年後のボクたちは』
9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
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(文:久保田和馬)

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