映画コラム

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2018年12月29日

『A GHOST STORY』は1年の締めにピッタリな良作!演出の素晴らしさなど作品の魅力を語る

『A GHOST STORY』は1年の締めにピッタリな良作!演出の素晴らしさなど作品の魅力を語る

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。

24回目の更新。ということは、、ということもなにも、もはや年末なので、お分かりの通り、今年最後の更新となりました。

シネマズPLUSさんで連載を始めさせてもらい、早くも1年が経ちました。あっという間です。

たくさんある映画の中から選ぶというのは難しいことですが、今年も素敵な映画との出会いが多々ありました。傑作を目の当たりにしたとき、お宝を探しあてたようにうれしく心が小躍りするあの感覚が好きなのです、あたくし。

本業である役者のほうでも、うれしいことがありました。出演した映画『月極オトコトモダチ』(来年、単独上映がきっと、、あると、、思うので、よろしくお願いします)で、多くの賞を頂き、その上、最優秀男優賞という個人賞まで頂くことができ、幸せでした。

これからも映画には深く関わっていきたいので、今回本当にうれしかったのです。色んな出会いに感謝です。

さて、出会いがあれば、別れ、というものがありますね。いずれ別れる。頭ではそんなことは分かっているのですが、いざ実際に自分がそこに直面すると悲しみにふけてしまうのが人間というものなのでしょう。

映画では特に、そういうシチュエーションが多いです。やはりドラマが生まれやすい状況ですからね。さまざまな作品で色んな別れや悲しみ、切なさが表現されたものを観てきました。しかし、今回、軽々とそれを飛び越える作品に出会えたことに驚きました。今回はそんな素敵な作品をご紹介します。

『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』




(C)2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.


僕は、死んだ。
でも
ここにいる。

田舎町の一軒家で暮らす若い夫婦。

作曲家のCは、この"家"を気に入っているが、妻のMはここから出て他に移りたいと思っている。

そんなある日、Cが自宅近くで交通事故で命を落としてしまう。遺体を確認して呆然とする妻のM、遺体にシーツをかけその場を後にする。

そのシーツをかけられた死んだはずCの遺体が、起き上がる。シーツを被った状態で。

当然のように家に帰るCだが、妻のMはその存在に気づかない。夫を失い悲しみにくれ苦しむMをじっと見守り続けるシーツを被ったC。

Mは新しい道を歩むために、2人で暮らしてきた家を去って行く。Cを残して、、、

その後、その家に住む人々が何度か入れ替わる。Cは家につき、その住人たちをじっと見守り続ける。そして、Cは絶望に暮れていき、遂に新しい旅へと出発する、、、



(C)2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.


サンダンス映画祭の観客賞や世界の各映画祭でノミネートや受賞多数、大絶賛をうけた話題作。

いやーー。鑑賞した際、衝撃で心がグニャグニャになりました。自分の中の隠されていたり、仕舞い込んでいたものが、一気に掻き乱され、放り出された感覚です。それほどいろんなものが詰まった大傑作だったのです。

シーツを被り、目の穴だけ空いているハロウィンのような造形のゴースト。簡易的に見えるその造形ですが、シーツのシワひとつひとつも計算されたのかのように緻密に作ってあるのです。裾の汚れ具合も。

表情も動きもないのに、その表情(?)から感情が嫌という程、伝わってくるのです。ゴーストというより、ペットのような動物に近い感じでしょうか。

悲しみに暮れる妻を、じっと見守ることしかできないゴースト。その距離感や、雰囲気だけで、どばっと伝わってくる感じ、、、堪りません。(いまこれを書いているだけなのに、思い出し涙が滲んできました。)

病院の遺体安置室で、ゆっくり起き上がり、廊下を歩き、Mは光の扉のようなものの前に立ち、一瞬考える間のような時間がありますが、自宅に帰る選択を取ります。あの瞬間、成仏を捨て、妻の元に戻ることを選ぶのですが、、、まぁーーー堪らない。そういう細かい演出や、表現がまぁーーー堪らないのです。(堪らない多めです)

説明は一切なし、台詞も少なめ。冒頭からの夫婦の会話から伏線が張り巡らせてあり、1回では観きれないです。2回目、3回目と見る度に新たな発見や解釈が生まれる作品です。



(C)2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.


そして、夫婦2人の物語かと思いきや、妻が家を去ってから物語がさらに動き始めます。

家に残されたゴースト。そこの家に様々な住人たちが住む。最初に越してきたヒスパニック系の小さい子供がいる家族。ゴーストは母子の騒がしさに気に障ったのか、超常現象を起こし、その家族を追い返したりします。

ホラーなどよく起こるラップ現象などをゴースト視点で見るという感覚が、なんだかとても面白い。人間目線で見ると恐怖なのですが、ゴースト目線で見ると滑稽なシーンに。

さらにユニークなシーンが多くある。

隣家のゴーストとのコミュニケーションを取るのです。

「ここで人を待ってる」
「誰を?」
「覚えてない」

と。言葉ではなく、お互い窓越しにテレパシーのようなもので会話をする。そしてここで、ゴーストも記憶をなくすという事実を知る。細やかなシーンが重なり合い、死後の世界ではどうなるのか魂はどこに行ってしまうのか、ミステリーさ漂う詩的なファンタジー作品になっています。

死後のゴーストの孤独感。切なさ。悲しみ。

記憶を取り戻し、目的を達成した瞬間の成仏を表現するあの潔い無駄のない演出、すべてが"ちょうど良い"のです。

やり過ぎもせず、やらな過ぎもない。

設定的に説明的になりやすいシーンも、カメラのアングルや画角、音、で細やかに構築されていて最小限の表現できっちり伝わる。

人間視点とゴースト視点が見事に整理されています。

話は西部開拓時代に遡り、そこから繋がっているCとM。それを目の当たりにした瞬間、色んな感情が揺蕩ってまいります、、、、

出演は、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でさまざまな賞を得たケイシー・アフレック『キャロル』『LION』での演技が記憶に新しいルーニー・マーラ。監督は、新鋭のデヴィッド・ロウリー。

『セインツ 約束の果て』で組んだ3人が、今作でまた力を合わせました。そのチームワークもあり大傑作が作り上げられたのでしょう。

今年の締めにピッタリの良作です。ぜひ、鑑賞ください。

とにかくとにかく、観ていただきたい作品です。

絶対、損はしません。

そして、また必ず観たくなります。

必ず。

"僕は、死んだ。
でも、
まだここにいる。"

それでは、
今回も、、、今年も、
おこがましくもご紹介させて頂きました。

皆さま、よいお年を。

(文:橋本淳)

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