晩秋にふさわしい日本映画① 『岸辺の旅』『ディアーディアー』

■「キネマニア共和国」

秋も深まり、ふと気を抜くとあっという間に今年も終わり、なんて感じの11月ではございますが、まもなくやってくる『スター・ウォーズ フォースの覚醒』や『007スペクター』などなどお正月映画の華々しさを待ち望みつつ……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.61》

今は深まる秋を、映画でシックに感じていたいと思うかたがたに!

まだ間に合う映画、その①
『岸辺の旅』

岸辺の旅
まずは、黒沢清監督作品『岸辺の旅』。第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した作品で、湯本香樹実の小説を原作とした黒沢監督初のファンタジック・ラブ・ストーリーではありますが、一方では彼ならではの趣向を凝らした魂のロード・ムービーとして成立させています。

3年間、失踪していた夫が突然帰ってきました。しかし、彼は「俺は死んだよ」と妻に告げ、まもなくしてふたりは、夫が過ごした時間をめぐる旅に出ます……。

「俺は死んだよ」という言葉が示すように、どうやら夫は既に死んでしまっているようなのですが、たとえば普通に食事もすれば、バスに乗って乗車賃も払います(ただ、子どもたちには不可解な感じで見られているみたいです)。
岸辺の旅
妻も夫が死んでいることに今さらといった感じで驚いた風でもなく、ただし目の前にいる夫と再び愛し合えないのか、生きていたときとまったく同じような生活ができないものか、どこかでそう願いながら、夫に付いて旅します。

ここでは3つの場所が大きくクローズアップされますが、最初の小松政夫扮する新聞屋のエピソードが秀逸で、あたかも小泉八雲の『怪談』の世界はホラー映画で鳴らした黒沢監督の真骨頂。
二つ目の中華料理屋でのエピソードは、妻が幼い頃に習っていたピアノが大きくドラマに影響しながら、一つ目のエピソードとは少し自然をずらした形でこの世とあの世のはざまを感動的に取り払ってくれます。
岸辺の旅
そして最後のエピソードは、まさにふたりが黄泉の国にさまよいこんだかのような味わいで、とどのつまり今回は幽玄的世界観の下で怪談をロマンティック・ラブストーリーとして成立していることに気づかされます。

また、その情緒を強調するために、妻が夫のかつての愛人と会うシーンが出てきますが、そこでの元愛人役・蒼井優の不敵な笑みは、他のどの恐怖演出よりもぞくっとさせられてしまいます。

実は既に東京テアトル新宿での上映は終了してしまったのですが、今はキネカ大森で上映中。また全国での上映展開も始まっているので、この機会を逃すことなくご覧になってみてください。
岸辺の旅

まだ間に合う映画、その②
『ディアーディアー』

続いて、『ディアーディアー』。シネマズでは何度も紹介されている作品ですが、先日私も見て感銘を受けましたので、引き続き応援させていただけたらと。

こちらは、幻のシカが見つかったとして話題になった地方の町が、どうもそれがデマであったとみなされ、発見者の子供たちは糾弾。やがて歳月が経ち、その子供たちは父の危篤に伴い、久々に地元で再会します。
ディアーディアー
実家に残って父の後を継ぎ、シカの事件もなかったかのようにふるまっている長男(桐生コウジ)、シカの事件が影響してか、心の病が未だに癒えない次男(斎藤陽一郎)、小説家志望の夫に愛想を尽かし、地元の元カレと接近してしまう長女(中村ゆり)。

決して仲が良さげではない3人の兄弟は、それぞれの苦悩や孤独などを隠しながら、父の臨終から葬儀に至るまでの間、不可思議な体験をしていきます。それはある意味リアルで重い偶然が重なりすぎて、思わず笑ってしまうような部分もどこかにあり、当人にとっては悲劇でも、周りから見れば滑稽な喜劇に映ってしまう、そんな人生の機微が本作からそこはかとなく醸し出されていきます。

監督は、数々の作品に助監督として就き、これが長編映画デビューとなる菊地健雄。全体的に、炊いたお米に芯が少し残っているかのような固さは感じますが、それもまた初々しさと捉えれば、一つの味わいではないかと。
また、それを補うに余りある3人の兄弟役の好演。特に中村ゆりは圧倒的で、あたかも映画のミューズが彼女に宿っているかのような存在感でした。

特筆すべきは岡田拓郎の音楽で、そこはかとない実験的な調べで画面との調和のみならず不調和までも魅力的にはじかせていく趣向には、最近の日本映画にはない意欲的なものを感じました(もっとも個人的には、だからこそエンドクレジットに“劇伴”なる映画音楽を貶める戦前からの差別用語を入れてほしくなかったというのも正直なところではあります。せっかくの素晴らしさが、もったいないなあと)。

こちらも既に東京テアトル新宿での上映は終了してしまいましたが、キネカ大森など全国で上映展開中。単に作品の良し悪しといった次元を超えて、この映画および関わったスタッフ&キャストを今後も応援したくなる、そんな作品です。

現に、本作の不思議な味わいに妙に魅せられて、リピーターになってしまったファンも徐々に増えてきているようです。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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