漫画の映画化だろうが、面白いものは面白い、つまらないものはつまらない

■「キネマニア共和国」

青空エール メイン


(C)2016 映画「青空エール」製作委員会(C)河原和音/集英社


 このところ、漫画やアニメの実写映画化が顕著な日本映画界ではありますが、そのことを「幼稚だ」「ほかに企画を立てる頭はないのか?」などと嘆くマスコミの声が多いのも事実です。

しかしながら、特に漫画の映画化など。それこそ『サザエさん』シリーズを例に出すまでもなく昭和の昔から数限りなく行われていたことであり、また現在の日本映画の製作本数の多さからすれば、別段大したこともありません。

要は漫画の映画化であろうが何であろうが、面白いものは面白いし、つまらないものはつまらない。ただ、それだけのことであり、その伝で申すと……

キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.152

『青空エール』は、おもしろい成功例のひとつといえるでしょう!

少女漫画の映画化に秀でた
三木孝浩監督の手腕


『青空エール』は別冊マーガレットに昨年まで連載されていた河原和音の神コミックを原作にしたもので、トランペットの初心者ながら名門の吹奏楽部に入部した気弱なヒロイン・小野つばさ(土屋太鳳)が、甲子園を目指す山田大介(竹内涼真)をひたむきに応援し続けていく青春学園恋愛友情ストーリー。

もう頭のてっぺんからつま先まで、少女漫画ならではの夢と理想がふんだんに詰まった内容となっていますが、そういった要素を馬鹿にするのは融通の利かない映画マスコミにでも任せておけばいいのであって、それよりも何よりも、見ている間は高校生に戻った気分になって、それこそ現実にはあり得ない(あり得なかった!?)思春期の切なくも美しく輝いたドラマに身を委ねて鑑賞するのが正解。

もっとも、こわもての映画マニアなどに対しても映画としての説得力を持たせる演出力があるに越したことはないわけで、その点、今回の監督は『僕等がいた (前後篇)』(12)『ホットロード』『アオハライド』(14)と、少女漫画の実写映画化に定評があるだけでなく、デビュー作の『ソラニン』(10)や青春恋愛小説の映画化『陽だまりの彼女』(13)『くちびるに歌を』(15)も含めて、各キャラクターから瑞々しくも純粋な想いを映画的に描出することに長けた才人・三木孝浩が担当しているので、見る前から安心感はありましたが、今回は特に彼の最高傑作ではないかと思えるほどのときめきが感じられてなりません。

三木監督の演出は、一見気負うところがなく、特色らしきものも見えにくいものがあります。しかし、その実端正なショットの積み重ねと、あまり役者の演技にしても過剰に展開させることはなく、音楽にしても派手に鳴らしまくるタイプではなく、抑制された大人の目線で、しかし決して上から見下すようなことは一切なく、少年少女たちの思春期をわが身を削るかのような痛みまで伴いながら描出しています。『管制塔』(11)『くちびるに歌を』と三木作品の脚本を担当した持地佑季子の今回のシナリオ構成も秀逸に思えます。

青空エール 新ポスター


(C)2016 映画「青空エール」製作委員会(C)河原和音/集英社



好もしいキャスティングによる
少女漫画原作ならではの味わい


ヒロインに扮した土屋太鳳は、NHK朝の連続テレビ小説『まれ』(15)や『orange オレンジ』(15)と波に乗っているだけに、今回も気弱ながらも恋と部活によって少しずつ成長していくさまを好もしく演じています。
(ただ、2014年の『るろうに剣心 京都大火篇』でアクションができることを実践してみせた彼女には、そろそろアクション映画を撮っていただきたいとも願う次第)

『仮面ライダードライブ』(14~15)でヒーローを演じていた竹内涼真も、女の子から見たらきっと理想像なのだろうと思える少年を好演しています。

また今回特筆すべきは吹奏楽部先輩役の志田未来で、最初に登場してきたときは、もったいないキャスティングだなと思ったのですが、そのうち若き演技派の彼女をあえて助演で起用した理由が明らかになっていきます。簡単に申せば、彼女のエピソードから、この映画は涙が止まらなくなります。試写室では私の隣にいた若い女性たちが号泣し始めており、ひねくれたガキ親父の私ですら、もらい泣きしそうになるくらいの説得力がありました。

もうひとり、三木作品『陽だまりの彼女』のヒロインを務めていた上野樹里が、今回は吹奏楽部の厳しい顧問を演じていますが、彼女といえば『スウィングガールズ』(04)やTV&映画『のだめカンタービレ』シリーズ(06~10)と、音楽とは切っても切れないキャリアの持ち主だけに、もうドンピシャりのはまり役。というか、もしや『スウィングガールズ』ヒロインが大人になった姿を想定しているのでは?と思わせるほど味わいすらありました。

本作には少女漫画原作ならではの思春期の爽やかさと、切なさと、ときめきが過不足なく盛り込まれており、それを「甘い」だの「現実はそんなものじゃない」などと揶揄するのは無粋というものでしょう。

かつて思春期だった人には「こんな青春、体験はできなかったけど、もしかしたら体験できたかもしれない」と、そして現在思春期真っただ中の面々には「もしかしたら、こんな青春が訪れるかもしれない」そう勘違い、いや想像させてくれるに足るだけの力を持った作品です。

原作ファンには、あまり原作との比較云々こだわらず、あくまでも1本の“映画”として接していただきたいとも願ってやまない作品です。

少なくとも、これまで『高校デビュー』(11)『俺物語‼』(15/原作のみ)と河原和音作品は映画化されてきていますが、私は今回がもっとも映画的に優れていると思えました。

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(文:増當竜也)

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