『ブレア・ウィッチ』とPOVでホラー映画はどう変わったか

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

ブレア・ウィッチ サブ

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 12月1日から公開されたホラー映画『ブレア・ウィッチ』。99年に日本で公開された『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の正統続編にあたる本作では、前作がその垣根を開いたPOV方式を現代的に進化させ、その概念を見直したのである。誰もが驚愕したアイデアで作り出された伝説のホラー映画をもう一度振り返りながら、この17年でPOVホラー映画がどう変わってきたのか考えてみたい。

〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol9:『ブレア・ウィッチ』とPOVでホラー映画はどう変わったか>

ブレア・ウィッチ・プロジェクト (字幕版)

魔女の伝説に残る森にやってきた3人の大学生が、行方不明になる。こんな設定だけを掲げて99年の暮れに公開された『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』。ちょうど同じ時期にはM.ナイト・シャマランの『シックス・センス』が大ヒットしており、ホラー映画に新しい風潮をもたらすことがある種のブームになっていたのだ。その内容は極めてシンプル。彼らがカメラを片手に森を彷徨う姿が、およそ80分続く。彼らは暗闇の中で恐怖を味わうのだが、これまでホラー映画では当然であった、観客を脅かすような描写が一切登場しない。それなのに、何故これほどまでに怖いのか。

近年、IMAXや4DXといった、臨場感を売りにする映画が多数登場するようになった。その臨場感なるものを作品の撮影段階で一気に組み込むPOV方式を、映画に大々的に取り入れたのは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』に他ならない。登場人物の視点によって、劇中で発生する事態を、観客も同じように体験できる。もはやこれが最近話題のVR技術の走りと見てもいいのではないだろうか。手持ちカメラで臨場感が生まれるというロジックは、深作欣二の『仁義なき戦い』シリーズですでに証明されている。そこに、撮影機材の仕入れやすさによって、例えば携帯電話のカメラで気軽に記録できるようになったことで生まれた人間の「撮影したい」という好奇心が相まって成立したわけだ。

本作以後、多くのホラー映画(ないしはパニック映画)でこのPOVが取り入れられてきた。共通していることは、完全にフィクションであると振り切らずに、現実と同じ世界で何かが発生しているという前提で成り立っているということである。マット・リーヴスの『クローバーフィールドHAKAISHA』しかり、シャマランの『ヴィジット』しかり、現在でも多様されている。

しかし、さすがにここまで続くと目新しさも失われてきてしまう。POVの問題点として挙げられるのは3点。擬似的なドキュメンタリー(モキュメンタリー)として作っても、観客も馬鹿ではないのでフィクションであることを理解してしまい、臨場感が半減すること。また、前述したような4DXやVR技術の登場によって、画面を観るだけの行為それ自体が、作品と一定の距離を置いていることが明らかになったこと。そして何より、手持ちの映像が見づらいということだ。

まず3点目を補足するように、『パラノーマル・アクティビティ』という記録的大ヒット作が登場する。夜間に起こる恐怖現象を、長時間にわたるフィックスの画面でとらえる同作では、劇場の椅子に座ったままの観客に、ハッキリと恐怖現象を見せること、そして何かが起きそうで何も起きないという不安感を煽ることに成功した。モキュメンタリーの程を為していても、臨場感という概念を取り去ったのである。
また最近では、『アンフレンデッド』のように、固定されたパソコンの画面で恐怖体験を描く作品も登場して、さらに観客は単純なPOVで満足しなくなったのである。

そこで真打の登場である。ホラー映画の方法論に一矢報いた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスが、同作の公開直後に発表していた『ブレアウィッチ2』を否定して、正真正銘の続編として発表したのが今回の『ブレア・ウィッチ』なわけだ。前作で行方不明になったヘザー・ドナヒューの弟が、You Tubeで姉の存在を見つけ、仲間たちと例の森へと入っていくのである。

今回用意したのは1台のカメラではなく、視線と同様の映像が記録できるアイカメラだったり、空撮で全体の映像を確認できるドローンだったりと多様な装置だ。そんな複数台のカメラの映像を、「回収された後に編集された」という設定で、きちんと映画に見えるように編集しているのだから、この振り切り方はなかなかシュールである。もうこの時点で、これがモキュメンタリーであることさえも認めず、フィクションであると振り切っているように思える。

その際たるものが、前作でほとんど見られなかったショッカー描写が連発することだ。ホラー映画の最もシンプルな恐怖演出のひとつであるショッカーを加えていくことで、フィクションらしさを強める。革新的なホラー映画を作り出した製作者が、自ら古典的なホラー映画に回帰したのである。

そしてやはり手持ちカメラが中心となるので、画面的な見えづらさは否定できないものの、ドローンのカメラによる安定した空撮はなかなか見応えがある。もしかしたら、低予算インディーズ映画の撮影技術の教本としても使えるのではないだろうか。

しかしまだ、近いうちに映画にも取り入れられようとしているVR技術との臨場感の差は詰められずにいる。こればかりは、映画という文化の性質上仕方がないことかもしれない。それでも、今回導入したアイカメラの描写力をより高めていくことができれば、さらなる続編がVRで作られてもおかしくはないだろう。

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(文:久保田和馬)

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