「3月のライオン 後編」の見どころは、羽海野チカ×大友啓史監督のガチンコ勝負だ!!

■「役に立たない映画の話」



(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会



※かなりの部分ネタバレしていますので、前編未鑑賞あるいは後編の内容をまだ知りたくないという方は、他のページへどーぞ!

映画「3月のライオン」は後編こそ見応えあり!


3月のライオン


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会



後輩 見て来ましたあ。「3月のライオン・前編」。

先輩 おう。どーだった?

後輩 まさしく将棋バトルの映画になってましたねえ。男対男のガチンコ・バトル。なかなか迫力がありました。

先輩 あれ?お前、原作は読んでいたんだっけ?

後輩 いーえ。先輩から強力に薦められてはいましたが。

先輩 将棋バトルのシーンが面白いのは分かったけど、ドラマの部分はどうだったんだよ?

後輩 あの、2つの家族が出てきますよね。零が最初に身を寄せる幸田家と、その後三姉妹と親しくなる川本家。幸田家には豊川悦司扮する棋士のお父さんと、性格のキツーい姉・香子と内向的な弟・歩君がいる。

先輩 幸田ママもいるぞ。実は彼女の存在は、原作のあるエピソードではとても重要なんだ。

原作が迎えるはずだった結末は、映画に反映されている。


3月のライオン サブ4


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会



後輩 先輩、どこまで原作に入れこんでるんですか?

先輩 ははは。まあ今回は特別でな。ただ、実写映画版「3月のライオン」は、前編は序の口で、むしろ後編のほうが見応えある。

後輩 とは言っても原作があるわけですから、その通りにやるんでしょ?

先輩 いや、後編の約半分は映画オリジナルだ。

後輩 へえ、そうなんですか? いいんですか?原作通りやらなくても。

先輩 後編の前半は、ひなちゃんのイジメ問題があり、川本家の父親・誠二郎をめぐっての騒動があったりと、川本家中心に描かれていると思いきや、実は幸田家が抱える問題をじっくり描いてみせる。これは原作にはない展開なんだよ。

後輩 そもそも原作はまだ連載中でしょう?

先輩 そうなんだ。でも映画として決着をつけなきゃいけないから、大友監督が羽海野チカさんから今後のストーリーについて、構想を聞いたらしい。

後輩 じゃあ連載中の原作は、映画の後編と同じ終わり方をするんですか?

先輩 そのはず・・・・だった。

後輩 だった・・って?過去形なのはなに故?

先輩 当初「3月のライオン」の原作は、「ヤングアニマル」での連載を、映画公開とシンクロして終了する予定だったんだよ。まあよくある出版と映画の連動プロジェクトだわな。でも、それはなくなった。

後輩 なんでなくなったんですか?

先輩 当初想定していた、映画とシンクロした結末で終わらせることを、羽海野さんが拒否したんだよ。

後輩 えーっ!? それ、ヤバいんじゃないっすか?

先輩 おそらくは、大友監督や脚本家の人たちに、当初考えていた原作の結末を話した後、シナリオに反映されたものを読んだ時点だと思うけど、連載の終了をやめて続行することを表明した。

後輩 映画で描かれている結末の、その後を原作で描こうというのですか?

先輩 そのあたりは、羽海野さんの判断にかかっていると思うけど、このエピソードを聞いた時、あ、これって映画を作るプロセスそのものがバトルだったんだと、オレは気づいたね。

後輩 誰と誰のバトルなんですか?

先輩 決まっておろう。羽海野チカさんと大友監督のだよ。ふたりとも第一級のクリエイターだ。コミックと映画。メディアこそ違えど、やはりライバル意識はあるんじゃないかな?

後輩 そりゃ羽海野さんにしたら、自作を映画化されたわけだから、その作品からインスピレーションを刺激されたとしても、おかしくはないですよね。

先輩 「大友啓史に負けてなるもんか!」と思ったかも知れないよ。口に出したかどうかは知らないけれど、「映画のほうが面白い」って評価をされたら、やっばり燃えあがると思うんだ。

後輩 世のクリエイターと呼ばれる人たちって、そういうことをモチベーションにしているのでしょうね。

先輩 まあ、オレが勝手にそう思っているだけかも知れないけど(笑)。でも、そういう見方をすると映画「3月のライオン・後編」と、これからも連載が続くコミック「3月のライオン」の面白さが増すんじゃないかと思うんだ。

すまん有村架純。今まで君をナメていた。


3月のライオン 幸田香子(有村架純)


(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会



先輩 「3月のライオン・後編」で何と言っても強烈な印象を残すのが、香子役の有村架純だ。

後輩 香子って幸田家の長女ですけど、彼女は零君とどういう関係なんですか?

先輩 両親と妹を亡くした零を引き取ったのが幸田。つまり零は幸田家の居候になるわけだが、幸田の娘の香子と息子の歩とは、微妙な関係だ。特に香子と零は、ある種アンモラルな雰囲気も漂わせているけど、本人たちがそれを意識しているのかは分からない。香子は妻帯者で、父のかつての弟弟子である後藤と不倫してるし。

後輩 なんだかややこしいですねえ。

先輩 ただ、香子というキャラは原作でもとても重要なキャラなんだよ。にも関わらず、5巻ぐらいまでで姿を消す。ずっと出てこない。

後輩 なんでですか?

先輩 羽海野さんがそう判断したんだろう。でもそもそも「3月のライオン」って、香子のアップから始まってるんだよ。スクリーントーンをばりばりにつけて、香子が零に「あんたは名前通りに、何もない存在だ」と言い放つ。

後輩 そういうツンデレ・キャラを有村架純が演じていて、義理の弟に複雑な感情を抱いているという設定は分かりましたが、前編ではさほど重要なキャラに見えなかったんですけど・・。

先輩 はっきり言おう。後編の目玉は、彼女と豊川悦司演じる幸田とのやりとりだ。この時の有村架純の演技が素晴らしい。何で彼女がそういう振る舞いをするのか。香子という名前に込められた意味とか、色々な思いを一気にはき出すあたりは、目を見張ったね。彼女はこの一連の演技を自分で考えて表現したそうだから、もうオレは彼女に対する評価を変えた。

後輩 今までは、どんな風に思ってたんですか?

先輩 可愛い小娘だと。すまん有村架純。オレは誤解していた。この映画の君は見事だ。大した女優だと思う。原作でもちゃんと描かれていない香子を、ここまで見事に演じたことには、もう感服するしかない。

後輩 へーえ。珍しいですねえ。先輩がそこまで女優さんを誉めるなんて。

先輩 誰かが言ってたけれど、彼女は単に明るく可愛い女の子じゃなくて、ちょっと影のある役のほうが引き立つって。だから、有村架純の演技を見るだけでも「3月のライオン・後編」という映画を見るだけの価値はあるぞ。


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(企画・文:斉藤守彦)

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